おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
毎週土日の昼には基礎単語解説記事をお届けします。各記事をサクッと読めるような文量にして、改めて振り返れる、また勉強できるような記事を目指していきます。
本日は「シニョリッジ」です。
ぜひ最後までご覧ください!
1. シニョリッジとは何か
シニョリッジという言葉は、中世フランス語の「seigneur(領主)」に由来します。領主が貨幣を鋳造し、その額面と製造コストの差額を利益として得ていたことが語源です。
最も分かりやすい例は硬貨です。1万円の金貨を作るのに5,000円分の金属しか使わなければ、残りの5,000円が発行者の利益になります。紙幣ならさらに顕著で、1万円札の印刷コストはわずか数十円程度です。
ただし、現代のシニョリッジはもう少し複雑です。
現代の中央銀行は、紙幣を刷って直接利益を得ているわけではありません。中央銀行が通貨を発行する主な方法は、国債などの資産を購入することです。新たに発行した通貨で国債を買い、その国債から得られる利息がシニョリッジとなります。
つまり、現代のシニョリッジとは「通貨を発行できる立場にあること自体から生まれる経済的利益」のことです。
2. なぜ国家は発行権を持ちたがるのか
通貨発行権は、国家にとって最も重要な権限の一つです。その理由は大きく3つあります。
財政の柔軟性。 税収だけでは賄えない支出がある場合、国家は国債を発行し、中央銀行がそれを引き受けることで資金を調達できます。戦時や災害時など、急な財政需要に対応するための最終手段として機能します。
経済政策のコントロール。 金利の調整、通貨供給量の増減を通じて、景気を刺激したり過熱を抑えたりすることができます。通貨発行権がなければ、この調整弁を失うことになります。
主権の象徴。 自国通貨の発行は、経済的独立の象徴でもあります。ユーロ圏の国々が個別の金融政策を取れないことの難しさは、欧州債務危機で浮き彫りになりました。
通貨発行権とは、単にお金を作る能力ではありません。経済全体をコントロールする力そのものです。
3. インフレと発行益
シニョリッジには、もう一つの側面があります。それは「見えない課税」としてのインフレです。
新しく通貨が発行されると、市場に出回る通貨の総量が増えます。供給が増えれば、1単位あたりの通貨の価値は下がります。つまり、既に通貨を持っている人の資産は相対的に目減りします。
これを「インフレ税(Inflation Tax)」と呼ぶことがあります。
たとえば、ある経済圏で通貨が10%増発されたとします。物価が10%上昇すれば、預金の実質的な購買力は約10%低下します。政府は直接税を徴収していませんが、通貨保有者の購買力を「徴収」したのと同じ効果を生んでいます。
重要なのは、この「課税」が見えにくいということです。
所得税なら明細書に金額が書かれます。消費税なら購入時に表示されます。しかしインフレ税には請求書がありません。通貨を持っているだけで、静かに価値が削られていきます。
新規発行の利益は発行者(国家)に集中し、コストは通貨の保有者全体に分散されます。これがシニョリッジの本質的な構造です。
4. Bitcoinにシニョリッジはあるのか
Bitcoinにも新規発行の仕組みがあります。では、シニョリッジは存在するのでしょうか。
Bitcoinでは、マイナーがブロックを生成するたびに新しいBTCが報酬として発行されます。これはブロック報酬と呼ばれ、現在は1ブロックあたり3.125BTCです(2024年の半減期以降)。
この報酬は、見方によってはシニョリッジに似ています。新規発行されたBTCはマイナーの手に渡り、既存の保有者のBTCは総量の増加によって希薄化するからです。
しかし、国家通貨のシニョリッジとは決定的に異なる点があります。
発行スケジュールが事前に決まっている。 Bitcoinの総供給量は2,100万BTCに固定されており、約4年ごとに報酬は半減します。誰かの判断で増発されることはありません。
発行にコストがかかる。 マイナーは膨大な計算を行い、電力を消費してブロックを生成します。報酬はそのコストに対する対価であり、「無からの利益」ではありません。
発行ルールが透明。 いつ、どれだけ発行されるかは、プロトコルに書かれたコードによって誰でも確認できます。
Bitcoinは「発行者の裁量」を排除することで、シニョリッジの不透明さを解消しようとしたとも言えます。
5. トークンエコノミクスと発行益
web3のトークンプロジェクトでは、シニョリッジの問題がより直接的に表れます。
多くのトークンには「初期配分(Token Allocation)」があります。総供給量のうち、チーム・投資家・財団・コミュニティなどにどれだけ割り当てるかが、ローンチ前に設計されます。
ここに発行益の問題が潜んでいます。
チームや投資家への初期配分。 製造コストがほぼゼロのトークンを、チームや初期投資家が大量に保有します。そのトークンが市場で価値を持てば、それはまさにシニョリッジです。国家が通貨を発行して利益を得るのと、構造的には同じです。
インフレ設計。 ステーキング報酬やエコシステム助成金のために、新規トークンが継続的に発行されるプロジェクトもあります。この新規発行は、既存ホルダーの持ち分を希薄化させます。
誰が利益を得る構造か。 プロジェクトを評価する際に重要なのは、「発行益が誰に流れているか」を見ることです。ベスティングスケジュール、アンロック時期、インフレ率の推移は、そのトークンの発行益構造を映し出しています。
トークンエコノミクスを読むとは、シニョリッジの分配構造を読むことでもあります。
6. CBDCとシニョリッジ
近年、各国が開発を進めるCBDC(Central Bank Digital Currency:中央銀行デジタル通貨)には、シニョリッジをめぐる国家の意思が色濃く反映されています。
暗号資産やステーブルコインが普及すると、人々は国家が発行した通貨の外で経済活動を行うようになります。これは国家にとって、シニョリッジの喪失を意味します。
CBDCは、デジタル化した経済においても、通貨発行権を国家の手に残すための取り組みです。
さらに、CBDCにはプログラマビリティ(用途や有効期限をコードで制御する機能)が付与される可能性があります。「特定の目的にしか使えないお金」や「期限付きで使わなければ消滅するお金」は、発行権のさらなる拡張とも言えます。
通貨のデジタル化は、中立的な技術の話ではありません。「誰が通貨を発行し、誰がそのルールを決めるのか」という、極めて政治的な問題です。
まとめ
通貨発行は中立ではありません。 それは経済的にも政治的にも、大きな力を持つ行為です。
国家は発行権を通じてシニョリッジを得てきました。Bitcoinはそのルールをコードに固定し、裁量を排除しました。トークンプロジェクトでは、初期配分やインフレ設計の中にシニョリッジが埋め込まれています。
web3を理解するとは、「誰が通貨を発行し、その利益はどこに流れているのか」を問い直すことでもあります。
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