【Stripeのweb3戦略】明確なビジョンに基づく参入戦略と変遷、買収戦略を解説
9月3日に開催されたStripe主催の年次カンファレンス「Stripe Tour Tokyo 2025」に行ってきました。
おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
今日は「Stripeのweb3戦略」についてリサーチしました。
✈️Stripe Tour Tokyo 2025行ってきた
🚩変遷と提供プロダクト群
💬明確なビジョンに基づく参入
🧵TL;DR
カンファレンス所感:テーマは「AI × ステーブルコイン」。AIエージェントや動的課金の基盤はステーブルコインになるという示唆。
日本の提供状況:Stablecoin Financial Accountsは「100+か国対応だが日本は未対応」—理由は戦略ではなく規制と明言。
戦略の変遷:2014–18年BTC決済→撤退の教訓を経て、21年再参入はUSDC特化・高速チェーン活用・B2B/開発者集中。Bridge(’24)/Privy(’25)買収と独自L1「Tempo」構想で内製化を推進。
✈️Stripe Tour Tokyo 2025行ってきた
9月3日に開催されたStripe主催の年次カンファレンス「Stripe Tour Tokyo 2025」に行ってきました。ありがたいことにメディア枠で招待いただき、全体カンファレンスの後にメディア関係者だけのQAタイムもいただきました。
特に記事を書くという契約や報酬は一切ないのですが、Stripeはかなり本気でweb3に力を入れているので、この機会に改めて整理してみました。
まず、写真を幾つか貼って、その後は通常のリサーチ記事です!
↓Bridge担当者のプレゼン
今回のテーマもAIとステーブルコインでした。単純に決済インフラであるStripeにステーブルコインは欠かせないものですし、今後AIエージェントが自律的に稼働して買い物したり、より動的な課金がインターネット上で発生するようになると、その基盤はステーブルコインになっていくはずだと言及されていました。
ちなみに、メディア関係者限定のQA会では、「Stripeが今年発表したStablecoin Financial Accountsは100カ国以上に対応していますが、日本が入っていません。これは規制上の理由ですか?戦略上ですか?」と質問しました。
即答で「規制上の理由」とのことでした。重要なマーケットとして見ているが、規制上の理由で提供ができないとのことです。
では参加してきた感想はこの辺で、以下はStripeのweb3戦略の変遷や展望になります。
🚩変遷と提供プロダクト群
初期の試行錯誤(2014-2018年)
Stripeのweb3への取り組みは、実は10年以上前に遡ります。2014年、同社は業界の先駆者として初めてビットコイン決済の受け入れを開始しました。しかし、2018年にサービスを停止することになりましたが、その理由は明確でした。
高い取引手数料
遅い確認時間
価格の激しいボラティリティ
この経験は、Stripeにとって決済ネットワークにとって予測不可能な取引コストとボラティリティは受け入れられないという教訓を得るきっかけとなりました。
再参入(2021年以降)
2021年、Stripeは暗号資産市場への再参入を果たしましたが、今度は前回とは異なるアプローチを採用しました。
ステーブルコインへの特化:価格変動リスクを排除したUSDC中心の戦略
スケーラブルなネットワーク活用:PolygonやSolanaなどの高速・低コストチェーンに対応
B2Bインフラに集中:消費者向けではなく、開発者・企業向けソリューションに注力
2021年10月、Guillaume Poncinが率いる専門の暗号資産チームが設立されたことで、この新しい戦略的推進が正式に始動しました。
戦略的買収と連携
Stripeは「Buy and Build」戦略を通じて、web3スタックの最も重要な部分を内製化しています。
🔸Bridge買収(2024年10月、11億ドル)
ステーブルコインインフラプラットフォームであるBridgeの買収は、Stripeの戦略において画期的な意味を持ちます。
ステーブルコイン金融口座の技術基盤を獲得
クロスボーダー資金移動の合理化を実現
🔸Privy買収(2025年6月)
組み込み型ウォレットインフラの主要プロバイダーであるPrivyの買収により以下の機能を実現しました。
web3ユーザビリティの根本的改善を実現
複雑な外部ウォレット管理の必要性を排除
シームレスなオンボーディング体験を提供
独自L1チェーン構築
そして、現在暗号資産VCのParadigmとの提携による「Tempo」と呼ばれる独自のレイヤー1ブロックチェーンの構築をしています。
技術的特徴:
高性能で決済に特化したブロックチェーン
ゼロから構築(フォークではない)
EVM互換性があるため、開発者が容易に採用可能
提供プロダクト群
これらの変遷と買収を経て、Stripeの現在のweb3製品は、以下の4つの柱で構成されています。
1. Fiat-to-Crypto Onramp(ゲートウェイ機能)
埋め込み型ウィジェット:約10行のコードで統合可能
Stripeホスト型オンランプ:ノーコードソリューション
包括的コンプライアンス:KYC、不正防止、規制対応をワンストップ提供
2. Global Stablecoin Payouts(グローバル決済)
Stripe Connect拡張機能として提供
プラットフォーム自体は暗号資産を保有・管理する必要なし
120カ国以上への展開を目指す
3. Pay with Crypto(暗号資産決済受付)
ステーブルコイン(USDC、USDP)を法定通貨で決済
チャージバックリスクなし
新規顧客獲得率2倍の実績
4. Stablecoin Financial Accounts
ドル建てステーブルコイン残高の企業向け口座
伝統的金融レールと暗号資産レールの両方に対応
101カ国の企業がベータ版に登録
◼️参入理由
Stripeの戦略の根底には、共同創業者パトリック・コリソンとジョン・コリソンが明確に示してきた哲学があります。それは「お金の基本的な使いやすさ(basic usability of money)の向上」こそが技術的進歩の本質であり、ステーブルコインはその進化における次の論理的ステップだというものです。
ステーブルコインが既存の貨幣と比較して持つ4つの重要な特性
より安価:国際送金手数料の大幅削減
より高速:24時間365日のリアルタイム決済
分散型でオープンアクセス:初日からグローバルに利用可能
プログラマブル:自動化された金融ロジックの実装が可能
このビジョンは、「インターネットのGDPを成長させる」というStripeの包括的な使命に直接結びついており、新興技術だからブロックチェーンに注力しているのではなく、常に考えてきたことがブロックチェーンで実現できると信じているわけです。
また、Stripeは消費者向けの投機的な商品を提供するのではなく、B2Bインフラと開発者向けの製品を提供することに焦点を当てています。
元暗号資産責任者のGuillaume Poncinは、web3開発の現状を、決済の受け入れが非常に困難だった2000年代の「eコマースの初期」に明確になぞらえ、既存機能を使いながら、以下のような課題を解決することを目指しています。
既存の中核能力の活用:不正防止(Radar)、本人確認(Identity)、グローバルコンプライアンス、世界クラスのAPI
web3特有の課題への適用:KYC、オンランプ、制裁スクリーニングなど
複雑さの抽象化:開発者が暗号資産の複雑性を意識せずに済むソリューション
💬明確なビジョンに基づく参入
最後は総括と考察です。
改めて整理してみると、Stripeは明確なビジョンに基づいてweb3に参入していることがわかります。しかもそれは、流行りの技術だからではなく、当初から実現したいと考えていた世界観が新興技術によって成し遂げられるという理想的な状況です。
今回Stripeのカンファレンスに行った際も大きなテーマはAIとステーブルコインで、かなり長い間ステーブルコインについて言及していたので、この先のインターネット上の決済はステーブルコインがベースになり、法人間のやり取りもステーブルコインになっていくのだと感じました。
また、特徴的なのは、Stripeは明確にブロックチェーンに注力していますが、クリプト系のカンファレンスにはあまり出展していません。ここもあくまで既存事業のアップデートの先に、しかも既存事業者が複雑なUXとならないようにブロックチェーンを組み込んでいくという意思も感じます。
そのためにBridge、Privyを買収し、インフラの整備を整えてきました。ただ、ココまで速いスピードで買収からプロダクト内への反映をできるスピード感もすごいなと思いました。
ただ、やはり残念なのは100カ国以上に導入されているステーブルコイン口座など、Stripeが提供するブロックチェーン系のプロダクトのほとんどが日本では使えないことですね。
これが使えると法人間の送金や受信をStripe口座でステーブルコインでできて、そこからオフランプすることもできるので、かなり身近になるはずです。ここは今後実現すると良いなと思っています。
今後、特に独自ブロックチェーンが公開された際には改めて記事にしていきたいと思います。
以上、「Stripeのweb3戦略」でした!
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