【Flipcash】Solana上に構築されたデジタル送金アプリ / USDCを即座に無料で送金 / SECによって頓挫したファウンダーによる2度目の挑戦 / @flipcash_app
日本でもダウンロードできました。
おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
今日は「Flipcash」についてリサーチしました。
💰Flipcashとは?
👤SECによって頓挫したプロジェクトオーナーによる2度目の挑戦
💬デジタルキャッシュを作る挑戦
🧵TL;DR
FlipcashはSolana上で動作し、USDCステーブルコインを使ってQRコードのスキャンのみで国際送金を即時無料で行えるデジタル送金アプリです。
アプリは「Cash」「Balance」の二つのボタンで構成され、直感的なUIと150円程度の初回登録手数料で誰でも簡単に利用開始できます。
送金はVM上で一時処理されるためプライバシーが保護されつつ、不正検知も可能な設計で、リンク送金やQRコード送金に対応しています。
創業者Ted Livingston氏はKik/Kinプロジェクトの経験を踏まえ、価格変動リスク排除や規制対応の教訓を活かし、「現金感覚」で使えるグローバル決済インフラを目指しています。
💰Flipcashとは?
「Flipcash」は、Solanaブロックチェーン上に構築されたデジタル送金アプリです。
物理的な現金を手渡しする感覚をそのままデジタル化することを目指しており、スマートフォン同士をかざしてQRコードを読み取るだけで即座に送金が完了します。
送金手数料は一切かからず、送金速度はマイクロ秒単位(実質リアルタイム)で「常に瞬時かつ無料」を実現しています。通貨はステーブルコインであるUSDCが使われており、暗号資産の価格変動リスクを排除することでユーザーにとって馴染みやすい安定した価値を提供しています。
また「あらゆる国のあらゆる通貨」に対応すると謳われており、アプリ内で自動的に為替換算・両替が行われるため国際送金時にも追加コストやレート差損が生じません。
主な特徴をまとめると次のとおりです。
簡単・直感的な送金:送金時に相手の電話番号やメールアドレスなどを入力する必要はなく、現金を手渡すように自分のスマホ画面に表示されるコードを相手にスキャンしてもらうだけで完了します。
高速かつ無料: Solanaブロックチェーンの高性能により、送金は遅延なく即時に実行されます(体感的に遅れゼロ)。ブロックチェーン上の送金手数料(ガス代)も発生せず、国内・国際を問わず常に無料で利用できます。
USDCによる安定通貨:アプリ内残高はUSDCで管理されます。独自暗号通貨ではなくUSDCを採用することで、暗号資産特有の価格変動による価値目減りの心配がなく、ユーザーは法定通貨と同じ感覚で扱えます。
グローバル対応・自動為替:国や通貨の壁を意識せずに利用できるよう設計されています。アプリ上で表示通貨を任意の法定通貨に切り替え可能で、異なる通貨間の送金時にはバックグラウンドで自動両替が行われます。この際にも手数料やレート差は発生せず、送金額どおりの価値がそのまま相手に届きます。
シンプルなUI: アプリの画面構成は「キャッシュ(Cash)」と「残高(Balance)」という2つのボタンが中心の極めてシンプルなものです。誰でも直感的に操作でき、複雑なウォレットアドレスの入力や暗号技術の知識を必要としない点で、現金感覚の使い勝手を追求しています。
2025年6月10日にIOSとAndoroidの双方でアプリとしてリリースされました。
日本でもダウンロードできたので、ダウンロードしてみました。
まずアカウント登録画面ですが、一般的なウォレットと同じようにシードフレーズが提示されます。特徴的なのはアカウント登録時に150円の手数料がかかる点です。Apple Payから直接支払いができました。(当初、これは$20ほどかかり、その分のUSDCが付与されるという形だったみたいですが、現在ダウンロードしてみたところ約1ドル分の手数料だけがかかる形になっていました)
機能はシンプルで送るかウォレット残金を確認するか、以外にやることはありません。特徴は日本でダウンロードしたので日本円に表記されている点でしょうか。この国は変更できます。また、資金を入金したい際はこのアドレスに送金する形でした。
また、対面で会ってるときはQRコード送金ですが、遠く離れた相手にもリンクでの送金が可能です。
このやり方はFliccashのマーケティングにも利用されていました。Xでリンクを公開し、先着で誰かが受け取れるというものです。
また、Flipcashではユーザーのプライバシー保護と取引の透明性確保のバランスに細心の注意が払われています。例えば完全な匿名送金ではなく、全取引を一旦Flipcash内の「仮想マシン(VM)」上で処理してからブロックチェーンに記録する設計を採用しています。
これにより外部から個々の取引の詳細を追跡しづらくする一方、必要に応じてサービス側で不正検知やセキュリティ対策を講じることができます。「高度な専門家であれば突き止められる可能性はゼロではないが、プライバシー向上は今後も継続的に取り組む目標だ」とチームはコメントしています。
👤SECによって頓挫したプロジェクトオーナーによる2度目の挑戦
Flipcashを運営するのはアメリカロサンゼルスに位置するFlipchat Inc.という企業です。もともと本サービスのプロジェクト名は「Code」と呼ばれており、「Flipchat」という名称に変更となり、本リリースに至りました。
ファウンダーは、カナダ出身の起業家であるTed Livingston氏であり、かつて若者向けメッセージングアプリ「Kik」を創業し、同アプリをわずか15日で100万ユーザーに到達させるなど急成長させた実績を持つ人物です。
「Kik」はTelegramのように匿名性を売りにしたメッセージングアプリで一時評価額10億ドル規模に達した有名スタートアップでしたが、その後独自トークンKinを巡る米証券取引委員会(SEC)との法的紛争を経て事業を終了しています。
その後に「Flipchat」を立ち上げることになるわけですが、この変遷にもドラマがありますのでもう少し詳しく説明していきます。
◼️Kik立ち上げ
Ted Livingston氏は1980年代後半生まれのトロント出身で、幼少期からロボットやレゴへの関心を示していました。2005年にウォータールー大学に進学してメカトロニクス工学を専攻しますが、在学中にBlackBerryで知られるリサーチ・イン・モーション(RIM)社でのインターンを経験した後、起業の道を選び大学を中退しました。
2009年、同大学のインキュベーションプログラムVelocityに参加し、Kik Interactive社を創業、2010年にはモバイル向けメッセージングアプリ「Kik Messenger」をリリースしました。
Kik Messengerは、スマートフォン向けの無料チャットアプリであり、テキストメッセージや写真・動画の共有、ボットとの対話などが可能なプラットフォームです。電話番号登録が不要でメールアドレスと名前だけで匿名アカウントを作成できる点が特徴で、プライバシーを重視する若年層ユーザーに支持されました。
Kikはサービス開始からわずか15日で最初の100万人ユーザーを獲得し、当時史上最速の成長速度を記録しました。その後も主に10代の若者を中心に利用者を急増させ、2015年時点で登録ユーザー数は2億7,500万を超え、米国のティーンエイジャーの約40%が利用していたと言われます。
この成功によりKik Interactive社は評価額10億ドル超の「ユニコーン企業」となり、中国のIT大手Tencentから5,000万ドルの戦略的投資を受けました。Livingston氏個人もその功績が評価され、2014年のForbes「30 Under 30」テクノロジー部門に選出されるなど各種メディアで注目を集めました。
◼️Kikにおける暗号資産プロジェクト「Kin」の立ち上げ
2010年代半ば、Kikは巨大ユーザーベースを獲得したものの、収益化モデルの模索という課題に直面していました。競合のSNSやチャットアプリが広告収入を主軸とする中、Kikはプライバシー重視の理念から安易にユーザーデータを広告ビジネスに用いることを避けていました。
Kikは利用者の個人情報を収集・販売しない方針を掲げており、メッセージもサーバーに保存せず即時削除する設計になるなど、匿名性・プライバシー保護が支持された要因となっていました。
この状況を打開するため、Livingston氏は独自の暗号資産を用いた分散型エコシステム構想を打ち出しました。
まず2014年には、ブロックチェーン未使用の実験通貨「Kik Points」をKikアプリ内で導入し、ユーザーがポイントを獲得・消費できる仕組みをテストしました。その結果、開始当初から1日30万件以上のポイント取引が発生し、テスト終了時には1日あたり約200万件ものポイント送受信が行われるようになるなど、ユーザーによる小口決済需要が確認されました。この成功を踏まえ、Kikは本格的な独自暗号資産の発行に乗り出します。
2017年9月、Kik Interactive社は暗号資産「Kin」を発表し、ICOによる資金調達を実施しました。ICOでは約168,732 ETH(当時のレートで約9,750万ドル)相当の資金を世界117か国・1万人以上の投資家から調達し、1億ドル近い大型販売となりました。
Kinの発行総量は最終的に10兆トークンと設定され、Kik社自身も運営費用確保のため発行体として相当量のKinを保有しました。
Kinプロジェクトの目的は、Kikアプリ内および将来的には外部の提携アプリ上で、ユーザーがコンテンツ制作者へ数円~数十円程度の少額報酬を直接支払える経済圏を築くことでした。具体的には、ユーザーが好きなデジタルコンテンツ(記事、イラスト、スタンプ等)に対してKinでチップを払ったり、逆に広告視聴やアンケート回答によってKinを稼いだりできるようにし、中間業者を介さず「コンテンツ制作者と消費者を直接つなぐ通貨」とする構想でした。
Kinの管理・普及促進のためにKin Foundationという非営利団体も設立され、Kik社から独立した形でトークン経済圏の整備が進められました。
しかし、Kinプロジェクトは発足直後から規制当局との軋轢に直面しました。2018年には米国証券取引委員会(SEC)がKinトークンの法的性質について調査を開始し、翌2019年6月にはSECが正式にKik Interactive社を証券法違反(無登録証券の販売)で提訴しました。
SECは訴状の中で「Kinトークンは事実上の投資契約証券であり、適切な登録なしに一般投資家に販売された」と指摘し、Kik社が行った約1億ドルのICOは連邦証券法に違反する未登録証券の発行に当たると主張しました。
これに対しLivingston氏は一貫して「Kinは通貨であり証券ではない」と反論し、同年には仮想通貨業界と協力して「Defend Crypto」と称する法的防衛基金を立ち上げるなど、SECとの全面対決の構えを見せました。Kik社はSEC側の主張を詳細に論破する30ページの回答書を提出し、法廷で争う決意を表明しましたが、2020年9月、米連邦地裁はSECの申し立てを認め、Kinトークン販売は証券の非登録発行に該当するとの判断を下しました。
この判決を受けてKik社は翌月、SECとの和解に合意します。その内容は、Kik社が5百万ドルの罰金を支払い、今後3年間はいかなるデジタル資産の売却・発行を行う場合も事前にSECへ通知すること、そして将来同様の違法行為を行わないよう永続的差し止め命令に従うこと、というものでした。
この結果はKik社側にとって大きな打撃であり、調達資金の大半が法的費用と罰金で失われた上、暗号資産ビジネスにおいてアメリカ規制当局から睨まれる格好となりました。
Livingston氏自身も「我々のケースは詐欺ではなく証券登録の技術的な問題に過ぎないのに、これほどの犠牲を強いられた」と主張し、SECの対応に強い不満を表明しています。
◼️Kik売却
SECとの法廷闘争が激化する中で、Kik社は事業継続のため苦渋のリストラ策を実行しました。2019年9月、Ted Livingston氏は同社公式ブログで「Kikメッセージングアプリを閉鎖し、従業員の約80%を解雇する」計画を明らかにしました。
これは長期化するSEC裁判に備えて資金消耗を抑えるための措置であり、同氏は「これらの変更により我々のコスト消費を85%削減でき、手元資金で裁判終了まで戦い抜くための態勢が整う」と述べています。
この発表により、月間数百万人が利用していたKik Messengerは事実上サービス終了の危機に瀕し、約100名いた社員もわずか約19名の最小チームへ縮小されました。
その中でも、Livingston氏は「たとえKikがどうなろうとも、Kinは存続する」と述べ、たとえメッセージング事業を手放すことになってもKinエコシステム拡大の使命は続行する決意を示しました。実際、2019年時点でもKinトークンを組み込んだ外部アプリは約60種存在しており、一定の分散型エコシステムが構築されていることが報告されています。
幸いなことに、Kik Messengerそのものは完全消滅を免れました。閉鎖発表から数週間後の2019年10月、ロサンゼルス拠点の持株会社MediaLabがKik事業を買収し、サービスを継続する意向を表明しました。MediaLabは買収発表に際し「Kikはここに留まる」とコミュニティに呼びかけ、サービスの安定運営とスパム対策の強化、近い将来にはプラットフォーム収益のため広告導入も計画していることを明らかにしました。
この買収によりKik Messengerは存続することになりましたが、Livingston氏はメッセージング事業を完全に手離すことになりました。後にLivingston氏は、このMediaLabへの売却が「企業評価額からすれば二束三文だった」とコメントしており、SECとの争いが招いた企業価値毀損の大きさを示唆しています。
◼️Kinの存続
一方、Kinプロジェクトは法的問題とKik本体の弱体化により当初の勢いを失ったものの、コミュニティ主導で存続する道が模索されました。
Kik Interactive社は2022年、Kin関連の知的財産や技術資産を新設の非営利団体に譲渡し、残存社員(Livingston氏自身を含む)もそちらに移籍させる形で事業の大規模転換を行いました。この移行でKik Interactive社自体は従業員ゼロの持株会社となり、Kinトークン発行元として全体の約30%のKinを保有するのみの存在になりました。
こうして設立された組織がCodeと呼ばれるプロジェクトで、Kinの理念を引き継ぎつつ新たな決済プラットフォーム開発に取り組むことになります。
このCodeはFlipcashの前身にあたり、Kinで実現しようとした分散型マイクロペイメントのビジョンを実現しようとするプロジェクトです。
2023年に仲間と共にFlipcash社(旧称:Code)を正式に創業し、2024年2月には著名VCから650万ドルのシード資金を調達し、本格的にプロダクト開発と市場投入を進めます。
Flipcashのビジョンは単なる送金アプリではなく、インターネット上の価値交換の在り方そのものを変革することにあります。
Livingston氏は「Flipcashによってサトシ・ナカモトが描いたピア・ツー・ピア電子マネーの夢をついに実現したい」と述べており、自らの長年の挑戦の集大成として本プロジェクトに取り組んでいます。
このように一連の流れを見ると、単なる送金アプリではなく、10年ほどの試行錯誤の結果辿り着いた挑戦のプロジェクトであることがわかります。
💬デジタルキャッシュを作る挑戦
最後は総括と考察です。
最初は面白そうなプロジェクトだと思ってリサーチし始めたプロジェクトでしたが、その背景には想像以上のドラマがありました。
当時のICOバブルの最中には多くのプロジェクトがSECによって停止に追い込まれ、サービス自体の存続が危ぶまれていました。今勢いのあるTelegramも同様に匿名のメッセージングサービス×トークンエコノミクスという構想でICOしましたが、SECによって停止に追い込まれ、一時TONの存続は危ぶまれていました。
TONはそこから有志が運営を続け、数年の時を経て改めてTelegramとの関係を強化したわけですが、まさにKikとKinも同じような課題に直面していました。
ここは超個人的な予測ですが、同様の構想でTelegramが生き残ったのは地理的な側面も大きいのかなと思いました。Kikはカナダ人のファウンダーでアメリカを主マーケットとしていましたが、Telegramはロシア系のファウンダーでその後ドバイにおり、ロシアや中東などがマーケットでした。なので、SECの近さという面でも違いがありそうです。また、Telegramは最近になって収益化を始めましたが、その前はファウンダーの個人的な資金を使いながら運営していた(はず)ので、資金的な余裕という違いもあったのかもしれません。
ただ、そこから折れずにメッセンジャーの方向ではなくブロックチェーンの方向で挑戦を続けている姿勢はすごいと感じます。P2Pのデジタルキャッシュを作るという挑戦で、既存の送金ソリューションよりも安く早くどの国でも誰にでも送れるというのがブロックチェーンの良さなので今後の発展がとても楽しみです。
以上、「Flipcash」のリサーチでした!
🔗参考リンク:HP / X
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