おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
毎週土日の昼には基礎単語解説記事をお届けします。各記事をサクッと読めるような文量にして、改めて振り返れる、また勉強できるような記事を目指していきます。
本日は「公共財」です。
ぜひ最後までご覧ください!
導入
blockchainは誰のものなのでしょうか。企業のものでも、国家のものでもありません。誰でも使えて、誰も所有していない。この一見矛盾した性質を理解する鍵が「公共財」という考え方です。
私たちは日常的に、さまざまな公共財を利用しています。道路を歩き、空気を吸い、インターネットに接続します。これらは誰かが独占しているわけではなく、誰もが利用できます。しかし同時に、誰かが維持しなければ機能しません。blockchainもまた、この公共財としての特性を持っています。そしてその維持の方法は、これまでの公共財とは根本的に異なります。
公共財とは何か
公共財とは、経済学において特殊な性質を持つ財やサービスを指します。その特徴は二つあります。一つは「非排除性」、もう一つは「非競合性」です。
「非排除性」とは、誰かが利用することを排除できないという性質です。道路を例に取れば、通行料を払わなくても歩くことができますし、誰かを物理的に排除することは困難です。空気も同様で、誰かが呼吸することを止めることはできません。インターネットのプロトコルであるTCP/IPも、誰もが自由に使うことができ、特定の人を排除することはできません。
「非競合性」とは、誰かが利用しても他の人の利用を妨げないという性質です。あなたが道路を歩いていても、他の人も同じ道路を歩けます。あなたが空気を吸っても、通常は他の人が吸う空気がなくなることはありません。インターネットの基本的なプロトコルを使っても、他の人の利用が妨げられることはありません。
しかし、ここに問題があります。
公共財は、市場原理だけでは維持できません。なぜなら、誰もが無料で利用できるものに、誰がお金を払うでしょうか。道路の建設や維持には費用がかかります。空気の質を保つには環境対策が必要です。インターネットのインフラを維持するには、膨大な設備投資が必要です。しかし、誰もが無料で使えるのであれば、それを維持するための資金を誰が出すのでしょうか。
これが、公共財の本質的なジレンマです。誰もが必要とし、誰もが利用する。しかし、それを維持するための負担を、誰が引き受けるのかが定まりません。
なぜ公共財は壊れやすいのか
公共財には、「ただ乗り問題」という構造的な脆弱性があります。
ただ乗りとは、コストを負担せずに利益だけを享受することです。道路の維持費を負担しなくても道路は使えます。環境対策に協力しなくても空気は吸えます。インターネットのインフラ整備に貢献しなくても、インターネットは利用できます。個人の立場からすれば、ただ乗りは合理的な選択です。自分一人が負担したところで、全体への影響は微々たるものですし、自分が負担しなくても他の誰かが負担してくれるだろうと期待できるからです。
しかし、もし全員がこう考えたらどうなるでしょうか。誰も負担せず、誰もがただ乗りを試みます。その結果、公共財は維持されなくなり、最終的には崩壊します。道路は荒れ果て、空気は汚染され、インターネットのインフラは老朽化します。
これが「コモンズの悲劇」と呼ばれる現象です。誰もが使えるが、誰も責任を取らない。管理者が不在であるがゆえに、資源は枯渇し、システムは崩壊します。
公共財が壊れやすい理由は、まさにこの構造にあります。誰もが利益を享受するが、誰もコストを負担しようとしない。そして、ただ乗りを防ぐメカニズムが存在しない。この問題を解決しない限り、公共財は持続可能ではありません。
インターネットはどう維持されてきたか
では、インターネットという公共財は、どのようにして維持されてきたのでしょうか。
インターネットは、国家、企業、オープンソースソフトウェアコミュニティという三つの主体の役割分担によって支えられてきました。
国家は、基礎研究への投資や規制の整備を担当しました。企業は、インフラの構築と運営、そして商業的なサービスの提供を担当しました。OSSコミュニティは、プロトコルやソフトウェアの開発と保守を担当しました。
しかし、その裏側には重要な構造があります。それは、無料に見えるサービスの多くが、実は集中管理されているということです。
GoogleやFacebookは、無料でサービスを提供しています。しかしその対価として、ユーザーのデータを収集し、広告収入を得ています。つまり、サービスは無料ですが、ユーザーは自分のデータという対価を支払っているのです。そしてこの構造は、必然的にプラットフォームへの依存を生み出します。
プラットフォーム依存とは、特定の企業のサービスに頼らざるを得ない状態です。データはプラットフォームに保存され、ネットワークはプラットフォームに構築され、利用者はプラットフォームのルールに従わなければなりません。プラットフォームが方針を変更すれば、利用者はそれに従うしかありません。サービスが終了すれば、すべてを失います。
インターネットの公共性は、このような集中管理によって維持されてきました。無料であること、誰でも使えることの代償として、私たちは特定の企業に依存する構造を受け入れてきたのです。
blockchainという新しい公共財
blockchainは、この構造に対する一つの挑戦です。それは、誰でも使えて、国境を越え、管理者が存在しないインフラを目指しました。
blockchainは、誰でも使えます。特定の国の国民である必要もなく、特定の企業のアカウントを持つ必要もありません。インターネット接続さえあれば、世界中の誰もがblockchainにアクセスできます。これは、真の意味での非排除性です。
blockchainは、国境を越えます。ビットコインやイーサリアムには、国境という概念がありません。日本からでも、アメリカからでも、どこからでも同じように利用できます。国家の規制や許可を必要としません。これは、グローバルな公共財としての性質です。
そして最も重要なのは、blockchainには中央の管理者が存在しないということです。Googleのサーバーはありません。Facebookのデータセンターもありません。blockchainは、世界中の何千、何万ものコンピューターによって分散的に維持されています。誰か一人が止めても、システムは動き続けます。
これは、これまでの公共財とは根本的に異なる特徴です。道路は国家が管理し、インターネットのサービスは企業が管理してきました。しかしblockchainは、誰も管理していません。それは、参加者全員によって維持される、純粋な意味での公共財です。
なぜ無料で使えないのか
しかし、blockchainには一つの特徴があります。それは、無料では使えないということです。
ビットコインで送金するには、送金手数料がかかります。イーサリアムでスマートコントラクトを実行するには、Gas Feeが必要です。なぜでしょうか。インターネットの多くのサービスは無料なのに、blockchainは有料なのはなぜでしょうか。
答えは、「無料=荒らされる」という原則にあります。
もしblockchainが完全に無料だったら、何が起きるでしょうか。誰もが無限に取引を送信し、スパムで溢れかえります。意味のないデータが大量に記録され、ネットワークは混雑し、最終的には使い物にならなくなります。これは、公共財における資源枯渇の典型的なパターンです。
blockchainは、限られた資源です。ブロックのサイズには限界があり、処理能力にも限界があります。もし誰もが無制限に使えるなら、すぐに容量が尽きてしまいます。そこで必要になるのが、価格による利用調整という発想です。
Gas Feeは、利用の優先順位を決める仕組みです。より高い手数料を払った取引が優先的に処理されます。これによって、本当に必要な人が、必要な分だけ利用できるようになります。無駄な利用は、経済的に抑制されます。スパムを送るには多額の費用がかかるため、スパムは減ります。
つまり、blockchainが有料であることは、欠点ではなく設計です。公共財を維持するための、必要不可欠な仕組みです。
Gas Feeを公共財の視点で見る
Gas Feeは、よく「手数料」と呼ばれます。しかし、公共財の視点から見れば、それは手数料ではなく維持費です。
手数料とは、サービスを提供する企業への支払いです。銀行の振込手数料は、銀行のサービスに対する対価です。しかしGas Feeは、誰か特定の企業に支払われるわけではありません。それは、blockchainというインフラを維持するために必要なコストを、利用者全員で分担するための仕組みです。
Gas Feeは、主に二つの役割を果たしています。一つは、先ほど述べた利用調整です。限られた資源を、価格メカニズムによって配分します。もう一つは、インセンティブです。blockchainを維持している人々、つまりマイナーやバリデーターへの報酬となります。
このGas Feeによって、blockchainの秩序は保たれています。スパムは抑制され、本当に価値のある取引だけが記録されます。そして、blockchainを維持する人々は報酬を得て、システムを支え続けるモチベーションを持ちます。
これは、公共財を維持する新しいモデルです。税金のように国家が強制徴収するのでもなく、企業が利益のために運営するのでもない。利用者が自発的に支払う費用によって、公共財が維持される。それが、blockchainにおける公共財の仕組みです。
誰が公共財としてのblockchainを支えているのか
blockchainという公共財を実際に支えているのは、三つの主体です。
第一に、バリデーターやマイナーです。彼らは、自分のコンピューターを動かし、取引を検証し、ブロックを生成します。これには電気代もかかりますし、高性能な機器も必要です。しかし彼らは、その対価としてGas Feeやブロック報酬を受け取ります。これが、blockchainを維持する直接的な労働です。
第二に、ノード運営者です。すべての取引履歴を保存し、ネットワークに参加し、取引を中継します。彼らの多くは、報酬を受け取りません。それでもノードを運営するのは、blockchainの分散性を支えるためです。ノードが多いほど、システムは強固になります。これは、ボランティア的な貢献です。
第三に、開発者とコミュニティです。プロトコルを改善し、バグを修正し、新しい機能を提案します。多くの場合、これも無償の労働です。一部は助成金を受け取りますが、多くは純粋な興味や、blockchainの未来への信念から参加しています。
これら三つの主体が、それぞれの役割を果たすことで、blockchainは維持されています。企業のように統一された指揮命令系統があるわけではありません。国家のように強制力があるわけでもありません。それでも、各々が自発的に参加し、貢献することで、システムは動き続けています。
これは、公共財を維持する新しい形です。中央の管理者がいなくても、インセンティブと共通の目的によって、人々は協力します。それがblockchainという公共財の特徴です。
blockchainは公共財として成功しているのか
では、blockchainは公共財として成功しているのでしょうか。答えは、「まだわからない」です。
現状には、多くの課題があります。Gas Feeは高騰し、多くの人々にとって利用が困難になっています。ノードの運営には高度な技術が必要で、参加障壁は高いままです。バリデーターやマイナーは、一部の大規模な主体に集中しつつあります。これは、公共財としての理想からは遠い状態です。
また、利用者の偏在も問題です。blockchainを実際に使っているのは、主に先進国の技術に精通した人々です。本当にblockchainを必要としている人々、たとえば金融サービスにアクセスできない人々には、まだ届いていません。これでは、公共財としての公共性が問われます。
しかし、それでもblockchainには価値があります。それは、価値が失われていないということです。
ビットコインは誕生から15年以上経ちましたが、一度も停止していません。イーサリアムも、様々な困難を乗り越えながら動き続けています。多くのblockchainが、中央管理者なしで、何年も維持されています。これは、驚くべきことです。
通常の企業なら、15年も経てば倒産や買収、方針転換があります。国家でさえ、政権が変われば政策も変わります。しかしblockchainは、誰の所有物でもないがゆえに、誰にも止められません。誰にも変更を強制されません。ただ、参加者全員の合意によってのみ、進化し続けています。
これは、公共財としての一つの成功形態です。完璧ではありませんが、持続しています。課題は多くありますが、可能性も示しています。blockchainは、国家や企業に依存しない公共財を、本当に作れるかもしれません。
まとめ
blockchainは、誰かが守ってくれるインフラではありません。それは、使う人全員が、少しずつ支える公共財です。
Gas Feeや分散化は、不便さではありません。それは、この公共性を維持するために払っているコストです。中央管理者に頼らず、国家の強制力に頼らず、それでも維持される公共財を実現するための、必要不可欠な仕組みです。
公共財としてのblockchainは、まだ完成していません。課題は山積しています。しかし、それは新しい可能性でもあります。誰にも所有されず、誰もが使えて、誰もが支える。そんな公共財のあり方を、blockchainは模索しています。
blockchainという公共財が成功するかどうかは、まだわかりません。しかし、その試みそのものが、私たちに重要な問いを投げかけています。公共財は、国家や企業がなくても維持できるのか。人々の自発的な参加だけで、社会のインフラを支えられるのか。その答えを、blockchainは探し続けています。
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