おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
今日は「暗号資産市場下落の理由」というテーマで記事を書いていきます。
先週はDeepSeekショックで市況が悪化し、今週はトランプ大統領のメキシコとカナダと中国への関税導入決定を受けての価格下落と見られていますが、なぜ関税が導入されると暗号資産の価格が下落するのでしょうか。
この記事ではその基礎を解説します。
細かく言えば経済の状況は非常に複雑に絡み合っているので一要因で説明はできませんが、概略が理解できるように簡易化して説明しますので、あくまで入門記事としてご覧ください。
関税の導入決定
関税とは何か? どうして経済に影響を与えるのか
関税引き上げ → インフレにつながる理由
インフレ懸念 → 利上げ期待が高まる
利上げ期待が高まるとなぜ暗号資産が下落するのか
まとめ:関税決定から暗号資産価格下落までの流れを整理
今後はどうなる?
関税の導入決定
まずはニュースから説明すると、トランプ大統領が2月1日、カナダとメキシコからの輸入品に対して25%、中国には10%の追加関税を課すことを発表しました。
カナダからのエネルギーは10%にするなど、細かい差はあれど、大枠として隣国からの輸入品に関税をかけることを決定しました。
この関税決定の背景には、アメリカ経済を守る(貿易赤字の解消やアメリカ企業の影響力向上)ことや各国との交渉カードに利用したいという思惑があると言われています。(この辺りの専門的な解説は経済メディアをご覧ください。)
で、この結果を受けて日経平均株価も一時、1100円以上値下がりしており、何よりも暗号資産の市況が著しく悪化しています。
24時間で13%以上の時価総額が下落しており、特にETHの下落は著しいです。
なぜ関税が導入されると暗号資産の価格が下がるのでしょうか。基本的な用語と共に1つずつ解説していきます。
関税とは何か? どうして経済に影響を与えるのか
関税とは、「他国から商品を輸入するときにかけられる税金」 のことを指します。たとえば、アメリカがメキシコから自動車部品を輸入するとき、一定割合の税金を上乗せして徴収する仕組みです。アメリカ国内に輸入された商品は、この関税が上乗せされた価格で流通することになります。
各国が関税をかける主な目的は以下のとおりです。
自国産業の保護
海外から安い商品がどんどん入ってくると、自国企業が国内で生産した商品が売れにくくなります。そこで、輸入品に税金を上乗せすることで、価格競争力を調整し、国内産業を守ろうとするわけです。
国家の財源確保
関税によって国の税収が増えます。ただし、現代では大きな財源になることは少なく、主に保護政策や外交カードとして使われることが多いです。
アメリカがメキシコやカナダなど、貿易上重要なパートナーに対して関税を引き上げると、輸入される商品価格が高くなります。たとえば、メキシコ産の農産物やカナダ産の金属製品などが対象になれば、それらを使っているアメリカ国内の企業は仕入れコストが上がり、結果的に販売価格を引き上げる必要に迫られるかもしれません。
こうして「物価上昇(インフレ)」につながる可能性があることが、今回のトピックの重要な鍵となります。
関税引き上げ → インフレにつながる理由
輸入コストの増加が物価を押し上げる
前述のとおり、関税が高くなると、海外からの輸入品に上乗せされる税金が増えます。企業は多くの場合、その増えたコストを商品の販売価格に転嫁せざるを得ません。つまり、商品やサービスの最終的な価格が上がる 可能性が高くなります。
例えば、自動車を製造するのに必要な部品が海外から多く入ってくる場合、それらの部品が関税対象なら製造コストは上昇します。そして自動車メーカーはこのコストを自社で全部負担するわけにもいかないため、最終的には新車の販売価格を上げて消費者に転嫁するケースが増えます。これがインフレ圧力です。
インフレとは何か、なぜ問題か
インフレ(インフレーション) とは、「物やサービスの価格が継続的に上がり続ける状態」です。ある程度のインフレは景気が良いサインでもありますが、急激なインフレは人々の購買力を奪い、経済活動を不安定化させるリスクがあります。特に、物価がどんどん上がる一方で給与が追いつかないと、生活にかかる費用が増えてしまい、多くの人が困る状況になってしまいます。
中央銀行(アメリカの場合はFRB: 連邦準備制度理事会)は、インフレが行き過ぎないようにコントロールする使命を担っています。そのコントロール手段の一つが「金利の調整」 です。
インフレ懸念 → 利上げ期待が高まる
金利を上げるとどうなるのか
利上げとは、平たく言えば「お金を借りるコストを上げる」ことです。FRBが政策金利を引き上げると、市中銀行や貸し出し金利も連動して上がるので、企業や個人が資金を借りづらくなります。
• 企業の例
新工場を建設しようとするとき、銀行から資金を借りるコストが上がれば、投資計画を先延ばしにするか縮小する可能性が高まります。
• 個人の例
住宅ローンや自動車ローンの金利が高くなれば、家や車を買うハードルが上がります。
なぜインフレを抑えられるのか
「モノやサービスを買う、あるいは生産するためにお金を使う量が減る → 需要が冷え込む → 価格を上げにくくなる」という流れによって、インフレ(物価上昇)を抑え込む効果があります。つまり、利上げは経済の加熱(過度なインフレ)を防止するためのブレーキと言えます。
このとき、関税で物価が上がりそうだという懸念が生まれると、投資家や市場関係者は「FRBが物価を安定させるために利上げを早めるかもしれない」と考えます。これがいわゆる「利上げ期待の高まり」です。
利上げ期待が高まるとなぜ暗号資産が下落するのか
安全資産の魅力が増す
金利が上がれば、国債や定期預金など「安全資産」と呼ばれる金融商品がより高い利回りを提供するようになります。投資家にとっては、「わざわざ暗号資産のような価格変動が大きい資産に投資しなくても、安定して金利をもらえる商品があるなら、そちらにお金を置きたい」という心理が働きやすくなります。
リスク資産が売られる
暗号資産は株式などと同じく、「リスク資産」に分類されることが一般的です。価格変動が大きく、値上がりすれば大きなリターンが得られる一方、値下がりすれば損失も大きくなる可能性があります。金利が低い局面(お金が借りやすい局面)では、投資家が「リスクを取っても大きく儲けたい」と思いやすいため、暗号資産に資金が流れやすい傾向がありました。
ところが、利上げが視野に入ると、「リスクを取る必要はない、もっと安全に運用できる手段が増えた」と判断され、暗号資産を売却して、国債や預金へ資金を移す動きが広がりやすいのです。この結果、暗号資産の価格が下落しやすくなります。
レバレッジ取引におけるコスト増
暗号資産の市場では、レバレッジ(証拠金取引)を利用して取引量を大きくする投資手法が盛んです。しかし、借り入れコストが上がる(利上げが予想される)環境下では、レバレッジをかけた投資がしにくくなるため、短期的な投資資金が撤退しやすいことも、下落を後押しする要因の一つです。
まとめ:関税決定から暗号資産価格下落までの流れを整理
少し難しかったかもしれませんが、改めて今回のトピック「アメリカがメキシコやカナダからの輸入に対して関税をかけると発表した → 暗号資産が下落した」という流れを整理してみます。
関税引き上げ発表
・メキシコやカナダからの輸入コストが上がる
・米国内で製品やサービスの価格上昇圧力(インフレ懸念)が強まる
インフレ懸念から利上げ期待が高まる
・「FRBが物価を抑えるために金利を引き上げるだろう」という市場の見方が強まる
利上げ期待 → 安全資産が魅力的になる → リスク資産が売られる
・債券・預金の利回りが上昇、暗号資産の投資メリットが相対的に薄れる
・レバレッジ取引コストも増大し、投資家がリスクオフモードに移行
暗号資産の価格下落
・資金が暗号資産市場から流出しやすくなり、価格に下押し圧力がかかる
このように、一見すると「関税と暗号資産」の関係は直接的には結びつきが薄そうに見えますが、物価上昇 → 金利上昇 → リスク資産売りという経路を通じて、結果として暗号資産が影響を受けるというのが基本的な考え方です。
※最初にも注意書きした通り、だいぶ簡易的に書いています。
今後はどうなる?
さて、最後は感想と考察です。
感想としては暗号資産業界全体が大きく下落したことはびっくりしましたが、あまり短期的な下落に対しては一喜一憂せずにしています。
このニュースレターでも価格下落については基本は触れないのですが、暗号資産の価格下落のロジックという観点で自分も金融や経済に関しても勉強したかったので、解説することにしました。
僕は経済や金融は専門家ではないので今後の動向に関してもそこまでわかりません。ただ、マクロ的に見ればここまで暗号資産業界からの支援を受けて当選したトランプ大統領がこの状況を放置し続けることはしないと思っているので、何かしらの優遇措置はしていきそうな気はします。また、もはや暗号資産市場は株式市場ともある程度の相関があるので、株高にしてアメリカ経済を盛り上げるためにも何かの施策は考えていると思います。
それから、意外にこのタイミングで伸びる領域としてはステーブルコインがあるかもしれません。安定資産への投資がステーブルコイン経由で実施され、利回りを持つステーブルコイン系のプロジェクトが伸びるかもしれません。ステーブルコイン以外でも米国債への投資など、オンチェーン経由での安定投資です。
そうなると結果的に暗号資産がリスク資産だけでなく安定資産としても認定されたことになるので、オンチェーン上で資産が移動しているわけなので、ブロックチェーンが普及した1つの証拠にはなりそうです。
色々と書きましたが、一事業者が短期の市況を読んだり影響を与えることはできないので、結局web3事業者としては中長期的なマーケットの成長を見据えて淡々と進めていくしかないのかなと思っています。
引き続き色々なプロジェクトやマーケットをリサーチして更新し続けます!
以上、「アメリカの関税導入が暗号資産価格下落を招く基本的なロジック」でした!
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