【Catena Labs】Circle共同創業者によるAIエージェントが安全に取引できる金融インフラを構築 / ACK(Agent Commerce Kit)を発表 / AIネイティブ銀行の設立を目指す / @catena_labs
AI×ブロックチェーンの金融基盤になるかもしれません。
おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
今日は「Catena」についてリサーチしました。
🤖Catenaとは?
⚙️提供プロダクト
📝内容整理と具体的なユースケース
💬次世代銀行はAIネイティブとなり、AIネイティブ銀行はブロックチェーン基盤となる
🧵TL;DR
Catena Labsは、AIエージェントが安全に取引できる金融インフラを構築する米国発スタートアップで、USDCの共同創業者が立ち上げ。
開発中のACK(Agent Commerce Kit)は、AIの身元証明と自律決済を支えるオープンプロトコル。
想定ユースケースは、AIが自動で購買・課金・報酬支払いを行うエージェント経済の実現。
2025年以降、ライセンス取得とともにAIネイティブ銀行の正式ローンチを目指す。
🤖Catenaとは?
「Catena Labs」は、AIエージェントと人間の協働による新たな経済圏「エージェント経済」に対応した金融インフラを構築することを目指す米国ボストン拠点のフィンテックスタートアップです。
共同創業者はショーン・ネヴィル(Sean Neville)氏とマット・ヴェナブルズ(Matt Venables)氏で、ネヴィル氏はステーブルコインUSDCの考案者であり決済大手Circle社の共同創設者です。ヴェナブルズ氏はCircleの初期メンバーで、過去に複数のフィンテック企業を創業した経験を持ちます。
またチームにはAdobeやGoogle、YouTube、Meta、PayPal、Amazonといった大手企業でプロダクト開発を手掛けたエンジニアや、データサイエンティスト、金融プロフェッショナルが参加しており、ステーブルコイン、銀行・決済、デジタルID、AIといった分野における深い専門知識を備えています。
これらの実績を持つファウンダーとチームによって支えられており、2025年5月に「完全に規制された初のAIネイティブ金融機関」を設立するという計画と共にステルス状態から脱しました。
この発表の際にはa16zをリード投資家とする資金調達も発表しており、Breyer Capital、Circle Ventures、CoinFund、Coinbase Ventures、Pillar VC、Stanford Engineering VF、およびエンジェル投資家のグループからの追加サポートを受けて、1,800 万ドルのシードラウンドの資金調達を確保しました。
Catena Labsのミッションは、従来の金融システムがAI時代に対応できていない課題を解決し、AIエージェントが安全かつ効率的に経済活動(取引や支払い)を行える環境を提供することです。
現行の金融インフラは人間主体で設計されており、「取引速度が遅くコストが高い」「国際送金に摩擦が多い」「自動化された取引をブロックするリスク管理モデル」など、AIエージェントにとって致命的な制約が数多く存在します。
ネヴィルCEOは「近い将来、AIエージェントがほとんどの経済取引を実行するようになるだろう」と予測した上で、現状の金融システムではそれに耐えられないためゼロからAIエージェントのための金融機関を構築する必要があると述べています。
このAIネイティブ金融機関は規制当局の許認可を受けた合法的な形態を取りつつ、AIエージェントとそれがサービスする企業・消費者が安全に取引できるよう設計される計画です。
⚙️提供プロダクト
では、現段階で提供している具体的なプロダクトについて見ていきます。
現時点(2025年5月)でCatena Labsが公開しているのはオープンソースの開発者向けツールキットである「Agent Commerce Kit (ACK)」です。
ACKはAIエージェントが直面する「身元確認(アイデンティティ)」と「決済手段」の課題を解決するためのプロトコル群とソフトウェア部品のコレクションで、AIエージェントのための「基盤的パターン」を提供します。
具体的には、ACKは以下の2つのコンポーネントで構成されています。
◼️ACK-ID
AIエージェントとそれを所有・操作する人間または組織との間に暗号学的に検証可能な紐付け(アイデンティティ証明)を確立する枠組みです。
分散型ID(Decentralized Identifiers, DID)や検証可能な認証情報(Verifiable Credentials, VC)などのオープン標準に基づき、AIエージェントが自らの身元と権限を証明する手段を提供します。
これにより、あるエージェントが「正当な企業Xの代理として動いているAIである」ことを他者に示し、悪意のあるボットとの区別を可能にします。いわば人間社会でいうところの身分証・委任状に相当する機能です。
◼️ACK-Pay
AIエージェント同士やエージェントとサービスとの間で自律的に支払いを開始・受領するためのプロトコルです。
HTTP以外の通信も含めた多様な経路で支払い要求を標準化し、また支払い完了を示すデジタルな領収書(レシート)の発行・検証フローも定義します。
これにより、エージェントは人手を介さずとも代金のやり取りを安全に行うことができます。特に将来的なユースケースとして、マイクロペイメント(極小額の瞬時決済)やエージェント対エージェント直接決済など、従来難しかった取引モデルを可能にすることを計画しています。
これらのACKはオープンソースで公開されており、誰でもGitHubからコードやドキュメントを参照・利用できます。
→詳細はこちらのGitHubより
Catena LabsはACKを「エージェント商取引(agentic commerce)のためのオープンプロトコル」と位置付け、エコシステム全体で広く使われる基盤技術になることを目指しています。
ACKは現在「パターンの提示」の段階ですが、今後これを発展させ、Catena自身が提供する商用サービスの土台としていく計画です。
📝内容整理と具体的なユースケース
さて、ここまで説明してきましたが、改めてプロジェクトが解決する課題、Catenaの提供価値を整理し、そこから想定されるユースケースについて説明していきます。
◼️現状の課題(AIエージェント×金融)
現在の金融システムは「人間を前提」に設計されており、AIエージェントが自律的に経済活動を行うには大きな制約がある。
取引速度・コスト:グローバル決済は依然として遅く、手数料が高い
KYC・アイデンティティ:AIには「本人確認」や「信頼性の証明」手段が存在しない
決済インフラの対応不可:AIが自動で支払おうとしても銀行やカード会社がブロックする可能性
規制の空白地帯:AIが取引主体となる前提の制度が整っていない
◼️Catena Labsの製品群の概要と特徴
Catenaは「AIエージェントが金融取引できる世界」を前提にゼロから設計された金融インフラを構築している。
製品①:Agent Commerce Kit(ACK)
オープンソースで提供される開発者向けツールキット
AIエージェントのための“IDと決済の標準プロトコル”を提供
サブモジュール:
ACK-ID:エージェントの“身元”と“所有者”を暗号学的に証明(例:企業に委任されたAIであることを証明)
ACK-Pay:AIが自律的に支払いや受け取りを行うための通信・署名・レシート標準化
製品②:AIネイティブ金融機関(今後予定)
AIエージェント専用の口座やウォレットを持たせる
ステーブルコイン(例:USDC)をベースとした即時・低コスト決済
金融ライセンスを取得した上で規制下で運営予定
◼️想定されるユースケース/実現されること
Catenaが提供する基盤を使うことで、以下のようなAI主導の経済活動が実現可能になる。
エージェント経済のユースケース
🛒 購買・交渉:企業のAIがサプライチェーンで価格交渉・発注・決済を実行
🤖 自動API課金:AIが他のAPIやデータをマイクロペイメントで購入
🧠 人間への報酬支払い:AIが助言や判断を求めた人間に自動で報酬を送金
🧺 パーソナルAIアシスタント:消費者のAIが自動で買い物、予約、資産運用
実現されること
エージェントが自律的に「稼ぐ・払う・判断する」が可能に
不正エージェントの排除(IDによる信頼性証明)
金融サービスの自動化・低コスト化・24時間化
◼️これからの展望(2025年以降)
Catena Labsは以下のようなステップで展開を進行中です。
2025年後半:企業とのPoC実施、初期プロダクト(エージェント用ウォレットAPI等)提供開始予定
2026年以降:金融ライセンス取得後、AIネイティブな銀行サービス正式展開(国際展開も視野)
中長期:エージェント主導経済の標準インフラとしての地位確立。金融×AI×ブロックチェーンのハブへ
CEOのネヴィル氏はインタビューで「現在、次の主要マイルストーンは製品リリースと必要な金融ライセンスの取得である」と語っています。ライセンス取得には時間がかかる可能性が高く、その間は提携銀行経由でサービス提供を行うかもしれませんが、最終的には自社で規制に準拠した金融機関として独立運営することを目指しているようです。
💬次世代銀行はAIネイティブとなり、AIネイティブ銀行はブロックチェーン基盤となる
最後は総括と考察です。
オープンソースを公開したとはいえ、具体的な動きはこれからです。ただし、すでにAIエージェントやステーブルコインの普及は進んでおり、その交差点となるプロジェクトのように思います。
個人的な未来予測の感覚としては、「どこが勝つのかはわからないし、何年後かもわからないが、ほぼ確実に来る未来はわかる」です。
AIエージェントが自律的に資産運用、決済、支払いを行う未来はほぼ確実に来ます。ただし、その未来においてその基盤にブロックチェーンが採用されているのか否か、ブロックチェーンであればどのチェーン化、基軸通貨は何か、最大の勝者はどこか、これらはわかりません。
とはいえ、僕はやはり次世代の金融インフラは全てブロックチェーンが基盤になると考えています。理由は単純で、安くて速いからです。
既存金融機関の抵抗やユーザーが慣れるまでの時間はあったとしても、単純に便利な方向に世の中は動いていきます。そうなると、現状ブロックチェーンの利点に勝てる金融イノベーションは存在しません。仮にブロックチェーンを超えるものが現れたとしても、それはそれで便利な金融になる方向性に変わりはありません。
で、このようなブロックチェーンの波と、先ほどから言及しているAIネイティブ金融の波は完全に交わると考えています。
これは僕がweb3村にいるからかもしれませんが、AIエージェントにおける決済の課題(ID認証、銀行口座を持てない、決済履歴を残せないなどなど)はブロックチェーンでやれば全て解決するからです。
そう考えると、Catena Labsがやろうとしていることは間違いなく来る未来におけるインフラ構築で、すでに実績を持つチームがそこに参入しているのは非常に強いですね。
また、少し観点は変わりますが、CircleやUSDCはきちんと規制に準拠した姿勢を見せ続けている点も強いです。時間はかかりますが、ちゃんと金融ライセンスを取って既存金融のルールの枠でAIエージェント×ブロックチェーンネイティブの銀行を作ろうとしています。
USDTの方がシェアは大きいですが、USDCが追い上げている理由はやはりここにあって、既存金融機関が安心して利用するにはUSDCになってしまいます。
ただ個人的にはUSDTも米国規制に準拠する姿勢は見せているので、近いうちにライセンスを取得し、なんなら既存の銀行を買収して一気にTether Bankみたいな銀行を作ってしまうのではないかと思っています。
金融機関の再編が進む中で、Tetherに限らず、クリプト企業が既存銀行を買収してクリプトネイティブな銀行に変更していく動きは出てきそうです。
今後の金融がどうなるのか、そしてCatena Labsがその中でどのような役割を果たすのか、今後も楽しみに追いかけていきます。
以上、「Catena Labs」のリサーチでした!
🔗参考/画像引用先:HP / DOC / X
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Author:mitsui @web3リサーチャー
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