【Sui完全レビュー(前編)】誕生からローンチまでの変遷 / Mysten LabsとSui財団 / コンセンサスメカニズムと処理プロセス / オブジェクトデータモデル / @SuiNetwork
2024年9月時点のSuiについて徹底解説します。
おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
本日はくりぷとくりぷとさんによる寄稿記事です。「Sui完全レビュー」と題して、全3本に渡り、2024年9月時点のSuiの全てを解説いただきました。今日から3日間連続更新です。僕自身も非常に勉強になる内容でした、ぜひ最後までご覧ください!
Suiの完全レビュー記事を書き始めるにあたり、ざっと目次を作成してしたのですが、膨大な量になってしまいました(笑)。なので、このレポートは、前編、中編、後編の3つに分けてお届けすることにしました。全て一気に読むと、非常に体力が必要なレポートだと思いますが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
そもそも、なぜこんなにも長い記事になってしまったのか?
それは、Suiには語るべきトピックがあまりにも多いからです。現在のSuiは、すべてのブロックチェーンで最高の処理速度、理論上無限のスケーラビリティを有しています。そして、たった1年足らずでエコシステムは成長し最大7.5億ドルものTVLを集めています。さらに、2025年にはWeb3プロジェクトとしては初となるコンシューマー向けゲーム機の発売が予定されています。
高性能ブロックチェーンはたくさんあります。その代表格と言えばSolanaですが、なぜSolanaではなくSuiが必要なのか?Suiの競争優位性とはなんなのか?
このレポートでは、その答えを探り、皆様に提示できればと思います。
1.Suiの誕生からローンチまで
2.Mysten LabsとSui財団
3.レイヤー1ブロックチェーンの価値を再考する
4. コンセンサスメカニズムと処理プロセス
5.オブジェクトデータモデルとは何か?
1.Suiの誕生からローンチまで
Suiの物語は、Meta(旧Facebook)のブロックチェーンプロジェクト「Diem」(旧Libra)から始まります。2018年、Metaは暗号通貨、プログラミング、分散システムの専門家チームを結成し、世界規模の決済ネットワークを構築するためにLibraプロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトの中心には、Libraのために開発したスマートコントラクト用プログラミング言語「Move」がありました。
しかし、その壮大なビジョンにもかかわらず、Libraは規制当局からの強い反発に直面しました。2019年には主要なパートナーが次々とプロジェクトから撤退し、Libraはブランドを「Diem」に変更して新たなスタートを切ろうと試みました。
しかし、2021年の夏、連邦準備制度理事会(FRB)の法務顧問がDiemのステーブルコインプロジェクトに対する懸念を示したことで、プロジェクトの未来は一層厳しいものとなりました。これ以上前進できないと悟ったMetaの開発者たちは、自分たちが築いたMove言語の新たな用途を見出すためにMetaを離れる決意をしました。彼らは未来を見据え、2021年9月にブロックチェーン開発企業Mysten Labsを設立しました。
チームのメンバーを紹介します。
Mysten Labs のCEOである Evan Cheng 氏は、Metaに入社する前はApple で働いていました。Appleでは、LLVMのバックエンドチームを率いていました。LLVM は、iOS アプリの実行速度を高速化することで知られています。Evan 氏は LLVM に関する功績により、2013 年に ACM Software System Award を Chris Lattner 氏と共同で受賞しました。
CPOのAdeniyi Abiodun氏は、JP MorganおよびHSBCでシニアソフトウェアエンジニアを務め、Oracle ではブロックチェーンの設計に携わっていました。同氏は、Metaで製品開発を率いる前は、VMware で製品を監督していました。
CTOのサム・ブラックシアー氏は、Metaのプリンシパルエンジニアとして在職中に、Suiのプログラミング言語であるMoveを作成したことで有名です。また、Libra Blockchain論文への参加など、Diemプロジェクトにも大きく貢献しました。
セキュリティとプライバシーエンジニアリングの専門家のジョージ・ダネジスは、英国の名門大学ロンドン大学で10年間セキュリティおよびプライバシー工学の教授を務めました。彼はSuiの新しいコンセンサスアルゴリズムであるMysticetiの作成者でもあります。
そして著名な暗号学者の Konstantinos Chalkias 氏は、MetaとR3で暗号学チームを率いていました。彼はSuiのシームレスなオンボーディングフレームワークであるzkLoginの共同作成者でもあり、Stashedの前身となるzkSend などの開発にも携わりました。
彼らはMysten Labs設立後、Moveを基盤とする新しいブロックチェーン「Sui」の開発に全力を注ぎ、最高品質のブロックチェーンを構築するために尽力しました。そして、ついに2023年5月3日、Suiは正式にローンチされました。この瞬間は、長い旅路の終わりであり、新たな始まりでもありました。
2.Mysten LabsとSui財団
Suiのプロジェクトに関わる重要なエンティティとして、Mysten LabsとSui財団の存在があります。両者は異なる役割を担いながら、連携してネットワークの発展を支えています。
Mysten Labs
Mysten Labsは、Suiネットワークの技術開発を主導する営利企業です。彼らの主要な役割は、Suiの技術基盤を構築し、Moveプログラミング言語を利用したブロックチェーンの設計と実装を行うことです。実際にMysten Labsは次々と新しい技術をリリースしておりSuiの革新を推進しています。加えて、Mysten Labsは開発者向けツールやSDK(ソフトウェア開発キット)の提供、技術サポートを通じて、Suiエコシステム内の各種製品やサービスの開発をサポートしています。
Sui財団
Sui財団(Sui Foundation)は、Suiエコシステムの成長を支援する非営利組織です。一般的に、財団の役割は、ネットワークの方針やアップデート、改善提案に対するコミュニティ投票や決定を行うための仕組みを運営することにありますが、現在Suiにはコミュニティガバナンスの仕組みはないので実質的にSui財団主導でプロジェクトが進められていると言えます。Sui財団はエコシステムの成長のためにSuiネットワーク上で活動するスタートアップやプロトコルに資金提供を行います。また、Suiに関する教育活動も積極的に行い、The Sui Blogの運営をはじめ、ワークショップやイベントの機会を提供しています。
Mysten LabsとSui財団は、それぞれ独立した異なる組織ではあるものの、密接に連携しておりMysten LabsのファウンダーチームはSui財団にも影響を与える存在です。
3.レイヤー1ブロックチェーンの価値を再考する
Suiは、Solana、Aptos、Sei、Monad等と競合する垂直統合型のブロックチェーンです。多くの人はSolana以降の高性能ブロックチェーンは、単に既存のテクノロジーで新しいストーリーを創造するだけの退屈なナラティブだと思っているでしょう。
Web3の世界は、基本的にオープンソースという性質上、プロダクトは簡単に模倣されます。そのため、ある領域が有望だと判断されると、多くの人がそれを真似て市場に参入するという状況になります。そのため2021年と2022年に大量のレイヤー1ブロックチェーンが登場し、Web3はブロックチェーンの死海と化したわけです(現在、この現象はEthereumレイヤー2に移行しています)。
これは、レイヤー1ブロックチェーンを構築することがもはや意味がないことを意味するのでしょうか?
確かに、レイヤー1ブロックチェーンが以前のように注目を集める時代ではなくなりました。しかし、レイヤー1ブロックチェーンが現在も意味のある差別化を提供できると仮定すると市場にはまだチャンスがあると思います。つまり、根本的に正当な哲学とテクノロジーだけが、新しいレイヤー1として存在する意義があります。
Move言語の作成者であるサム・ブラックシアー氏は、「スマートコントラクトプラットフォームの有用性は、そのプラットフォーム上で実行されるプログラムがアトミックにアクセスできる興味深い共有状態の量に比例する」と述べています。おそらくこれが垂直統合型ブロックチェーンの本質的な価値でしょう。
この点で、私はSuiのzkSendやzkLogin、ダイナミックNFTを実現する様々なSuiのアーキテクチャはブロックチェーンが真のマスアダプションを達成するために、どのように進化すべきかを示してくれているように思えます。
Suiが他のレイヤー1ブロックチェーンと一線を画す最大の特徴は、「アプリケーション間のシームレスなインタラクション」を可能にすることです。これは、単なる技術的な改良ではなく、ブロックチェーンの本質を再定義する試みではないでしょうか。
4. コンセンサスメカニズムと処理プロセス
Suiのコンセンサスメカニズムは、2024年7月に、Mystecetiという新しいコンセンサスエンジンが導入されました。Mystecetiは、以前のコンセンサスプロセスをさらに改善し、驚くべき低レイテンシー、わずか390ミリ秒を実現しています。
Keep reading with a 7-day free trial
Subscribe to web3 Research JAPAN to keep reading this post and get 7 days of free access to the full post archives.