【Pye】ステーキングポジションをPTとYTに分離しトークン化するプロトコル / バリデーターが条件設計されたタイムロック型ステーキング商品を提供 / @pyefinance
ステーキング運用はオンチェーン上の国債的存在になる?
おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
今日は「Pye」についてリサーチしました。
Pyeとは?
技術構成
変遷と展望
ステーキング運用はオンチェーン上の国債的存在になる?
TL;DR
Pyeは、Solanaのネイティブステーキングを基盤に、バリデーター主導で条件設計されたタイムロック型ステーキング商品を提供するプロトコルである。
ステーキングポジションを元本(PT)と利回り(YT)に分離・トークン化することで、満期付き・取引可能な金融商品として扱える点が最大の特徴である。
これにより、ステーキングは単なる報酬獲得手段から、利回り曲線を持つオンチェーン金融インフラへ進化する可能性を持つ。
Pyeとは?
「Pye」は、Solana上の次世代ステーキング基盤を提供するスタートアップであり、タイムロック型ステーキングポジションのオンチェーン取引マーケットプレイスを構築しています。
現在、SolanaでステーキングしたSOLはバリデーターにデリゲートされている間ロックされ流動性がなく、条件のカスタマイズも困難でした。Pyeはこの問題に取り組み、ステーキングをより柔軟かつ効率的にすることを目的としています。
具体的には、バリデーターが期間や報酬配分など商業条件を設定したステーキング商品を発行し、ユーザー(ステーカー)は利回り・期間・報酬構造に基づいて好みのステーキング契約を選べるマーケットプレイスを提供します。
例えば「12ヶ月間ステーキングする代わりに高い報酬率を得る」といった条件のステーキング契約をオンチェーンで実現し、ステーカーには計画的な利回りを、バリデーターには安定した預かり資産をもたらします。
加えて、ステーカーはそれぞれの預入に対して、元本と金利部分を別のトークンとして分離して取引できるようになります。
これはPendleのような利回り分離型の仕組みで、元本トークン(Principal Token / PT)と報酬トークン(Yield Token / YT)と表現されます。
つまり、これまで単一的だったステーキングをバリデーター毎にパラメーターを設定して金融商品化することが可能になり、バリデーターもステーカーはより柔軟な運用が可能となります。
実際に、Pyeのミッションは、「SolanaのPoSステーキング層をアップグレードし、バリデーターとステーカー双方にメリットのある新しい市場を作る」ことです。
数百億ドル規模にのぼるSolanaのステーキング資産は現在ほとんどがロックされ非流動的な状態にあります。Pyeはそれらを譲渡・取引可能な資産に変えることで、バリデーターが資金調達やステーク獲得をしやすくし、ステーカーは流動性や選択肢を得られるようにします。
技術構成
Pyeのステーキングメカニズムは、Solanaのネイティブなステークアカウントに追加のロジックを付加した「Pyeアカウント」という新しい仕組みに基づいています。
ただし、PyeアカウントはSolanaのネイティブなステーキング機能を拡張する形で作られており、基本的な安全性や効率はSolana本来のステーキングと同等です。
ネイティブステーキングアカウントに紐づく形で、Pye独自の「Date Structures」と「Token Account」が構築されています。
◼️Date Structures
Stake Accountと1対1で紐づくPye独自のメタデータアカウントが存在します。
この設計によって以下の3点を定義することが可能になります。
①Custom Commissions(報酬設計)
Inflation(インフレ報酬)
MEV
Block Rewards
それぞれについて:
ステーカーに何%
バリデーターに何%
あるいは固定額 or 上限付き
といった 配分ルール を明示的に定義します。つまり、「このStake Accountが生むキャッシュフローは、こう分配する」という契約条件そのものを設定できます。
②Yield Type(利回りタイプ)
Variable(変動)
通常のステーキングと同様
実際のネットワーク報酬に連動
Fixed(固定)
バリデーターが「年◯%を保証する」と宣言
実際の報酬が足りなければ自己補填
いわゆる報酬形態の設定ですが、Pyeでは可変利回り型と固定利回り型の二種類があります。
多くの従来型ステーキングと同様、基本はネットワークのインフレ率やバリデーターの手数料収入に応じた変動利回りですが、Pyeではバリデーターが固定の金利をコミットする商品を発行することも可能です。
例えば「年利10%を固定で支払う」とバリデーターが約束した場合、ステーカーが100 SOLを預ければバリデーターは各エポック毎に0.054 SOL(年利10%に相当)を追加支払いし、合計で年10%となるよう調整します。
この固定利回り型ではネットワークの実際の利回りが上下してもステーカーは一定の収益を得られる反面、バリデーターは不足分を自ら補填する義務を負います。一方、可変利回り型ではバリデーターはネットワークの報酬を所定の割合でシェアするだけなので、市場環境によってステーカー利回りは変動します。
Pyeでは両者を選択肢として提供することで、安定性を重視するステーカーとネットワーク連動のリターンを求めるステーカーの両ニーズに応えています。
③Time Lock / Maturity
ロック期間(例:6ヶ月 / 12ヶ月)
満期日(Maturity)
この3点によって、ネイティブステーキングアカウントに追加データの定義が可能となり、ステーキングを金融商品化することが可能になります。
◼️Token Account
Stake AccountとData Structureによって定義した商品(オンチェーン上の契約)をSPL Tokenとして分割表現します。
基本的には上述した通り、元本を示すPTと利回り部分を示すYTの2つに分割されます。
PT(Principal Token)
元本100SOLを表す
満期時に100SOLと交換
YT(Yield Token)
その期間に発生する利回りを受け取る権利
ユーザーがSOLを預けると、対応する数量のPTとYTが発行されます。
PTはロックされた元本SOLを表すSPLトークンで、満期になれば1 PTにつき1 SOLと交換できます。YTも同じくSPLトークンで、そのPTが満期までに生む報酬額を表します。満期時には1 YTにつき1 PTが生み出した全報酬と引き換え可能で、したがって発行時はPTとYTがペアで100%の権利を表しています。
例えば、Aliceが100SOLを2025年9月~11月まで(3ヶ月間)ステークするPye商品に預けた場合、「100PT-SEP25-NOV25」と「100YT-SEP25-NOV25」という2種類のトークンが配布されます。
Aliceさんは満期(2025年11月)に100 PTを100SOLに償還でき、同時に100YTをその3ヶ月間の実際のSOL報酬と交換できます。期間中にAliceさんがYTを売却すれば、他の誰かがその報酬受取権を引き継ぎ、Aliceさんは将来の利息分を先取りできるわけです。
PTおよびYTトークンがいずれもSolanaのSPLトークン規格で発行されることで、Solana上のDeFiプロトコルと自由に組み合わせて利用できます。
例えばAMM上で売買したり、レンディングプロトコルで担保に入れたり、ほかのデリバティブ戦略に組み込むことも技術的に可能です。
特にYTは将来の利回りそのものをトークン化したものなので、Pendleなどと同様に、利回りの先物的な価格発見に使えると期待されています。一方PTは満期が異なるごとに別トークンで流動性が分散するため、長期国債と短期国債のように利回り曲線がマーケット上で形成される可能性があります。
◼️ステーカーの利用フロー
上記はプロトコルのアーキテクチャでしたが、続いてステーカー目線の利用フローとその背後で何が起こっているのかを見ていきます。
ユーザーはSolanaの暗号資産SOLを預けることで、特定のバリデーターにステーキングします。その裏で、Pyeアカウントでは以下の処理が行われます。
ステークアカウントの作成:新たなステークアカウントが生成され、指定したバリデーターにデリゲートされます。
タイムロックの適用:そのステークアカウントに一定期間引き出し不可のロックが設定されます。ユーザーは契約した満期日までステーキングを解除できませんが、その見返りにバリデーターから報酬率アップ等の優遇を受けます。
報酬分配ロジックの設定:タイムロック付きのステークアカウントには、その期間中のステーキング報酬の配分割合(バリデーターとステーカー間の取り分)がデータとして組み込まれます。これにより、各Pyeアカウントごとに異なる報酬条件(例:バリデーターが報酬の何%をステーカーに還元するか)を実現します。
トークン化:さらに、ロックされたステークポジションは2種類のトークンに分割されて発行されます。一つは元本トークン(Principal Token / PT)で、預けたSOL元本を表し満期時に1:1でSOLに償還可能です。もう一つは報酬トークン(YieldToken / YT)で、ステーキング期間中に元本が生み出す報酬分を受け取る権利を表します。PyeではSOLをステakingする際にこのPTとRT(YT)の二つが発行され、ユーザーはそれぞれを別々に保有・売買できます。
ユーザーのリターンは、ステーキングによる通常のネットワーク報酬(インフレ報酬+バリデーターのブロック生成報酬+MEV収益など)から、バリデーターが約束した配分割合に応じて得られます。
Pyeの仕組みでは、バリデーターが自分の報酬の一部を削ってステーカーに上乗せするケースも可能であり、その分ステーカー側の利回りが向上します。
変遷と展望
Pyeの開発チームは経験豊富なブロックチェーン業界出身者によって構成されています。
共同創業者兼CEOのErik Ashdown氏は、2020年にブロックチェーンインフラ企業Covalentでエコシステム担当ディレクターを務めるなど、web3ビジネス開発の経歴を持ちます。
もう一人の共同創業者兼CTOであるAlberto Cevallos氏は、2017年から現在までイーサリアムの開発者・研究者として活動してきた技術者で、DeFi分野ではBadgerDAOの共同立ち上げにも寄与した人物です。Alberto氏はトークンエコノミー設計にも明るく、2018年には旅行プラットフォームTravala.comのトークン経済モデルを設計した経歴もあります。またMediumやHackerNoonなどにブロックチェーン関連の技術記事を多数執筆しており、技術的知見と発信力を兼ね備えた開発者です。
このようにビジネス面と技術面のエキスパート二人が中核となってプロジェクトを牽引しています。
また、PyeはSolana Labs傘下のインキュベーションプログラム「Solana Incubator」出身のプロジェクトでもあります。開発初期にSolana Foundationの支援を受けており、Solanaエコシステム内で開催されたColosseumハッカソンのDeFi部門で賞を受賞した実績があります。
資金調達面では、2025年12月に500万ドルのシード資金調達を実施しました。
このラウンドはVariant FundとCoinbase Venturesがリードし、さらにSolana Labs、Nascent、Geminiなど複数の有力企業・ファンドが参加しています。個人投資家としては、Solana共同創業者のAnatoly Yakovenko氏や、LayerZero Labs共同創業者のBryan Pellegrino氏など、業界著名人も出資者に名を連ねています。
また、ステーキング大手のEverstakeやKlin等もラウンドへ参加しており、バリデーター側のパートナーシップ構築も進んでいます。
Variantの投資発表では「PyeはSolanaに不可欠なイールドインフラになり得る」と期待が表明されており、高い期待が伺えます。
ロードマップに関して、2025年にプロトタイプ開発とクローズドアルファを実施し、その後の資金調達を経て2026年第1四半期にプライベートベータ版をローンチ予定とのことです。
共同創業者のErik氏によれば、2025年前半には限られた参加者とのクローズドアルファ運用でプロトコルの検証を行い、基本機能の調整を済ませたとのことです。
資金調達後は開発チームの拡充やプロダクトの洗練を図り、2026年Q1に招待制のプライベートベータを開始、徐々に対応バリデーターやステーキング商品数を増やしていく計画です。
独自トークンに関しては2025年末時点では情報は公開されていません。
ステーキング運用はオンチェーン上の国債的存在になる?
最後は総括と考察です。
非常に面白いプロジェクトですね。元本と利回りの分離で最も成功しているプロジェクトはPendleだと思いますが、それのステーキング版です。
これまではステーキングにおける利回りの分離やタイムロックや条件設定等の金融商品化は技術的な難しさや規制面での不確実性が存在し、ステーキング周りのDeFiはLT等のソリューションしか存在しませんでした。
なので、Pyeの提案するソリューションは非常に画期的で重要な存在になると感じます。これは単にステーキング報酬を金融商品化してトレーダーが喜ぶというものではなく、個人的にはそれ以上の意味を持つと考えています。
まず、今後ステーキング報酬は低下していきます。厳密に言えば排出されるトークン量は低下していくので、それを上回るトークン価格の上昇があれば報酬の絶対量は低減しません。ただし、チェーンが安定するに連れてステーキング報酬のインフレ率は低減していくことが確実です。これはSolanaだけでなくどのチェーンでも起こります。
ただ、そうなった場合でもステーキングは必ずしてもらう必要がありますし、バリデーター数も減ることは許されません。なぜならこの仕組みこそがブロックチェーンの分散性を担保するからです。
なので、Pyeのようなステーキング報酬を金融商品化する仕組みは、今後デフレ化するステーキング報酬の時代において、バリデーターおよびステーカーにとって非常に重要だと感じました。運用方法に工夫の余地があると努力によって運用効率を高めることができるからです。
また、PTの説明でサラッと書きましたが、以下の可能性はかなり重要なのではないかと考えています。
一方PTは満期が異なるごとに別トークンで流動性が分散するため、長期国債と短期国債のように利回り曲線がマーケット上で形成される可能性があります。
プロトコルがワークしてみないとどのようになるのかは分かりませんが、例えば、10年SOL-PT、3年SOL-PT、1ヶ月SOL-PTみたいなものが存在して、オンチェーン板の国債のように安定運用資産として機能する可能性もあります。利回りが爆発的に出るわけではないが、流動性があり確実に安全な運用ができるという存在です。
もしステーキング報酬がその位置になると、ステーキングの絶対量が減ることはなく、むしろ常に安定資産として運用され続けるので、ブロックチェーンの安全性が担保されたままになり得ます。
なので、Pyeのこの仕組みは中長期的なブロックチェーンのエコシステムにおいてかなり重要なポジションになる可能性があると、個人的には考えています。だからこそ、Solana Labsやファウンダー陣も投資しているのかもしれません。
ただ、とりあえず本リリースされた後にどのようにワークするのかをまずは見てみたいと思います!
以上、「Pye」のリサーチでした!
参考リンク:HP / DOC / X
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Author:mitsui @web3リサーチャー
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