おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
毎週土日の昼には基礎単語解説記事をお届けします。各記事をサクッと読めるような文量にして、改めて振り返れる、また勉強できるような記事を目指していきます。
本日は「スラッシング」です。
ぜひ最後までご覧ください!
web3の世界では、間違えると罰を受けます。例えば、バリデーターがルールを破ると、担保として預けたトークンが没収され、これをスラッシングと呼びます。
多くの人がこれを恐怖による支配と感じるかもしれませんが、実はそうではありません。スラッシングは、誰も信じない世界で秩序を保つための、極めて合理的で必要な安全装置です。
「善意」に依存するシステムはなぜ壊れるのか
現実世界では、多くのシステムが人間の善意を前提に設計されています。銀行員は顧客の資金を横領しないと信じられています。医者は患者の健康を害さないと信じられています。しかし、この信頼は監視や法的な罰の仕組みがあるからこそ成立しています。
では、人間は本当に誠実でしょうか。例えば、わずかな悪意を持つ少数が、全体のシステムを破壊することができます。スパム送信者、詐欺師、贈収賄を行う人間は常に存在します。
セキュリティ設計は性善説では成立しません。むしろ、すべての参加者が自分の利益を最大化しようとすることを前提に、システムを構築する必要があります。これが「トラストレス」の本質です。
現実世界にも存在する「罰」の仕組み
現実世界はすでに罰の仕組みを完成させています。法律は違反者を罰します。契約は違約金を定めます。企業は不正を行った従業員を解雇します。
これらすべての罰は、実は秩序を守るためのコストです。罰がなければ、誰もルールを守ろうとしません。罰は信頼を補完する仕組みであり、システムが機能するために不可欠です。
現実世界では、国家という中央集権的な管理者が罰の執行者となっています。警察が盗人を逮捕し、裁判所が判決を下し、刑務所が犯人を隔離します。
しかし、ブロックチェーンにはこのような中央管理者が存在しません。では、誰が罰を執行するのでしょうか。答えは、経済的インセンティブそのものです。
PoSにおいてバリデーターは何を約束しているのか
ブロックチェーンのプルーフオブステーク(PoS)では、バリデーターはネットワークの安全性を守る責任を担います。彼らは「正しく検証し続ける」という暗黙の契約を交わしています。
ステークとはこの契約の担保です。バリデーターは一定額のトークンを預け、その見返りとして報酬を得ます。ステークがなければ、バリデーターは悪意を持ってシステムを攻撃しても何も失うものがありません。しかし、ステークがあれば、攻撃を試みることで自分の資産を失うことになります。
さらに、バリデーターはネットワークにオンラインであり続ける責任も負います。ダウンタイムが長すぎると、これもまたスラッシングの対象となります。つまり、バリデーターは常に監視されており、ルール遵守の義務がシステムレベルで強制されているのです。
スラッシングとは何が起きているのか
実際に削られるのはバリデーターのステーク、つまり担保として預けたトークンです。スラッシングの対象となる行為はいくつか存在します。
最も重大なのは二重署名です。バリデーターが同一のブロック高でふたつの異なるブロックに署名すれば、ネットワークの安全性が直接的に脅かされます。このような行為は意図的な攻撃であると判断され、大幅なスラッシングが実行されます。
次に、長時間のオフラインもスラッシングの対象です。バリデーターが予告なく一定期間ネットワークから消えれば、ブロック検証が進まず、ネットワーク全体が機能不全に陥ります。この場合、スラッシング量は二重署名ほど厳しくありませんが、確実に報酬から差し引かれます。
重要なのは、スラッシングは単なる罰金ではないということです。罰金であれば、富裕層はいくらでも支払って悪行を続けられます。しかし、スラッシングはトークンを没収するため、その対象を失えば、システムへの参加資格そのものが失われる可能性があります。
なぜ「没収」という強い設計なのか
軽いペナルティでは、悪意のある攻撃に対して十分な抑止力になりません。攻撃から得られる利益が、ペナルティより大きければ、合理的な行為者は攻撃を選びます。
そこでweb3は、攻撃コストを意図的に高く設計しました。スラッシングは、攻撃を試みることで確実に大きな損失を被ることを保証します。これにより、経済合理性そのものが悪意を封じるメカニズムとなるのです。
バリデーターは「正しく行動することで報酬を得られ、不正を行えば損失を被る」という単純な構図に直面します。この構図が、システムの安全性を支えています。
スラッシングは誰を守っているのか
スラッシングは単なる懲罰ではなく、多くの人を守っています。
まず、ネットワーク全体を守ります。悪意のあるバリデーターが検証を歪めれば、ブロックチェーン上のすべてのトランザクションが信頼できなくなります。スラッシングがなければ、このような攻撃に対抗する手段がありません。
次に、正直なバリデーターを守ります。悪意のあるバリデーターが利益を享受できれば、正直に行動することはバカげた選択になります。しかし、スラッシングにより攻撃者が損失を被れば、正直な行動が相対的に有利になります。
最終的には、すべてのユーザーが守られます。ブロックチェーンの完全性が保たれるからこそ、ユーザーは資産の移動や契約の実行を安心して行えるのです。
Web2にはなぜスラッシングが不要なのか
従来のweb2システムには、スラッシングのような仕組みが必要ありません。なぜなら、中央集権的な管理者が存在し、彼らが罰の執行者となるからです。
銀行が顧客の資金を不正に動かせば、規制当局が調査し、銀行から罰金を取り、必要に応じて免許を剥奪します。医者が患者に危害を加えれば、医療委員会が免許を取り上げます。プラットフォームが規約に違反すれば、政府が規制します。
Web2の世界では、管理者が「罰の執行者」になっています。スラッシングは必要ではなく、むしろ邪魔になります。なぜなら、管理者の判断で臨機応変に対応できるからです。
しかし、ブロックチェーンには管理者が存在しません。だからこそ、自動的かつ機械的に罰を執行する仕組みが必要なのです。スラッシングは、この管理者不在の世界における必要な代替手段なのです。
UXが厳しくなるのはスラッシングのせいか
web3を使う際、UXがWeb2より厳しいのは多くの人が感じるところです。自動復旧不可、ガスの見積もり、ウォレットのセキュリティなど、ユーザーの負担は大きいです。
スラッシングはこの問題を複雑にしています。バリデーター運用者は、スラッシングを避けるために極めて慎重になります。自動化や委任が難しくなり、運用コストが上昇します。その結果、バリデーターの参入障壁が高まり、ユーザーのUXも間接的に影響を受けます。
ただし、これはトレードオフです。セキュリティを優先すれば、UXは後退します。UXを優先すれば、セキュリティが脅かされます。web3は、後者を選びませんでした。
スラッシングがあるから成立するトラストレス
web3の最大の価値提案は「トラストレス」です。つまり、相手を信じる必要がなく、システムが安全性を保証することです。
しかし、このトラストレスは、スラッシングがあるからこそ初めて成立します。善意を信じない設計、つまり攻撃を前提とした設計が、スラッシングを生み出します。そして、スラッシングがあるからこそ、経済的インセンティブが秩序を保つのです。
スラッシングは確かに厳しい仕組みです。しかし、それは「誰も信じない世界」で秩序を維持するための、最も現実的で合理的な答えです。web3が選んだこの設計は、人間の本質を見つめた結果と言えます。
以上、「スラッシング」の解説でした!
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Author:mitsui @web3リサーチャー
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