おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
今日は「直近のM&A解説」と題して、先週発表された「OpenSea」「Pump[.]fun」「Monad」のM&Aについて解説します。
🟦OpenSeaのRally買収
🟩Pump[.]funのKolscan買収
🟪MonadのPortal買収
💬M&Aによる業界再編が進む
🧵TL;DR
直近1週間でOpenSeaがRally、MonadがPortal、Pump.funがKolscanを買収するM&Aが立て続けに発表され、web3業界の再編が加速しています。
各プロジェクトはウォレット、決済基盤、ソーシャルトレードなど明確な機能を持ち、買収により巨大プレイヤーの機能補完とチーム強化が進んでいます。
背景にはモバイル重視・金融スーパーアプリ化の潮流があり、ウォレットやデータプロバイダーの囲い込みが目立ちます。
🟦OpenSeaのRally買収
◼️Rallyの概要
🔸概要
Rallyはweb3モバイルウォレットおよびポートフォリオアプリで、旧称「Floor」。NFTを中心に始まり、現在はミームコインやトークンの追跡、トレードまで対応。
🔸機能や特徴
マルチチェーン対応(ETH, Solana など)
トークン・NFTの保有状況を一元管理
ウォッチリスト機能:他人のウォレットを追跡可能
シードフレーズ不要、ガス代の意識も不要
「友人やトレーダーをフォローする」ソーシャルウォレット設計
🔸ファウンダーとチーム
Chris Maddern(CEO):Venmo、Buttonなどの元幹部
Christine Hall(Chief of Staff):Robinhood Crypto元COO
小規模チームながら、UXに強みを持つスタートアップとして評価
🔸資金調達情報
2022年6月:800万ドルを調達(シード)
投資家:6th Man Ventures、Collab+Currency、Crypto.com、Bored Elonなど
🔸実績
2023年:10,000以上のアクティブユーザー、22,000ウォレット
2025年:月間ユーザー数10万以上
OpenSeaによる買収後、モバイルCTOとして統合
◼️OpenSeaが買収
OpenSeaによるRally買収は2025年7月8日に発表され、買収額は非公表とされています。
OpenSeaはNFTブーム沈静化後、2024年末にOpenSea 2.0を立ち上げて複数ブロックチェーンでの暗号資産(トークン)取引対応に踏み出すなど、プラットフォームの全面的な変革を進めていました。今回の買収もその戦略の一環で、Rallyのモバイルウォレット技術とデザイン思想を取り込むことで、NFT以外の暗号資産を統合し「オンチェーンのあらゆる取引を1か所で行えるユーザーフレンドリーなプラットフォーム」を目指す狙いがあります。
OpenSea共同創業者兼CEOのデビン・フィンザー氏は「誰にとってもよりアクセスしやすく魅力的なオンチェーントレーディング体験」を提供するという両社のビジョンの共鳴を強調しており、モバイル分野の強化によってweb3の普及を加速させる考えです。
今回の買収に伴い、RallyのCEOだったクリス・マドゥーン氏がOpenSeaのCTOに就任し、共同創業者のクリスティン・ホール氏もChief of Staff(経営補佐)としてOpenSea経営陣に加わる人事が発表されました。
OpenSeaは買収後の統合計画について、当面Rallyの独立アプリは現行通り提供しつつ、2025年内にもRallyの機能を取り込んだ新たなOpenSeaモバイルアプリ体験をローンチする予定です。これによりモバイル上でNFTとトークンの取引がシームレスに行えるようになり、より安全でソーシャルなデジタル資産体験の提供を目指すとしています。
🟩Pump[.]funのKolscan買収
◼️Kolscanの概要
🔸概要
KolscanはSolanaチェーン上で、トレーダーのウォレット活動をリアルタイムで分析・可視化するインフラ。特にKOLの動向監視に特化。
🔸機能や特徴
トップKOLの売買履歴、保有資産、利益損失ランキング
「誰が買ってる?」「どこで利確した?」を一目で把握
取引履歴をリアルタイムに表示するストリーム機能
トークンの追随売買(コピー取引)のための補助ツール
🔸ファウンダーとチーム
詳細な創業者情報は非公開(匿名チーム)
ソーシャルに強いUX設計とコミュニティ起点の成長
🔸資金調達情報
公表なし
独自トークン「KOL」は買収ニュースにより時価総額が一時2,200万ドルを突破
🔸実績
Solanaミームコインブーム期にアクセス爆発
Pump[.]funにより買収され、ソーシャル機能として統合へ
◼️Pump[.]funが買収
Pump[.]funは成長戦略の一環として2025年7月10日に初の企業買収を発表しました。それがSolana基盤のウォレット解析ツールであるKolscanの買収です。
取引額などの詳細は明かされていませんが、Pump[.]funは従来の「誰でもミームコインを作って売買できる場」に加え、「誰が儲かっているのか透明性を持って見える場」をも手中に収めることで、プラットフォームのソーシャル性とゲーム性を一段と強化しようとしています。
共同創業者アロン・コーヘン氏は「オンチェーンでのトレーディングはれっきとしたソーシャルスポーツだ。勝つためには然るべき集団(情報源)に従うことが重要になる」という趣旨を語っており、Kolscan買収によって「ソーシャルなインサイトを提供し取引体験をゲーム化するプロダクト」が自社エコシステムに加わることは、Pump[.]funを数億ユーザー規模の暗号版SNSへスケールさせる上で不可欠だと位置付けています。
具体的には、Kolscanのトップトレーダー可視化機能やコピー取引のための情報がPump[.]funのインターフェースに統合されることで、ユーザーはPump.fun上でリアルタイムに人気トレーダーの売買を参考にしたり、コミュニティ内でトレード成績を競い合ったりできる新しい体験が可能になります。
一方で今回の買収発表を巡っては、Kolscanの独自トークンを巡るインサイダー取引疑惑が浮上し議論も起こりました。発表直前に一部の関連ウォレットがKolscanトークンを仕込んでおり、発表後の急騰で総計300万ドル超の利益を上げていたことがオンチェーンデータから判明したためです。Pump[.]fun側はコメントを控えていますが、市場からは「内部情報の漏洩ではないか」との指摘も出ており、Pump[.]funの透明性に対する目も厳しくなっています。
🟪MonadのPortal買収
◼️Portalの概要
🔸概要
Portalは「ステーブルコイン決済をアプリに組み込む」ためのインフラを提供するweb3開発者向けスタートアップ。API/SDKで支払い機能やウォレットを提供。
🔸機能や特徴
開発者向け決済APIとMPCベースの埋め込み型ウォレット
シードフレーズ不要、安全なUX
複数チェーン(EVM系ほか100以上)に対応
B2B型でFintechや暗号企業と提携実績あり
🔸ファウンダーとチーム
Raj Parekh(前CEO、Visa Crypto出身)→ Monadに移籍
Parssa Attari(現CEO)
David Sklavounos(CTO)
Rami Shathit(COO)
🔸資金調達情報
2023年:530万ドル調達(シード)
投資家:Haun Ventures、Acrew、Chapter One、Slow Ventures
個人投資家:Plaid創業者、Brex創業者、Anchorage創業者など
🔸実績
数百万ドル規模のステーブルコイン決済を日次処理
100+ブロックチェーン対応のAPIが評価
Monadの高スループット基盤と統合へ(決済特化チェーン化)
◼️Monadが買収
2025年7月9日、レイヤー1ブロックチェーン「Monad」の開発母体であるMonad FoundationはPortal Labsの買収を発表しました。
買収額など具体的条件は非公開ですが、Portalは買収後もMonad Foundation傘下の独立事業体として存続し、共同創業者のパルサ・アッタリ氏(CEO)、デビッド・スクロボニア氏(CTO)、ラミ・シャハティト氏(COO)が引き続き経営を担う体制が取られます。一方、前CEOのラージ・パレク氏はMonad Foundationに参画し、「Head of Payments and Stablecoins(決済・ステーブルコイン責任者)」としてMonad上でのステーブルコイン戦略を主導する役割に就任しました。
この買収の狙いは、高性能ブロックチェーンであるMonad上でステーブルコインとオンチェーン決済のエコシステムを加速することにあります。MonadはEVM互換の新興L1で、テストネット上で毎秒1万件超の取引を捌き累計20億件以上のトランザクションを処理する高スループットを実証しており、「将来的に数億人規模のユーザーが日常的にステーブルコインを利用する世界」を見据えて開発されています。
そこに、多数チェーン対応のウォレット・決済インフラであるPortalを組み合わせることで、送金手数料は1回あたり数ペニー以下、1日あたり数億件の決済に耐えうる次世代のグローバル決済ネットワークを構築しようという戦略です。
「ブロックチェーンにおけるペイメントこそキラー用途だ」とMonad共同創業者のキオン・ホン氏は語っており、今回の買収によって企業や開発者が安価で高速なステーブルコイン決済を自社サービスに組み込むためのツール群が大きく強化されるとしています。
今後の統合計画としては、Portal側は引き続き主要なマルチチェーン対応ウォレットSDK開発に注力しつつ、今年後半に予定されるMonadメインネットへの対応を進める見通しです。Monad FoundationはPortalとの連携チームを新設し、ステーブルコイン発行体や決済事業者、Web2企業への働きかけを強めることで、自社チェーン上でのステーブルコイン流通・決済トランザクション獲得を加速すると述べています。
💬M&Aによる業界再編が進む
最後は総括と考察です。
ここ1週間で有名プロジェクトによるM&Aが3件も実施されました。いずれも金額は非公開なのでインパクトは分かりませんが、機能統合とチームの参画によって、それぞれのプロジェクトの狙いが見て取れます。
少し前にもweb3AuthとPrivyという2大WaaSがM&Aされましたが、ここ数ヶ月でM&Aによる業界再編が進んでいます。
これは業界全体の成熟が進んできたことを意味します。具体的には安定した収益を持つ巨大なプレイヤーの存在、そして一定のビジネスモデルと勝ち筋の発見によって自社に足りない機能を可視化しやすくなったことが挙げられます。
例えば、OpenSeaのRally買収はウォレットを含むトークン売買における機能を、MonadはWaaSとステーブルコイン決済基盤を手に入れました。
大きなトレンドとしては、「ウォレット&ステーブルコイン基盤」「ソーシャル要素」「データプロバイダー」系が巨大プラットフォーマーによって買収されていく流れが強い気がします。
この背景にはモバイルへの移行が存在しており、多くのプレイヤーがモバイルアプリに注力し、そのアプリを金融スーパーアプリにしようとしています。
M&Aが進むと業界としては資金が循環するので、より発展が進みます。ただ一方で巨大プレイヤーの寡占も進みます。この辺りがブロックチェーン領域でどうなるのか分かりませんが、強いプレイヤーがより盤石になっていくトレンドは続くと思います。
とはいえ、M&Aの波は今後も続くと思いますし、M&Aした際の発行されていたトークンの取り扱いに関しても一定のコンセンサスを持つ事例が出てくるように思います。今後も業界全体の観点からもリサーチを続けていきます!
以上、「直近のM&A解説」レポートでした!
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