おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
毎週土日のお昼にはweb3の基礎の基礎レポートを更新しています。今週は「web3という言葉が生まれた経緯」について解説します。ぜひ最後までご覧ください!
1. はじめに:なぜ"Web3"ではなく"web3"と書かれるのか?
現在、ブロックチェーンや暗号通貨の分野で頻繁に目にする「web3」という言葉があります。多くの人は自然に「Web3.0」の略語だと考えているかもしれませんが、実はその表記法には深い意味が込められています。
最初に注目すべきは、正式な表記が大文字の「Web3」ではなく、小文字の「web3」である点です。これは単なるスタイルの選択や略語ではありません。この小文字表記には、従来のWebの進化論的な理解から根本的に脱却し、まったく新しいパラダイムを提示しようとする明確な思想的意図が込められています。
従来の「Web1.0」「Web2.0」という表記は、テクノロジー業界でよく見られるバージョンアップの概念を連想させます。あたかもソフトウェアのアップデートのように、既存のWebが段階的に改良されていくというイメージです。しかし「web3」の提唱者たちが目指したのは、単なる技術的進歩ではなく、インターネットの根本的な思想転換でした。
この小文字表記は、web3が技術仕様ではなく「運動の呼称」「思想の表現」であることを示しています。それは、中央集権的なプラットフォームに依存しない、分散化されたインターネットへの回帰を目指す社会運動なのです。そこには、単なる技術革新を超えた、社会的・政治的な変革への強い意志が込められています。
だからこそ、web3を正しく理解するためには、まず「Web」という概念がどのように生まれ、どのような変遷を経て、なぜ現在のような問題を抱えるに至ったのかを知る必要があります。Web1.0からWeb2.0への歴史的変化、そしてWeb2.0の限界が明らかになっていく過程を詳しく追うことで、なぜweb3という新しい概念が生まれる必要があったのかが見えてきます。
この記事では、この20年間のWebの変遷を詳細に辿りながら、web3という言葉が単なる流行語ではなく、インターネットの本質的な問題に対する真摯で切実な回答として生まれたことを明らかにしていきます。
※ただし、この辺りは価値観の話も含みますので、別の考えをする方もいます。その前提でご覧ください。
2. Web1.0:静的なホームページ時代(1990年代)
Tim Berners-LeeとWWWの誕生
1989年、スイスのCERN(欧州原子核研究機構)で働いていたイギリス人研究者Tim Berners-Leeは、研究者間で情報を効率的に共有するための革命的なシステムを考案しました。それが後に「World Wide Web(WWW)」と呼ばれることになるシステムです。
Berners-Leeの構想は驚くほどシンプルでした。世界中のコンピューター上に散らばっている膨大な情報を、「ハイパーテキスト」という仕組みで相互に接続し、誰でも簡単にアクセスできるようにするというものです。
この壮大なビジョンを実現するために、彼が発明したのがHTML(HyperText Markup Language)、HTTP(HyperText Transfer Protocol)、そしてURL(Uniform Resource Locator)という3つの基本技術でした。
最も注目すべきは、Berners-Leeがこれらの画期的な技術を特許化せず、誰でも自由に使えるオープンな仕様として世界に公開したことです。もし彼がこれらの技術で商業的利益を追求していたら、現在のインターネットの姿は根本的に異なっていたでしょう。彼の理想主義的で無私の判断が、後の爆発的なWeb普及の確固たる基盤となりました。
HTMLとリンク中心のインターネット文化
初期のWebは、今日の視点から見ると驚くほど単純な構造でした。HTMLで記述された静的なページが、ハイパーリンクによって相互に接続されているだけです。しかし、この単純さこそが革命的でした。
それまでのインターネットサービスは、各々が特定のソフトウェアや複雑な操作方法の習得を要求していました。電子メールにはメールクライアント、ファイル転送にはFTPクライアント、掲示板システムにはtelnetといった具合に、サービスごとに異なるツールと専門知識が必要でした。
しかしWebは、ブラウザという単一のソフトウェアで、あらゆる種類の情報にアクセスできる統一的な環境を提供しました。ユーザーは複雑なコマンドを記憶する必要がなく、マウスでリンクをクリックするだけで、世界中の情報を次々と探索できるようになりました。
この時代のWebサイトは、主に大学、研究機関、そして技術に精通した個人によって運営されていました。コンテンツは研究論文、技術文書、個人の専門的な趣味に関する情報などが中心で、商業的な要素はほとんど見当たりませんでした。
「読み取り専用」時代の特徴と制約
Web1.0の最も重要な特徴は、一般ユーザーにとって完全に「読み取り専用(Read-Only)」のメディアだったことです。情報を発信できるのは、HTMLプログラミングを理解し、Webサーバーを運用できる技術的知識を持った少数の専門家に限られていました。
当時、Webページを公開するためには以下のような高度な知識が必要でした:
技術的な知識要件
HTML、CSS、場合によってはJavaScriptのプログラミングスキル
Webサーバーの設定と継続的な運用管理
FTPプロトコルによるファイルアップロード技術
ドメイン名の取得とDNS設定の理解
経済的・物理的な障壁
専用回線やサーバーのレンタル費用(月額数万円から数十万円)
24時間365日稼働するためのインフラ維持コスト
技術的なトラブルに迅速に対応するための人的リソース
これらの高い障壁により、情報の発信者と受信者の間には明確で越えがたい格差が存在していました。圧倒的多数のユーザーは情報の「消費者」として位置づけられ、ごく少数の技術者や組織だけが「生産者」として機能する構造でした。
しかし、この制約は必ずしも否定的な側面ばかりではありませんでした。
情報発信に一定の技術的ハードルが存在したことで、全体的に質の高い情報が多く、現在のようなノイズや低品質なコンテンツは相対的に少なかったのです。また、商業的な動機も限定的だったため、純粋に知識共有や情報提供を目的とするサイトが大半を占めていました。
Web1.0時代の共同体的な文化
Web1.0時代には、現在とは根本的に異なる独特の文化が存在していました。それは「リンク集」に象徴される、相互扶助的で共同体的な情報共有の文化でした。
多くのWebサイトには「リンク集」「おすすめサイト」「お気に入りサイト」といった専用ページが設けられ、サイト運営者が有用だと判断するサイトを積極的に紹介していました。これは現在のSEO対策やアフィリエイト収益といった商業的動機とは無縁で、純粋に「良い情報を多くの人と共有したい」という利他的な動機に基づいていました。
また、「相互リンク」という美しい文化も盛んでした。関連するテーマや分野を扱うサイト同士が相互にリンクを張り合い、有機的な情報のネットワークを形成していきます。これにより、ユーザーは一つのサイトから始まって、関連する興味深い情報を芋づる式に発見していくという、知的探究の醍醐味を味わうことができました。
この時代のWebには、現在当たり前となっている「プラットフォーム」という概念は一切存在しませんでした。各サイトは完全に独立した存在であり、特定の企業やサービスに依存することなく自立的に運営されていました。サイト運営者は自分が作成したコンテンツに対して完全な所有権と制御権を持っていました。
検索エンジンの登場とWebの組織化
Web1.0時代の後期になると、急激に増加するWebサイトを体系的に整理し、ユーザーが目的の情報を発見しやすくするためのツールが次々と登場しました。
初期の代表的な検索エンジンとして、AltaVista、Excite、Infoseek、そしてYahoo!などが登場しました。特にYahoo!は、人間の編集者が手作業でWebサイトをカテゴリ別に分類する「ディレクトリ型」のサービスとして大きな影響力を持ちました。厳選された質の高いサイトだけを掲載するという編集方針は、当時の「情報の質」を何よりも重視する文化と完全に合致していました。
1998年に登場したGoogleは、革命的な「PageRank」アルゴリズムにより、Webページ間のリンク構造を数学的に分析して検索結果の品質を劇的に向上させました。これは、Web1.0時代の「相互リンク文化」を技術的に最大限活用した画期的な発明でした。
しかし皮肉なことに、Googleの圧倒的な成功は、後にWeb2.0時代の中央集権化の先駆けとなってしまいました。検索エンジンという「インターネットの入り口」を事実上独占することで、インターネット上の情報流通を根本的に左右する巨大な力を持つようになったのです。
Web1.0の構造的限界と次の時代への胎動
Web1.0は確かに歴史的に革命的でしたが、1990年代末になると、その技術的・社会的限界も次第に明らかになってきました。
技術的な限界
静的なHTMLページでは、リアルタイムでインタラクティブな体験を提供できない
データベースと連携した動的なコンテンツ生成が技術的に困難
ユーザーごとのパーソナライゼーションや個別対応が実現できない
eコマースなどの複雑なビジネスアプリケーションの構築が困難
社会的な限界
情報発信の門戸が技術専門家に限定されている
一般ユーザーの声やニーズが反映されにくい構造
コミュニケーションが基本的に一方向的で、対話性や双方向性に欠ける
コミュニティ形成や集合知の活用が困難
経済的な限界
本格的なeコマースビジネスモデルの実現が技術的に困難
効果的な広告配信モデルが確立されていない
ユーザーエンゲージメントを測定・分析・向上させる仕組みが不足
マネタイゼーション手法が極めて限定的
これらの多面的な限界を克服するために、1990年代末から2000年代初頭にかけて、様々な革新的な技術が次々と開発されました。
CGI、PHP、ASP、Javaなどのサーバーサイド技術により、データベースと連携した動的なWebページの生成が可能になりました。また、JavaScript、Flash、後のAJAXなどのクライアントサイド技術により、よりインタラクティブで魅力的なユーザー体験が実現されるようになりました。
こうした技術的進歩を背景として、Webは次の大きな発展段階へと進化していくことになります。それが「Web2.0」と呼ばれることになる時代でした。
3. Web2.0という言葉の誕生(2004年頃)
Tim O'Reillyによる革命的な概念提唱
2004年、技術書出版で著名なO'Reilly Mediaの創設者であるTim O'Reillyが「Web 2.0」という言葉を世に送り出しました。この言葉は、単なる技術用語や業界ジャーゴンではなく、Webの在り方が根本的に変化していることを表現する包括的な概念として提唱されました。
O'Reillyは当初、この新しい概念を世界に説明するために「Web 2.0 Conference」という大規模なイベントを企画していました。しかし、この言葉は単なる会議の名前を遥かに超えて、時代の変化を象徴する画期的なキーワードとして爆発的に普及していきました。
O'Reillyが「Web 2.0」という概念で表現しようとしたのは、以下のような根本的な変化でした。
従来のWeb(Web1.0): 企業や組織が一方的に情報を発信し、ユーザーがそれを受動的に消費する
新しいWeb(Web2.0): ユーザー自身が能動的に情報を生成し、互いに活発に共有・交流する
この歴史的変化の背景には、ブロードバンドインターネットの急速な普及、サーバー技術の飛躍的向上、開発ツールの民主化、そして何よりもユーザー自身の意識と期待の根本的な変化がありました。インターネットユーザーが「情報を受け取るだけ」の受動的な存在から、「情報を発信し、積極的に参加する」能動的な存在へと劇的に変化していったのです。
「誰でも投稿できる時代」の幕開け
Web2.0の最も革命的な特徴は、これまで技術的知識を持たなかった一般ユーザーでも、極めて簡単に情報発信できるようになったことでした。この歴史的変化を可能にしたのが、ブログサービスとSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の本格的な登場と普及でした。
ブログ革命の衝撃
2003年頃から、Blogger、WordPress、LiveJournal、はてなダイアリーなどの使いやすいブログサービスが急速に普及し始めました。これらのサービスは、HTMLプログラミングの知識が全くなくても、Microsoft Wordのようなワープロソフトを使う感覚で、美しく機能的なWebページを簡単に作成・更新できるようにしました。
ブログシステムの革新的な特徴:
時系列でコンテンツが自動的に整理される直感的なインターフェース
コメント機能により読者との双方向的な対話が可能になる
RSS(Really Simple Syndication)により更新情報を自動配信できる
トラックバック機能により他のブログとの相互参照・議論が可能になる
タグ機能による柔軟なコンテンツ分類とカテゴライゼーション
ブログの爆発的普及により、個人の日記、専門的な意見、深い専門知識、創作活動の成果などが前例のない規模でWeb上に蓄積されるようになりました。
これは、従来の企業や大きな組織主導の一方向的な情報発信とは質的に全く異なる、「草の根的」で「多様性に富んだ」情報エコシステムの形成を意味していました。
SNSによる社会関係のオンライン化
同時期に、Friendster、MySpace、mixi、そして後に世界を席巻することになるFacebookなどのSNSが次々と登場しました。これらの革新的なプラットフォームは、人々の現実の社会的なつながりをWeb上で忠実に再現し、それをさらに拡張・深化させることを可能にしました。
SNSがもたらした社会的革新:
実名または一貫したアイデンティティによる責任ある情報発信
友人・知人・同僚とのネットワークの視覚的可視化
写真、動画、近況報告、感情表現などの多様で豊かなコンテンツ共有
共通の興味や関心に基づくコミュニティやグループの自然な形成
現実世界とオンライン世界の境界の曖昧化
SNSの革命的な普及により、Webは単なる情報検索・閲覧ツールから、人々の日常的な社会生活にとって不可欠な重要なインフラへと根本的に変化しました。リアルな人間関係がオンラインに有機的に拡張され、これまで存在しなかった全く新しい形態の社会的交流と関係性の構築が可能になりました。
アプリケーション・プラットフォームとしてのWebの進化
Web2.0時代のもう一つの決定的に重要な変化は、「Web as Platform」という革命的概念の出現でした。これは、Webを単なる情報表示・閲覧の場ではなく、本格的なアプリケーションが動作する統合プラットフォームとして活用する全く新しい考え方でした。
AJAX技術がもたらした体験革命
2005年頃から、AJAX(Asynchronous JavaScript and XML)技術が世界的に広く採用されるようになりました。この技術により、従来のようにページ全体を毎回再読み込みすることなく、ページの一部分だけを動的に更新できるようになりました。
AJAXの導入がもたらした革命的変化:
Webアプリケーションの応答性と操作性が劇的に向上しました
デスクトップアプリケーションに匹敵する滑らかで自然な操作感を実現できました
ユーザーの作業を中断することなく、背景で情報を更新できるようになりました
リアルタイム性が要求されるアプリケーションの開発が可能になりました
GoogleのGmail(2004年)やGoogle Maps(2005年)は、AJAX技術を効果的に活用した代表的な成功例として、Webアプリケーションの無限の可能性を世界中の人々に鮮烈に印象づけました。
API経済とマッシュアップ文化の誕生
Web2.0時代には、API(Application Programming Interface)を積極的に公開する企業が急激に増加しました。これにより、全く異なる複数のサービス間でデータを自由に連携・統合させることが技術的に可能になりました。
時代を画した主要なAPIとその社会的影響:
Google Maps API: 高品質な地図機能を任意のサイトに簡単に埋め込み可能にしました
Amazon Web Services: 本格的なクラウドコンピューティングサービスの先駆けとなりました
Twitter API: ツイートデータの外部利用と新しいアプリケーション開発を可能にしました
Facebook API: ソーシャル機能を他のサイトに統合する革新的な仕組みを提供しました
YouTube API: 動画コンテンツの埋め込みと配信を民主化しました
APIの爆発的普及により、「マッシュアップ」と呼ばれる革新的な開発手法が生まれました。これは、既存の複数のサービスのAPIを創造的に組み合わせることで、従来にない新しい価値を提供するアプリケーションを短期間で効率的に開発する手法です。
クラウドコンピューティング革命の始まり
Amazon Web Services(AWS)の本格的な開始(2006年)は、Web開発とITインフラの在り方を根本的に変革しました。従来は極めて高額な専用サーバーやネットワークインフラを自前で購入・構築する必要がありましたが、クラウドサービスにより、必要な分だけの計算資源やストレージを従量課金で柔軟に利用できるようになりました。
クラウドコンピューティングがもたらした民主化:
資金力の限られたスタートアップ企業でも本格的なWebサービスを開始可能になりました
ユーザー数の急激な増加にも柔軟でスケーラブルに対応できるようになりました
専門的なインフラ運用の知識や人的リソースが不要になりました
初期投資を大幅に削減しながら、グローバルなサービス展開が可能になりました
クラウドの革命的普及は、Web2.0のもう一つの重要な特徴である「スケーラビリティ」と「アクセシビリティ」を技術的に実現する決定的に重要な基盤となりました。
プラットフォーム企業による新しい権力構造の形成
Web2.0の発展と歩調を合わせるように、これまでにない全く新しい形態の企業が急速に台頭しました。それが「プラットフォーム企業」と呼ばれる存在です。
これらの企業は、従来のように物理的な商品を製造・販売するのではなく、ユーザー同士をつなぐ「場」「プラットフォーム」を提供することで価値を創造する新しいビジネスモデルを確立しました。
プラットフォームビジネスモデルの革新的特徴
新興のプラットフォーム企業は、従来の企業とは根本的に異なる以下のような特徴を持っていました:
ネットワーク効果: ユーザーが増加すればするほど、サービス全体の価値と魅力が指数関数的に向上します
基本無料戦略: 核となる機能を無料で提供し、データ活用や広告配信で収益化を図ります
ロックイン効果: ユーザーが他の競合サービスに移行することを構造的に困難にします
データ駆動型改善: ユーザーの詳細な行動データを継続的に蓄積・分析してサービスを改善し続けます
歴史を変えた主要プラットフォームの台頭
2000年代後半から2010年代初頭にかけて、現在でも世界的に巨大な影響力を持ち続ける主要プラットフォームが次々と登場しました:
Google(2004年上場): 検索を起点とした包括的情報プラットフォーム
Facebook(2004年創設): 社会的ネットワークの構築・維持プラットフォーム
YouTube(2005年創設): 動画コンテンツの作成・共有・配信プラットフォーム
Twitter(2006年創設): リアルタイム情報共有・議論プラットフォーム
iPhone/App Store(2007年): モバイルアプリケーションの配信・課金プラットフォーム
これらのプラットフォームは、登場当初は確実にユーザーに計り知れない価値を提供しました。高品質なサービスを基本的に無料で利用でき、地理的制約を超えて世界中の人々と簡単につながることができるようになりました。
データ独占による新しい権力構造の出現
しかし、プラットフォームの急速な成長と市場支配力の拡大とともに、これまでにない全く新しい形態の権力集中が生まれました。それが「データ独占」という現象でした。
プラットフォーム企業は、ユーザーのあらゆる行動を詳細かつ継続的に記録し、そのビッグデータを活用してサービスを改善し、極めて精密なターゲティング広告を配信しました。ユーザーが日々生成する膨大なコンテンツ(写真、投稿、検索履歴、位置情報、購買履歴、人間関係など)は、プラットフォーム企業にとって極めて価値の高い戦略的資産となりました。
深刻な問題は、ユーザーがこれらの貴重なデータに対する所有権や制御権を実質的に完全に失ったことでした:
データの携帯性不足: 自分のデータを他の競合サービスに移行することが技術的・制度的に極めて困難
アルゴリズムの不透明性: 何がタイムラインに表示されるかをユーザーが主体的に制御できない
プライバシーの商品化: 個人の詳細な情報が企業の広告収益の主要な源泉となる
デジタル労働の無償化: ユーザーの投稿・評価・共有行為が無料で企業の価値を創造する
Web2.0の成功と深刻な矛盾
Web2.0は間違いなく「誰でも投稿できる時代」を実現しました。技術的な専門知識を持たない一般の人々でも、世界中に向けて自分の考えや作品を発信できるようになりました。しかし極めて皮肉なことに、この情報発信の民主化過程で、従来とは質的に異なる新しい形態の権力集中と支配構造が生まれてしまいました。
従来のWeb1.0では、情報発信者の絶対数は確かに少数でしたが、それぞれが自分のコンテンツに対して完全な所有権と制御権を保持していました。しかしWeb2.0では、情報発信者は飛躍的に増加したものの、その圧倒的多数が巨大プラットフォーム企業に構造的に依存する体制となってしまいました。
この根本的な矛盾は、やがてWeb2.0に対する深刻で多面的な批判へとつながっていくことになります。
4. Web2.0の限界と批判
Web2.0は確かに歴史的に革命的でした。しかし2010年代に入ると、その輝かしい理想と厳しい現実との間に深刻で解決困難なギャップがあることが次第に明らかになってきました。「誰でも自由に投稿できる」はずのWeb2.0が、実際には少数の巨大企業による前例のない規模の支配構造を生み出していたのです。
中央集権的コントロールの深刻な問題
Web2.0の最も深刻な問題の一つは、プラットフォーム企業が持つ圧倒的で制約のない権力でした。ユーザーが何年もかけて丁寧に蓄積したコンテンツ、フォロワー、人間関係、評判なども、プラットフォーム企業の一方的な判断により一瞬にして完全に失われる可能性が常に存在していました。
アカウント停止(BAN)による深刻な被害
プラットフォーム企業は、自社の利用規約に基づいてユーザーのアカウントを停止する絶対的な権限を保持していました。しかし、この極めて重要な判断プロセスは多くの場合不透明で恣意的であり、ユーザーには十分な事前説明や公正な異議申し立ての機会が与えられませんでした。
実際に頻発した深刻な問題:
AIによる大量誤判定: 自動化されたコンテンツ監視システムによる文脈を無視した誤ったアカウント停止
皮肉や引用の誤解: 批判的引用や皮肉が原文の問題発言として機械的に誤判定される
文化的・地域的偏見: 西欧系企業の価値観が他の文化圏の正当なコンテンツを不適切と一方的に判定
透明性の完全な欠如: 停止理由の具体的説明がない、異議申し立て手続きが形式的で実効性がない
特に深刻だったのは、ビジネスや創作活動の基盤をプラットフォームに依存していたユーザーへの壊滅的な影響でした。YouTubeクリエイター、Instagramインフルエンサー、Twitter上で顧客との関係を築いていた中小事業者などが、明確な理由の説明もないままアカウントを突然停止され、長年築き上げた収入源と社会的基盤を一夜にして失うケースが世界中で続出しました。
検閲と表現の自由への脅威
プラットフォーム企業は民間企業であるため、政府とは異なり憲法上の表現の自由の制約を直接受けません。これにより、企業の独断的な判断でコンテンツの削除や表示制限を広範囲に行うことが法的に可能でした。
深刻な社会問題となった検閲の具体例:
政治的コンテンツの偏向的処理: 特定の政治的立場を支持する投稿の選択的削除や意図的な表示制限
健康・医療情報の一律削除: 公衆衛生当局の公式見解と異なる専門的議論の強制削除(COVID-19関連など)
歴史的事実の隠蔽: 政治的に敏感な歴史的出来事に関する学術的投稿の制限
報道の自由への介入: 政府や大企業に不利な調査報道の表示制限や拡散阻害
特に問題だったのは、これらの重要な判断基準が一貫しておらず、予測可能性が全くないことでした。同じような内容でも、投稿者の社会的地位、時期、政治的情勢によって全く異なる扱いを受けることがあり、ユーザーには安心してコンテンツを投稿できる環境が提供されませんでした。
広告モデルの構造的問題と社会への悪影響
Web2.0の経済モデルは、主として広告収入に完全に依存していました。表面的には「無料」でサービスを提供し、ユーザーの貴重な注意と時間を広告主に「商品として販売」するビジネスモデルでした。しかし、このモデルには社会全体に深刻な悪影響を与える構造的な問題が内在していました。
アテンション・エコノミーがもたらした中毒性の問題
広告収益モデルでは、ユーザーがプラットフォーム上で過ごす時間(エンゲージメント)の長さが直接的に企業収益に直結します。このため、プラットフォーム企業は意図的に「中毒性」を高めるような機能設計を行うインセンティブを構造的に持っていました。
ユーザーの中毒性を意図的に高める巧妙な仕組み:
無限スクロール機能: 終わりのないコンテンツフィードでユーザーを長時間引き留める設計
戦略的プッシュ通知: 常にアプリに戻らせるための計算された通知機能
承認欲求刺激システム: いいね・シェア・コメント機能による社会的承認欲求の巧妙な刺激
AI推薦アルゴリズム: ユーザーの心理を詳細に分析して次々と魅力的なコンテンツを提示
これらの精巧に設計された仕組みは確かに企業にとって効果的でしたが、ユーザーの精神的健康と社会生活に深刻で長期的な悪影響を与えることが医学的・心理学的研究により明らかになりました。特に感受性の高い若年層において、SNS依存症、自己肯定感の慢性的低下、睡眠障害、現実逃避などの問題が深刻な社会問題となりました。
フィルターバブルによる社会分断の加速
高度なAIアルゴリズムによるコンテンツ推薦は、ユーザーの過去の行動履歴を詳細に分析して「興味がありそうな」情報を優先的に表示します。しかし、この技術的に高度なシステムにより「フィルターバブル」と呼ばれる深刻な社会現象が生まれました。
フィルターバブルがもたらした社会的問題:
情報の極度な偏向: 自分の既存の信念や価値観を強化する情報ばかりが継続的に表示される
多様性の系統的排除: 異なる視点や価値観に触れる機会が構造的に減少する
確証バイアスの病的増強: 自分の考えが絶対的に正しいという思い込みが異常に強化される
社会の深刻な分断: 全く異なる情報環境で生活する集団間の相互理解が不可能になる
この現象は、政治的な過激な分極化、科学的根拠のない陰謀論の爆発的拡散、確立された科学的事実の広範囲な否定などの深刻な社会問題と密接に関連していることが多くの社会科学研究により実証されました。
偽情報・ディスインフォメーションの構造的拡散
Web2.0の「誰でも自由に投稿できる」という民主的な特徴は、確かに情報発信の民主化をもたらしました。しかし同時に、悪意ある偽情報や意図的なディスインフォメーションの大規模拡散という前例のない深刻な問題も生み出しました。
偽情報が構造的に拡散される要因:
感情的拡散の優位性: 客観的事実確認よりも感情に訴える情報の方が圧倒的に速く広範囲に拡散される
経済的インセンティブの歪み: センセーショナルで刺激的な偽情報の方が広告収入を生みやすい構造
技術的検証の限界: 膨大な投稿量を人間が事実確認することの物理的不可能性
言論の自由との根本的矛盾: 過度な検閲は民主的な表現の自由を侵害する深刻な恐れ
特に選挙期間中、公衆衛生上の危機(パンデミックなど)、国際紛争時において、悪質な偽情報が社会の安定と人々の生命に与える影響は計り知れないものとなりました。
データ自己所有権の概念的不在
Web2.0時代において、ユーザーが最も根本的に失ったものの一つが「データの所有権」でした。従来のWeb1.0では、個人や組織が自分自身のサーバー上にコンテンツを保存し、それに対する完全な制御権と所有権を保持していました。
しかしWeb2.0では、ユーザーが日々生成するあらゆる貴重なデータがプラットフォーム企業のサーバー上に蓄積され、法的にも実質的にもその企業の独占的資産となってしまいました。
データ生成と価値創造の深刻な非対称性
Web2.0プラットフォームのビジネスモデルは、本質的に「ユーザーが無償で価値を創造し、企業がその価値を独占的に収益化する」という極めて不平等な構造でした。
ユーザーが日々無償で提供していた膨大な価値:
創造的コンテンツ: 投稿、写真、動画、レビュー、評価、創作物
貴重な関係性データ: 友人関係、フォロー関係、コミュニケーション履歴、信頼関係
詳細な行動データ: クリック、滞在時間、購買履歴、移動軌跡、検索履歴
希少な注意力: 広告を見る時間、エンゲージメント、集中力
これらの極めて価値の高いデータは、プラットフォーム企業にとって戦略的に重要な独占的資産となりました。精密なターゲティング広告、高度な商品推薦、革新的な新機能開発、さらには他社への有償データ提供など、様々な形で巨額の収益化が行われました。しかし、この膨大な価値創造の実際の源泉であるユーザー自身は、自分が生み出した価値に対する適切な対価を一切受け取ることはありませんでした。
データポータビリティの構造的欠如
Web2.0プラットフォームのもう一つの深刻な問題は、ユーザーが自分自身のデータを他の競合サービスに移行することが技術的・制度的に極めて困難に設計されていたことです。
データ移行を阻害する巧妙な障壁:
独自フォーマットによる囲い込み: 各プラットフォーム独自の特殊な形式でデータが保存され相互運用性が意図的に排除
関係性データの複雑性: 友人関係やフォロワーネットワークなどの社会的つながりの移行が構造的に困難
厳格なAPI制限: 自分のデータの一括取得に対する技術的・政策的な厳しい制限
ネットワーク効果の悪用: 友人・知人がいないプラットフォームに移行することの実質的無意味性
この結果、ユーザーは実質的に特定のプラットフォームに「デジタル的に囚われる」状況が意図的に作り出されました。サービスの質や企業の方針に深刻な不満があっても、長年蓄積した貴重なデータや大切な人間関係を失うことを恐れて、他のより良いサービスに移行することが実質的に不可能になってしまいました。
プライバシーパラドックスの社会的浸透
Web2.0時代には「プライバシーパラドックス」と呼ばれる矛盾した現象が社会全体に広く観察されました。これは、ユーザーがアンケート調査などではプライバシー保護を重視すると回答する一方で、実際の日常行動では個人情報を極めて容易に提供してしまう深刻な矛盾でした。
この社会的矛盾の構造的背景:
理解困難な複雑な利用規約: 一般ユーザーには解読不可能な専門的法律文書による同意の形骸化
即時利益と長期リスクの比較困難: 目の前の便利さと将来の深刻なプライバシーリスクの適切な比較評価の困難
情報の完全な非対称性: 企業がどのようにデータを使用・悪用するかの意図的な不透明性
現実的選択肢の不在: 同等の利便性でより良いプライバシーポリシーを持つサービスの不存在
Cambridge Analytica事件:Web2.0問題の象徴的集約
Web2.0の構造的問題が最も象徴的かつ衝撃的に表面化したのが、2018年に世界的な注目を集めたCambridge Analytica事件でした。この事件は、Web2.0時代のデータ利用における根本的問題点を集約的に示す歴史的に重要な出来事となりました。
事件の詳細な経緯と社会的衝撃
Cambridge Analytica事件の時系列的展開:
データ収集の開始(2014年頃): 表向きは学術研究目的として、Facebook上でパーソナリティ診断アプリ「thisisyourdigitallife」を提供開始
権限の悪用拡大: アプリ利用者約30万人だけでなく、その友人・知人の詳細な個人情報も無断で大量収集
政治的悪用への転用: 収集された約8,700万人分の詳細なデータを政治的ターゲティング広告に無断使用
民主的プロセスへの介入: 2016年アメリカ大統領選挙やイギリスBrexit国民投票などで有権者の政治的判断に深刻な影響を与えた可能性
内部告発と社会的発覚(2018年): 内部関係者の勇気ある告発により事件が明るみに出て、世界的な議論と法的追及が開始
事件が暴露したWeb2.0の構造的欠陥
この事件は、単純な「データ流出事故」ではなく、Web2.0のビジネスモデルと技術設計そのものに深く内在する構造的問題を鮮明に浮き彫りにしました:
同意システムの完全な形骸化
ユーザーは自分が何に実際に同意しているのか全く理解していませんでした
極めて複雑で読解困難な利用規約により、広範囲なデータ利用に表面的には「合法的に」同意していました
自分だけでなく友人・知人の詳細な情報まで取得・悪用されることは想定外でした
データの無制限な二次・三次利用
学術研究目的で収集されたはずのデータが商業・政治目的に無断転用されました
ユーザーの全く知らないところでデータが第三者に販売・提供されていました
収集時の目的とは全く異なる用途での無制限な利用が行われました
プラットフォーム企業の責任回避体制
Facebook(現Meta)は「データが悪用された被害者」という立場を主張しましたが、そもそもそうした悪用を技術的に可能にする危険なシステムを意図的に提供していました
根本的な構造改革ではなく表面的で事後的な対応に終始し、問題の本質的解決には至りませんでした
その他の重大なデータ関連事件
Cambridge Analytica事件以外にも、Web2.0の深刻な構造的問題を象徴する重大な事件が世界各地で相次ぎました:
Equifax個人情報大量漏洩事件(2017年)
アメリカの大手信用情報機関から約1億4,700万人の機密性の高い個人情報が漏洩しました
社会インフラとして重要な信用情報システムのセキュリティが根本的に脆弱だったことが判明しました
ユーザーは自分の重要な情報がEquifaxに保存されていることを選択も承認もしていませんでした
Yahoo大規模データ侵害事件(2013-2014年)
史上最大規模となる約30億件のユーザーアカウントが侵害されました
侵害から数年間も発覚せず、Yahoo売却交渉時に初めて問題が表面化しました
個人情報の大規模一元管理に内在する深刻なリスクが明確になりました
NSAによる秘密大規模監視の発覚(2013年)
エドワード・スノーデンの命をかけた内部告発により、政府による秘密監視プログラムが発覚しました
政府機関がWeb2.0プラットフォーム企業と密接に連携して市民のデータを大規模監視していたことが判明しました
PRISMプログラムなどにより、裁判所の令状なしでの違法な大規模データ収集が常態化していました
TikTokデータ安全保障問題(2020年〜)
中国企業によるアメリカ・欧州ユーザーのデータ収集に対する深刻な安全保障上の懸念が表面化しました
地政学的リスクとデータ主権の問題が国際政治の重要議題となりました
国境を越えたデータ移転と管理権限に関する根本的な問題が提起されました
Web2.0批判の思想的・理論的発展
これらの具体的で深刻な問題を受けて、Web2.0に対する根本的で体系的な批判理論が学術界と市民社会で形成されていきました。この批判は単なる技術的な問題指摘を遥かに超えて、デジタル時代における社会の在り方、民主主義の未来、人間の尊厳に関する深い思想的議論へと発展しました。
デジタル封建制(Digital Feudalism)理論
一部の鋭敏な社会思想家は、Web2.0の権力構造を「デジタル封建制」と呼んで根本的に批判しました。この概念は現代デジタル社会の本質を鮮明に表現する強力な分析枠組みとなりました:
プラットフォーム企業 = デジタル封建領主: デジタル空間という「土地」を独占的に所有し、そこで生み出されるあらゆる価値を収奪します
一般ユーザー = デジタル農奴: デジタル空間で日々労働(コンテンツ生成・評価・共有)しますが、その成果の大部分は領主の所有物となります
個人データ = デジタル農作物: ユーザーが懸命に生み出しますが、所有権と収益は全て領主に独占的に帰属します
この歴史的比喩は、Web2.0が表面的には「民主的」で「参加型」に見えながら、実際の権力構造は中世封建制度に匹敵するほど極めて階層的で不平等であることを鮮明に表現しました。
監視資本主義(Surveillance Capitalism)理論
ハーバード大学ビジネススクールの著名な研究者Shoshana Zuboffが提唱した「監視資本主義」理論は、Web2.0批判の最も重要で影響力のある理論的基盤となりました。
監視資本主義システムの本質的特徴:
行動データの系統的抽出: ユーザーのあらゆる行動を24時間365日詳細に記録・蓄積・分析します
予測製品の大量生成: 蓄積されたビッグデータから個人の将来行動を予測する「商品」を作成します
行動修正市場の確立: 人々の行動や判断を意図的に変化させるサービスを企業や政府に販売します
Zuboffは、これが18世紀の産業資本主義とは質的に全く異なる新しい経済システムであり、個人の自律性、民主的な意思決定プロセス、そして民主主義制度そのものを根本から脅かす危険な存在だと警告しました。
技術決定論的楽観主義への根本的反発
Web2.0初期には「技術決定論」的な楽観的言説が支配的でした。これは「技術の進歩は自動的に社会を良い方向に導く」「イノベーションは必然的に人類の幸福を増進する」という根拠のない信念でした。しかし、現実の深刻な問題を目の当たりにして、多くの知識人と市民がこの単純な技術楽観論に根本的な疑問を抱くようになりました。
技術決定論への体系的反論:
技術は決して中立的ではなく、常に設計者・投資者・権力者の価値観と利害関係を強く反映します
技術の社会的影響は、その導入プロセス、制度設計、規制枠組みによって根本的に左右されます
「効率性」「利便性」と「人間的な社会」「民主的な社会」は必ずしも一致しません
技術的解決策だけでは社会的・政治的・倫理的問題は解決できません
分散化・民主化への切実な回帰要求
こうした多面的で深刻な批判を背景として、「分散化」「民主化」への回帰を求める声が世界中で急速に高まりました。これは、Web1.0時代に確実に存在していた「誰もが自分自身のサーバーを持ち、自分のデータを完全にコントロールする」という理想的状態への回帰を意味していました。
しかし、単純にWeb1.0時代に戻ることは現実的ではありませんでした。Web2.0が確実に提供した価値(簡単で直感的な情報発信、豊富で多様なコンテンツ、グローバルなつながりと交流)を犠牲にすることは、社会的に受け入れられません。
真に必要だったのは、Web2.0の利便性と豊かさを維持・発展させながら、同時にWeb1.0の分散性、自主性、ユーザー主権を回復することでした。
この極めて困難で複雑な要求に対する革新的な回答として提示されたのが「web3」という概念でした。web3は、ブロックチェーン技術を中核的基盤として、中央集権的なプラットフォーム企業に依存することなく、Web2.0的な豊かな機能とユーザー体験を実現することを目標としました。
しかし、web3という言葉がいつ、誰によって、どのような具体的な文脈と思想的背景の中で生み出されたのかを正確に理解するためには、その提唱者であるGavin Woodの個人的・思想的背景と、彼がweb3概念に込めた深い意図と理想を詳細に検討する必要があります。
おわりに:Web2.0の限界からweb3への歴史的転換点
前編では、Web1.0からWeb2.0への歴史的変遷と、Web2.0が最終的に抱えるに至った深刻で多面的な構造的問題について詳細に検討してきました。
Web2.0は確実に「誰でも自由に投稿できる時代」を実現し、情報発信とコミュニケーションの歴史的民主化に計り知れない貢献をしました。しかし極めて皮肉で悲劇的なことに、この民主化過程において、従来にない規模と質の新しい権力集中と支配構造が形成されてしまいました。
Cambridge Analytica事件に代表される一連の出来事は、Web2.0の問題が単なる技術的欠陥や運用上の失敗ではなく、そのビジネスモデル、技術設計、社会思想に深く根ざした本質的で構造的な問題であることを明確に示しました。
広告収益に完全依存し、ユーザーデータを主要な収益源とするプラットフォーム企業は、構造的にユーザーの真の利益と企業の経済的利益が対立・矛盾する体制を生み出しました。
こうした深刻な問題意識と危機感を背景として、全く新しいインターネットの在り方を模索する知的・技術的運動が生まれました。それがweb3という概念でした。
しかし、web3は決して単なる技術的ソリューションや商業的トレンドではありません。そこには、インターネットの本来の理想と可能性を回復しようとする深い思想的意図と社会変革への強い意志が込められています。
後編では、web3という画期的な言葉がいつ、誰によって、どのような歴史的・思想的文脈の中で生み出されたのかを詳細に追跡していきます。
また、web3が目指す分散化・民主化の崇高な理想と、それが現実に直面している複雑で困難な課題についても公正に検討します。Web2.0の構造的限界を真に乗り越える新しいインターネットの未来が、果たして技術的・社会的に実現可能なのか。その可能性と条件を、歴史的視点と批判的視点の両方から探究していきたいと思います。
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