【USAT】Tether社による米国GENIUS法対応のドル連動型ステーブルコイン / 発行はAnchorage Digital Bank、カストディと米国債取引はCantor Fitzgeraldが担う / @USAT_io
100%資産裏付け・月次開示・AML/KYC・消費者保護などの要件を満たす設計
おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
今日は「USAT」についてリサーチしました。
🇺🇸USATとは?
⚙️運営主体とパートナー
💬ステーブルコインは通貨戦争
🧵TL;DR
USATはTether社が2025年9月に発表した米国規制対応のドル連動型ステーブルコインで、1 USAT=1米ドルを完全準備資産で担保する。
米国のステーブルコイン法「GENIUS法」に準拠し、100%資産裏付け・月次開示・AML/KYC・消費者保護などの要件を満たす設計となっている。
発行はAnchorage Digital Bank、カストディと米国債取引はCantor Fitzgeraldが担い、Tetherは新部門「Tether US」を設立し、Bo Hines氏をCEOに迎える。
プロジェクトは米国での正当性強化とドル支配力維持を狙い、2025年末ローンチ予定。
🇺🇸USATとは?
USATはTether社が2025年9月に発表した米国規制対応のドル連動型ステーブルコインです。1 USATの価値は常に1米ドルに保たれ、完全な準備資産によって裏付けられたデジタルドルとして設計されています。
Tetherは58.96%と世界第一位のシェアを誇るステーブルコインのUSDTを発行していますが、米国当局からは透明性や監督面で批判を受けてきました。
USATはこうした課題に応えるため、米国の法的基準(GENIUS法)に準拠した透明な準備金管理と情報開示を約束しています。Tether社は、USATによってデジタル資産分野における米ドルの支配力を維持・強化し、同時に透明性やコンプライアンス(規制遵守)を高水準で実現することを目指しています。
また、このプロジェクトは、海外市場で成長してきたTetherが、米国市場での正当性と存在感を高める「次の章」と位置付けられています。Tether社CEOのパオロ・アルドイーノ氏によれば、USATは「デジタル資産空間における信頼の基盤として米ドルを維持する」ための製品であり、米国内のビジネスや個人が仲介者なしにドルをやり取りできる自由を提供することで、新興経済圏や在外送金など様々なユースケースに貢献できるとされています。
◼️GENIUS法とは
USATの細かい説明に行く前に、ここで少しだけGENIUS法について説明しておきます。
USATは、2025年に成立した米国のステーブルコイン法「GENIUS法」(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)に準拠した初の主要ステーブルコインとなります。

GENIUS法は米国におけるステーブルコイン発行・流通の包括的な規制枠組みを定めた法律で、以下のような主要要件を課しています。
完全資産担保と情報開示:発行済みステーブルコインを常に流動性の高い資産で100%裏付けること、および準備金の内訳を月次で公開すること
消費者保護:ステーブルコインに関する広告や勧誘において誤解を招く表示を禁止し、利用者資金の保全や優先的返還権など一定の保護措置を講じること
AML/KYCの徹底:すべての顧客に対してマネーロンダリング防止(AML)や本人確認(KYC)手続きを実施し、不正資金や制裁対象者の利用を防止すること
USATはこれらの要件を満たすよう設計されており、発行時点から米国法に完全準拠する姿勢が打ち出されています。
例えば、準備資産は米国信託銀行が保管し、毎月の監査・開示報告が行われる予定です。また、利用者についても銀行の口座開設プロセス等を通じてKYC情報の確認がなされ、匿名のまま大量送金が行われるといった事態を抑止します。
さらにTether社は、USATのモデルによって長年指摘されてきた自社の不透明性(例えば準備金に関する疑念)への対応策になると強調しています。
⚙️運営主体とパートナー
では、細かい仕組みについて説明していきます。とはいえ、仕組みと言ってもステーブルコインのプロジェクトなので、技術的な詳細ではなく座組みの説明です。
◼️発行基盤
USATはTether社独自の資産トークン化プラットフォーム「Hadron」上で発行・運用される予定です。HadronはRWAのトークン化に特化した最先端のプラットフォームであり、ブロックチェーン技術を活用してトークンの発行・管理や取引の追跡をシームレスかつコンプライアンス対応で行える仕組みを備えています。
具体的にどのブロックチェーン上で発行されるか正式には公表されていません。
◼️発行主体とカストディアン
USATは1トークン=1米ドルの価値を維持するために、発行量と同額の準備資産を確保するフルバック方式を採っています。準備金には米ドル現金や米国短期国債など高流動性資産が充当される予定で、発行主体はいつでも1 USATを1 USDで換金可能と保証します。
この担保資産は信託銀行であるAnchorage Digital Bankによって保有・管理され、さらに金融大手のCantor Fitzgerald社がカストディ(保管管理)および米国財務省証券の優先的売買業者として関与します。
Anchorageは米通貨監督庁(OCC)から全米信託銀行としてチャーター(認可)を受けた金融機関であり、GENIUS法に準拠したステーブルコイン発行者としてUSATを発行・管理します。Tether社は、自社(エルサルバドル拠点の企業)が直接USATを発行するのではなく、米国の銀行であるAnchorageを発行主体に据えることで米国の規制網に完全に則った体制を整えています。Anchorageは新設されるUSAT事業の主要株主の一つにもなる予定であり、準備金利息等の収益も共有すると報じられています。
Cantor Fitzgeraldは米国の大手金融サービス企業であり、USATプロジェクトにおいて準備資産のカストディアン(保管管理者)および優先プライマリーディーラーを務めます。具体的には、USATの裏付けとなる米ドルや米国債などの資産を安全に保管し、必要に応じて米国債等の売買を行って流動性を確保する役割です。Cantor Fitzgeraldは米国財務省公認のプライマリーディーラー(国債入札の直接参加資格を持つ金融機関)でもあり、Tether社にとって信頼性の高いパートナーとして準備金運用を担います。
Tether社はこの連携により、自社の準備資産運用に対する市場の懸念(過去に透明性への批判があった)を払拭し、第三者機関の管理下で準備金の健全性と流動性を確保する狙いがあります。
◼️Tether US新設
さらに、USAT展開にあたり、Tether社は米国向け新部門「Tether US」に相当する組織を立ち上げ、CEO候補としてボー・ハインズ(Bo Hines)氏を任命しました。
ハインズ氏は元ホワイトハウス暗号資産顧問(大統領府デジタル資産諮問委員会の元事務局長)という経歴を持ち、政策・法律の専門知識に通じた人材です。彼の就任は、米国の規制当局や政府との連携を重視するTether社の姿勢を示すものと言えます。
◼️変遷と今後のスケジュール
USATプロジェクトは2025年7月のGENIUS法成立を受けて本格化しました。
8月にはボー・ハインズ氏がTether社の米国戦略顧問に就任し、米国参入の準備が進められます。そして2025年9月12日、ニューヨーク市内で開催されたイベントにてTether社CEOのパオロ・アルドイーノ氏がUSATの計画を正式発表しました。
そして、この発表と同時に、ハインズ氏が新設される「Tether USA₮」部門のCEOに就任予定であることも公表されました。
プロジェクト発表後は、必要な規制当局への届出や技術インフラの最終調整が行われる見込みです。アルドイーノCEOは「年末までに」(2025年末までに)USATをローンチする計画であると述べており、現在その目標に向け準備が進められている段階です。
💬ステーブルコインは通貨戦争
最後は総括と考察です。
遂にTetherの米国準拠型USATが発表されました。個人的にはまず第一印象でネーミングが良いと思いました。何の略であるかの説明は発見できなかったのですが、おそらくUSA Tetherだと思います。普通のステーブルコインはUSD+○○なので、USATというアメリカを冠していそうな名前はかなり良さそうです。
で、USATがどうなるのかはまだ詳細が発表されていないので全く分かりませんが、おそらくかなりの予算をかけて展開していくことが予想されます。そのタイミングで、Tetherが支援しているステーブルコイン特化チェーンのStableやPlasmaもメインネットがリリースされていきそうなので、そこと連携しながらのキャンペーンも予想されます。
GENIUS法では準備資金の運用益の還元は禁止されているので、USAT保有者にリターンをもたらすのであれば、何らかの建て付けが必要です。なので、チェーンの普及とセットで、例えばStable上にUSAT持っていたら15%のAPYで運用できる、みたいなことをTether側の資金の持ち出し、またはエアドロップでやっていくんじゃないかなと考えています。
かなりの費用はかかりますが、もともとキャッシュリッチですし、ステーブルコインとチェーンの普及が出来て一石二鳥ではあります。
それから、少し話は変わりますが、ステーブルコインはどの国にいる人でも簡単に利用できます。日常生活における決済から、DeFiに接続して資産運用をするまで、慣れると非常に使い勝手の良い存在です。
なので、これは少し広い視野で考えると国家間の通貨戦争に繋がりうると考えています。ドル基軸のステーブルコインが世界中に国で日常的に利用され、資産運用にも利用されると、その国の法定通貨の需要は落ち、ドルの需要が増します。
当然ながら、その国の税金の支払いは法定通貨でしなければいけないので最低限の需要は担保できますが、日常生活で利用されなくなるかもしれません。そうなると、国家としての経済政策や金融政策が打ちづらくなり、間接的にドル経済に支配される可能性もあります。
ここまで極端にはならないと思いますが、ステーブルコインの普及はそういう可能性を秘めていると思います。なので、アメリカ政府からすれば、ドルが世界中に広がり、さらに準備資金は米国債を大量に買ってくれるわけなので、一石二鳥です。
だからこそ、ステーブルコインは便利だからとか、新しい技術だからとかで利用を推進するのではなく、自分たちの法定通貨での経済圏を作っておかないと、全てドルに代替されるので、防衛のためにも早めにやった法が良いと思っています。すでにDeFiの99%はドル基軸ですし、DeFiで株式も買えてETFも買えるとなってくると、ドルステーブルコインでアメリカ株やETFを購入して運用することが当たり前になっていくと思います。
この辺は色々な考え方はあると思いますが、マクロで考えた時のリスクは外せず、一度定着するとひっくり返すのはかなり難しいので、時間軸が勝負だなと思いました。
USATの話と少しそれましたが、Tetherが本気でUSATをアメリカ、そして改めて世界中に展開していくことを考えるとこの1年はさらにドルステーブルコインが普及しそうだなと思ったので、色々と思うところがあり書いてみました。
以上、「USAT」のリサーチでした!
🔗参考リンク:HP / X
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