おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
毎週土日のお昼にはweb3の基礎の基礎レポートを更新しています。今週は「web3という言葉が生まれた経緯」について解説します。ぜひ最後までご覧ください!
1. web3という言葉の起源:Gavin Woodによる初出(2014)
Ethereum共同創業者としてのGavin Wood
web3という概念を世界で初めて提唱したのは、Gavin Woodというイギリス出身のコンピューター科学者でした。2014年当時、彼はEthereumプロジェクトの共同創業者の一人として、革新的なブロックチェーン技術の開発に深く関わっていました。
Gavin Woodの経歴と思想的背景を理解することは、web3概念の本質を理解する上で極めて重要です。彼はオックスフォード大学でコンピューター科学の博士号を取得した後、学術界とテクノロジー業界の両方で豊富な経験を積みました。特に分散システム、暗号学、プログラミング言語理論の分野で深い専門知識を持っていました。
Woodは単なる技術者ではありませんでした。彼は技術が社会に与える影響について深く考察する思想家でもありました。中央集権的な権力構造に対する根本的な疑問と、個人の自由と自律性を技術的に保障したいという強い信念を持っていました。この思想的背景が、後にweb3概念の核心となる「分散化」「自己主権」の理念につながっていきます。
2013年にVitalik Buterinと出会い、Ethereumプロジェクトに参加したWoodは、ビットコインが示した分散化の可能性をさらに発展させ、プログラマブルな分散コンピューティングプラットフォームの構築に取り組みました。
彼はEthereumの技術仕様書(Yellow Paper)を執筆し、Ethereum Virtual Machine(EVM)の設計を主導するなど、技術的基盤の構築において中心的な役割を果たしました。
「Web3.0」ではなく「web3」と名付けた深い意味
2014年、Gavin WoodがEthereumのブログで初めて「web3」という言葉を使用した時、彼は意図的に「Web3.0」という表記を避けました。この選択には、従来のWeb進化論に対する根本的な批判と、全く新しいパラダイムへの転換を示そうとする明確な意図がありました。
「Web1.0」「Web2.0」という表記は、既存のWebシステムの段階的改良・アップグレードというイメージを与えます。しかしWoodが構想していたのは、そのような漸進的な変化ではありませんでした。彼が目指していたのは、Webの根本的な設計思想とアーキテクチャの完全な転換、すなわち「パラダイムシフト」でした。
小文字の「web3」という表記には、以下のような思想的メッセージが込められていました。
技術仕様を超えた社会運動:web3は単なる技術的アップグレードではなく、インターネットの権力構造を根本的に変革しようとする社会運動であることを示しています。
従来の進化論からの脱却:既存のWeb進化の延長線上ではなく、全く新しい原理に基づく別の道を歩むことを表現しています。
オープンソース精神の体現:大文字を使わない謙虚で民主的な表記は、誰か特定の企業や組織が「所有」するものではない、コミュニティ全体の共有財産であることを示しています。
草の根運動としての性格:トップダウンの企業主導ではなく、ボトムアップの市民主導で発展していく運動であることを象徴しています。
"The post-Snowden Web"としての歴史的文脈
Gavin Woodがweb3概念を提唱した2014年は、デジタルプライバシーと政府監視に対する社会的関心が最高潮に達していた時期でした。2013年のエドワード・スノーデンによるNSA監視プログラムの暴露は、世界中に衝撃を与え、デジタル時代における個人の自由とプライバシーについて根本的な議論を引き起こしていました。
Woodは自身のブログ投稿で、web3を"The post-Snowden Web"(ポスト・スノーデン時代のWeb)と表現しました。この表現には、スノーデン事件が明らかにした監視社会の現実を受けて、根本的に新しいインターネットアーキテクチャが必要だという切迫した問題意識が込められていました。
スノーデン事件が明らかにした問題
政府機関による大規模で違法な市民監視
大手IT企業と政府の密接な協力関係
中央集権的なサーバーインフラの脆弱性
個人のプライバシーと自由の系統的侵害
web3による解決の方向性
分散化されたアーキテクチャによる単一障害点の排除
暗号学的プロトコルによるプライバシーの技術的保障
検閲耐性を持つ情報流通システムの構築
ユーザー自身によるデータの完全なコントロール
Woodにとって、web3は単なる技術的革新ではなく、デジタル時代における個人の基本的人権を守るための防御手段でした。彼は、中央集権的なWebアーキテクチャが本質的に権威主義的監視と相性が良いことを認識し、根本的に異なるアプローチが必要だと考えていました。
初期のweb3ビジョンの具体的内容
Woodが2014年に提示した初期のweb3ビジョンは、現在広く理解されているweb3概念よりもさらに根本的で革命的なものでした。彼が描いていたのは、従来のWebとは全く異なる原理で動作する分散型情報システムでした。
ゼロトラスト・アーキテクチャ:従来のWebでは、ユーザーはプラットフォーム企業やサーバー運営者を「信頼」する必要がありました。web3では、そのような信頼を一切必要とせず、数学的・暗号学的証明のみに基づいてシステムが動作します。
完全なピアツーピア通信:中央サーバーを経由せず、ユーザー同士が直接通信できるシステムを構想していました。これにより、検閲や監視を技術的に不可能にします。
自己主権的アイデンティティ:ユーザーは自分のデジタルアイデンティティを完全にコントロールし、どの情報を誰に開示するかを細かく制御できるシステムを目指していました。
経済的インセンティブの組み込み:システムの維持・運営に協力するユーザーが適切な経済的報酬を受け取れる仕組みを技術プロトコルレベルで実装することを構想していました。
プログラマブルな合意形成:スマートコントラクト技術により、人間の仲介なしに複雑な合意や契約を自動実行できるシステムを描いていました。
Woodのweb3ビジョンは、単にWeb2.0の問題を修正するだけでなく、人類がデジタル技術と関わる方法そのものを根本的に変革しようとする壮大な構想でした。
2. web3の特徴とは?(思想・技術・価値観)
分散化(Decentralization):権力の再配分
web3の最も核心的な特徴は「分散化」です。しかし、この分散化は単なる技術的特徴ではありません。それは権力の再配分、民主化の実現、個人の自律性の回復を目指す深い政治的・社会的概念です。
技術的分散化の詳細
web3における分散化は、複数の次元で実現されます。
インフラの分散化: 単一の企業や政府がコントロールする中央サーバーではなく、世界中の多数の独立したノードがシステムを支える
ガバナンスの分散化: システムの重要な決定がトップダウンで行われるのではなく、コミュニティ全体の民主的プロセスで決定される
データの分散化: ユーザーのデータが特定の企業のサーバーに集中するのではなく、分散ストレージシステムに暗号化されて保存される
価値の分散化: プラットフォームが生み出す経済的価値が企業株主に集中するのではなく、実際に価値を創造するユーザーに分配される
分散化がもたらす社会的効果
技術的分散化は、以下のような社会的変化をもたらすことが期待されています。
検閲耐性: 単一の権威が情報の流通をコントロールできないため、表現の自由が技術的に保障される
プライバシー保護: 個人データが分散化され暗号化されることで、大規模監視が技術的に困難になる
経済的公平性: 価値創造に貢献したユーザーが適切な報酬を受け取れる仕組みが実現される
イノベーションの促進: 許可を必要としないオープンなプラットフォームで、誰でも新しいアプリケーションを開発できる
自己主権型アイデンティティ(Self-Sovereign Identity)
web3のもう一つの重要な特徴は、「自己主権型アイデンティティ」の概念です。これは、個人が自分のデジタルアイデンティティと個人データを完全にコントロールできるシステムを意味します。
従来のアイデンティティ管理の問題
Web2.0では、ユーザーのデジタルアイデンティティは基本的にプラットフォーム企業によって管理されていました:
Googleアカウント、Facebookアカウント、Twitterアカウントなど、企業が発行・管理するアイデンティティに依存
アカウント停止により、ユーザーはデジタルアイデンティティを失う可能性
企業がユーザーの行動データを収集・分析し、プロファイリングを実施
ユーザーは自分の個人情報がどのように使用されているかを完全に把握できない
自己主権型アイデンティティの革新
web3の自己主権型アイデンティティでは、以下のような革新が実現されます:
ユーザー主導のアイデンティティ管理: 個人が暗号学的キーペアを用いて、自分のアイデンティティを直接コントロール
選択的情報開示: どの情報を、誰に、どの程度の期間開示するかを細かく制御可能
ポータブルな評判システム: 一つのプラットフォームで築いた評判や実績を、他のプラットフォームでも活用可能
プライバシー・バイ・デザイン: システム設計段階からプライバシー保護が組み込まれ、個人情報の最小化が実現
具体的な実装技術
自己主権型アイデンティティは、以下のような技術的基盤で実現されます。
分散型識別子(DID): 中央機関に依存しない、暗号学的に検証可能な識別子システム
検証可能クレデンシャル: 第三者が発行した証明書を、プライバシーを保護しながら提示できる仕組み
ゼロ知識証明: 秘密情報を明かすことなく、特定の条件を満たしていることを証明する技術
分散ストレージ: 個人データを暗号化して分散ネットワークに保存し、本人のみがアクセス可能にする技術
検閲耐性とコードによる信頼
web3の第三の重要な特徴は、「検閲耐性」と「コードによる信頼」です。これらは密接に関連した概念で、web3システムの根本的な設計原理を表しています。
検閲耐性の技術的実現
検閲耐性とは、単一の権威がシステムの動作を恣意的に妨害したり、特定のユーザーやコンテンツを排除したりできない特性を指します:
分散ネットワーク: 世界中の多数のノードが冗長的にシステムを支えるため、一部のノードが停止しても全体は動作し続ける
暗号学的保護: コンテンツやトランザクションが暗号化されているため、権威による内容の検閲が技術的に困難
複製と分散: 重要な情報が複数のノードに複製されているため、完全な削除が実質的に不可能
匿名性の保護: ユーザーの真の身元を隠蔽する技術により、報復による検閲を防ぐ
コードによる信頼(Code is Law)
「コードによる信頼」とは、人間の判断や政治的決定ではなく、数学的・暗号学的に検証可能なコードによってシステムの動作が保証される原理です:
スマートコントラクト: 契約条件がコードとして実装され、人間の介入なしに自動実行される
透明性: システムの動作ルールがオープンソースコードとして公開され、誰でも検証可能
不変性: 一度デプロイされたスマートコントラクトは変更が困難で、予測可能な動作を保証
数学的証明: システムの安全性や正確性が数学的・暗号学的手法で証明される
検閲耐性がもたらす社会的価値
検閲耐性は、以下のような重要な社会的価値を実現します:
表現の自由の技術的保障: 政府や企業による言論統制を技術的に不可能にする
反体制活動の保護: 権威主義体制下での民主化運動や人権活動を技術的に支援
ジャーナリズムの独立性: 権力による報道統制を回避し、真実の報道を可能にする
文化的多様性の保護: 主流文化に属さないマイノリティの文化的表現を保護
トークン経済(Token Economy)
web3の第四の特徴は、「トークン経済」という新しい経済システムの実現です。これは、デジタルトークンを用いて価値の創造、流通、分配を行う革新的な経済モデルです。
従来の経済モデルの限界
Web2.0の経済モデルには以下のような問題がありました:
価値創造と報酬の非対称性: ユーザーが価値を創造するが、報酬は企業株主に集中
中間業者の搾取: プラットフォーム企業が取引の多大な手数料を徴収
地理的制約: 国境を越えた価値移転が困難で手数料も高額
マイクロペイメントの困難: 少額決済のコストが高く、新しいビジネスモデルが困難
トークン経済の革新的特徴
web3のトークン経済は、これらの問題を以下のように解決します:
価値創造者への直接報酬: コンテンツ作成、コミュニティ貢献、システム維持などの価値創造活動に対して、トークンで直接報酬を支払い
ガバナンストークン: システムの重要な決定に参加する権利をトークンで表現し、民主的な運営を実現
ユーティリティトークン: プラットフォーム内でのサービス利用権や特別機能へのアクセス権をトークンで提供
流動性とグローバル性: トークンは世界中で24時間365日取引可能で、国境を越えた価値移転が瞬時に実現
具体的なトークン経済の実装例
実際のweb3プロジェクトでは、以下のようなトークン経済が実装されています:
コンテンツプラットフォーム: 良質なコンテンツを作成・共有するユーザーにトークンを配布
分散ストレージネットワーク: ストレージ容量を提供するユーザーにトークンで報酬を支払い
予測市場: 正確な予測を行うユーザーにトークンで報酬を提供
分散型自律組織(DAO): 組織の運営や意思決定をトークンホルダーの投票で実施
トークン経済がもたらす社会的変化
トークン経済は、以下のような社会的変化を促進する可能性があります:
創作活動の経済的独立: アーティスト、作家、研究者などがプラットフォーム企業に依存せずに収益を得られる
ギグエコノミーの公平化: プラットフォームワーカーがより公平な報酬を受け取れる
コミュニティガバナンスの実現: オンラインコミュニティが民主的で透明な運営を実現
グローバルな価値流通: 国境や通貨の制約を超えた新しい経済圏の形成
3. web3と誤解されること
単なる暗号通貨・NFTとの混同
web3概念について最も一般的な誤解の一つは、それが単なる暗号通貨取引やNFT売買と同義であるという認識です。2021年頃の暗号通貨・NFTブームの影響で、web3は投機的な金融商品や デジタルアート取引の文脈でのみ語られることが多くなりました。
暗号通貨・NFTブームによる誤解の拡大
2020年から2022年にかけて、ビットコインやイーサリアムなどの暗号通貨価格が急騰し、NFTアートが数千万円で取引されるなど、投機的な熱狂が世界を席巻しました。メディアや一般の人々は、これらの現象をweb3の本質だと誤解し、web3全体を「お金儲けの手段」「投機的なゲーム」として捉えるようになりました。
しかし、これは本来のweb3思想とは大きく異なります。Gavin Woodが提唱した元来のweb3概念において、トークンや暗号通貨は手段の一つに過ぎず、目的ではありませんでした。彼が真に目指していたのは、分散化されたインターネットインフラの構築と、ユーザーの自由と自律性の回復でした。
NFTに対する根本的誤解
NFTについても深刻な誤解が広まっています。多くの人は、NFTを「高額なデジタルアート」「投機対象」としてのみ理解していますが、NFT技術の本質的な価値は全く異なる場所にあります:
デジタル所有権の確立: デジタル資産に対する明確で検証可能な所有権を技術的に実現
創作者への継続的報酬: 作品が転売される度に、原作者が自動的にロイヤリティを受け取れる仕組み
検証可能な真正性: デジタル作品の真正性と来歴を暗号学的に証明
プログラマブルな権利: 使用許可、展示権、商業利用権などを柔軟にプログラム化
web3の真の価値:インフラとしての側面
web3の本質的価値は、新しいインターネットインフラの構築にあります:
分散型ドメインネームシステム: 企業や政府による検閲を受けないドメイン管理
分散型ストレージ: ユーザーが自分のデータを完全にコントロールできるストレージシステム
分散型コンピューティング: 単一企業に依存しないクラウドコンピューティング環境
分散型通信: プライバシーが保護された、検閲耐性のあるコミュニケーションプラットフォーム
これらのインフラは、金融的利益を目的とするものではなく、デジタル社会における個人の自由と権利を技術的に保障することを目的としています。
投機の文脈と分離された思想的意義
web3の思想的意義を正しく理解するためには、短期的な投機や金融的利益の文脈から完全に分離して考える必要があります。web3の核心的価値は、長期的な社会変革とデジタル権利の実現にあります。
テクノロジーによる社会問題の解決
web3技術は、現代社会が直面する以下のような根本的問題の解決を目指しています:
デジタル格差: 地理的・経済的制約により情報にアクセスできない人々への技術的解決策
権威主義的検閲: 政府や企業による言論統制を技術的に回避する手段
経済的不平等: プラットフォーム企業への価値集中を分散化により解決
プライバシー侵害: 大規模監視社会に対する技術的対抗手段
人間中心の技術設計
web3の設計哲学は「人間中心」です。技術が人間に奉仕し、人間の尊厳と自由を高めることを最優先に考えています:
ユーザーエージェンシー: ユーザーが自分のデジタル体験を主体的にコントロール
透明性と説明責任: システムの動作が透明で、誰でも検証可能
包摂性: 地理的・経済的・社会的背景に関係なく、誰でも参加可能
持続可能性: 短期的利益ではなく、長期的な社会的価値を重視
教育と啓蒙の重要性
web3の真の価値を社会に浸透させるためには、継続的な教育と啓蒙活動が不可欠です:
技術リテラシーの向上: 一般市民がweb3技術の基本原理を理解できるよう支援
批判的思考の促進: 技術の利点だけでなく、リスクや限界についても正直に議論
実用的なユースケースの提示: 投機ではない、実際の社会問題解決事例の紹介
多様な視点の包摂: 技術者だけでなく、社会学者、経済学者、法学者、倫理学者などの多様な専門家による議論
4. web3という言葉がバズワード化した背景(2021年頃)
VC(a16z)とTwitter界隈での流行
2021年頃から、web3という言葉は急速に「バズワード」として広まりました。この現象の背景には、ベンチャーキャピタル(特にAndreessen Horowitz、通称a16z)とTwitter上での影響力のある人物たちによる積極的な推進がありました。
Andreessen Horowitzの戦略的推進
シリコンバレーの有力ベンチャーキャピタルであるa16zは、2021年に大規模なweb3ファンド(22億ドル)を立ち上げ、web3概念の普及に巨額の投資を行いました。同社のマーク・アンドリーセンやクリス・ディクソンなどの著名パートナーは、web3を「インターネットの次の進化段階」として積極的に宣伝しました。
a16zの影響力は単なる投資に留まりませんでした:
思想的リーダーシップ: 詳細なレポートやブログ投稿を通じて、web3の将来性を論理的に説明
政策提言: ワシントンD.C.でのロビー活動を通じて、暗号通貨・web3に有利な規制環境の整備を推進
人材ネットワーク: 優秀な起業家、技術者、研究者をweb3分野に誘引
メディア戦略: 主要メディアでのweb3関連記事や番組の増加に貢献
Twitter上のオピニオンリーダーたちの役割
Twitterは、web3概念の拡散において特に重要な役割を果たしました。影響力のある技術者、投資家、起業家たちが日々web3について発信し、それが指数関数的に拡散されていきました。
「FOMO」文化との融合
web3の流行は、シリコンバレー特有の「FOMO(Fear of Missing Out、取り残される恐怖)」文化と密接に結びつきました。多くの投資家、起業家、技術者が「次の大きな波に乗り遅れてはいけない」という心理的プレッシャーを感じ、web3への投資や参入を急ぎました。
この心理的現象は以下のような行動を生み出しました:
投資の過熱: 十分な検討なしにweb3関連プロジェクトへの大規模投資
人材の大移動: BigTechから暗号通貨・web3企業への技術者の大量転職
メディア露出の増加: web3関連のニュース、ポッドキャスト、カンファレンスの爆発的増加
学術的関心の高まり: 大学でのブロックチェーン研究センター設立やコース開設
NFTブームとの重複による一気拡大
2021年のweb3バズワード化は、同時期に起きたNFTブームと密接に関連していました。この二つの現象の重複が、web3概念の一般社会への急速な浸透を促進しました。
NFTブームの社会的インパクト
2021年初頭から、NFT(Non-Fungible Token)アートが前例のない高額で取引されるようになりました:
Beepleの作品「Everydays」: 6,930万ドルで落札され、世界的なニュースに
CryptoPunks: 初期のピクセルアートNFTが数百万ドルで取引
Bored Ape Yacht Club: セレブリティの間で大流行し、ステータスシンボル化
NBA Top Shot: スポーツハイライト映像のNFT化が数十億ドル市場に
これらのニュースは、暗号通貨に詳しくない一般の人々にもweb3という言葉を認知させる効果がありました。
メディアによる過度な注目
NFTブームに伴い、主要メディアがweb3について連日報道するようになりました。しかし、多くの報道は表面的で、技術の本質よりもセンセーショナルな価格や取引に焦点を当てていました:
CNN、BBC、NYTimes: NFT取引の高額落札を大々的に報道
Financial Times、Wall Street Journal: web3を新しい投資分野として紹介
TechCrunch、Wired: web3スタートアップの大型資金調達を頻繁に報道
この結果、web3は「デジタルアートで儲ける方法」「新しい投資機会」として大衆に認識されるようになり、本来の分散化・自律性といった思想的側面は軽視されがちになりました。
セレブリティと企業の参入
NFTブームは、多くの著名人と大企業のweb3分野への参入を促しました:
セレブリティ: パリス・ヒルトン、ジミー・ファロン、エミネムなどがNFT購入・宣伝
ファッションブランド: グッチ、ナイキ、アディダスなどがNFTコレクション発売
メディア企業: Time誌、Rolling Stone誌などがNFT事業開始
スポーツ組織: NBA、NFL、サッカークラブなどがファンエンゲージメントにNFT活用
これらの参入により、web3は一般消費者にとってより身近で「トレンディ」なものとして認識されるようになりました。
DAO、DeFi、DIDなどとの概念的融合
web3がバズワード化する過程で、関連する様々な概念や技術が統合的に語られるようになりました。これにより、web3は単一の技術ではなく、新しいデジタル社会のパラダイム全体を表す包括的概念として理解されるようになりました。
DAOとの融合
DAOは、web3思想の具体的実装として注目を集めました:
ConstitutionDAO: アメリカ憲法原本の購入を目指し、短期間で数十億円を調達
PleasrDAO: 高額アート作品の共同購入・管理を行う投資DAO
Mirror: ライターがDAO形式でコンテンツ制作資金を調達できるプラットフォーム
Friends with Benefits: クリエイター中心のソーシャルDAOとして数万人が参加
これらの事例により、DAOは「新しい組織運営方法」「民主的なガバナンス」として理解され、web3の魅力的な応用例として広く認知されました。
DeFiの成熟
DeFiは、web3の金融分野での応用として急成長しました:
Uniswap: 自動マーケットメーカー型の分散取引所として数兆円の取引量を実現
Aave: 分散型レンディングプロトコルとして数千億円の資金を管理
Compound: 暗号通貨の貸借を自動化し、従来の銀行機能を代替
MakerDAO: 分散型ステーブルコインDAIを発行し、価格安定性を実現
DeFiの成功により、web3は「金融システムの革新」としても認識されるようになり、投資家や金融関係者の関心を大きく引きました。
DIDの概念統合
DIDやself-sovereign identityの概念も、web3パラダイムの重要な構成要素として統合されました:
ENS(Ethereum Name Service): 暗号化アドレスを人間が読める名前で管理
Unstoppable Domains: 検閲耐性のあるドメイン名システム
BrightID: ソーシャルネットワークを活用した身元証明システム
Civic: ブロックチェーンベースの身元確認・KYCサービス
これらの技術により、web3は「プライバシーを保護しながら身元を証明する新しい方法」としても理解されるようになりました。
相互運用性と統合エコシステム
これらの異なる技術・概念が統合的に語られることで、web3は単一のテクノロジーではなく、相互に連携する包括的なエコシステムとして認識されるようになりました:
ウォレット統合: MetaMaskなどのウォレットが、DeFi、NFT、DAO、DIDの全てを統合的に管理
クロスチェーン技術: 異なるブロックチェーン間での資産・データ移動が可能に
レイヤー2ソリューション: Polygonなどによりスケーラビリティと使いやすさが向上
デベロッパーツール: 統合開発環境によりweb3アプリケーション開発が容易に
この統合的なエコシステムの出現により、web3は「インターネットの次世代バージョン」として説得力を持って語られるようになりました。
バズワード化の光と影
web3のバズワード化は、概念の普及にとって重要な役割を果たしましたが、同時に深刻な副作用も生み出しました。
ポジティブな影響
認知度の向上: 一般社会でのweb3概念の認知度が飛躍的に向上
投資の増加: 研究開発に必要な資金が大量に流入
人材の参入: 優秀な技術者や研究者がweb3分野に参入
イノベーションの加速: 競争により技術開発が急速に進展
ネガティブな影響
投機的側面の強調: 技術的・社会的価値よりも金融的利益が注目される
詐欺・悪用の増加: 知識不足な投資家を狙った詐欺プロジェクトが急増
本質の歪曲: 分散化・自律性といった本来の価値観が軽視される
バブル形成: 持続不可能な価格上昇と、その後の急落による信頼失墜
このバズワード化現象は、web3概念の発展における重要な転換点となりました。元来の理想主義的な思想と、現実的な商業化の間での緊張関係が表面化し、web3コミュニティ内部でも激しい議論が続いています。
おわりに:web3が示す新しいデジタル社会の可能性
後編では、web3という概念の起源から現在のバズワード化を詳しく検討してきました。Gavin Woodが2014年に提唱した当初のweb3ビジョンは、単なる技術的革新ではなく、デジタル社会における権力構造の根本的な転換を目指すものでした。
web3の核心的価値である分散化、自己主権型アイデンティティ、検閲耐性、トークン経済は、Web2.0が抱える構造的問題への真摯な回答として生まれました。これらの概念は、個人の自由と尊厳を技術的に保障し、より公平で民主的なデジタル社会を実現する可能性を秘めています。
しかし同時に、2021年頃のバズワード化により、web3は投機的な金融商品として誤解され、本来の思想的意義が軽視される傾向も生まれました。この現象は、革新的技術が社会に受容される過程で避けられない試練でもあります。
今後、AIとの融合、Statefulプロトコルの進化、DePINの台頭など、web3は確実に技術的成熟を遂げています。これらの発展により、web3は理想論を超えて、実用的で持続可能なデジタルインフラとして社会に根付く可能性を示しています。
最終的に、web3が成功するかどうかは、技術的優位性だけでなく、どれだけ多くの人々がその価値観を共有し、より良いデジタル社会の構築に参加するかにかかっています。
Web1.0から始まったこの20年間の物語は、技術の進歩とともに、人間がデジタル世界とどのように関わるべきかという根本的な問いを投げかけています。web3は、その問いに対する一つの答えかもしれません。
今後の発展が非常に楽しみですね。
免責事項:リサーチした情報を精査して書いていますが、個人運営&ソースが英語の部分も多いので、意訳したり、一部誤った情報がある場合があります。ご了承ください。また、記事中にDapps、NFT、トークンを紹介することがありますが、勧誘目的は一切ありません。全て自己責任で購入、ご利用ください。
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