【Pay.sh】Solana FoundationとGoogle Cloudが共同で公開した、AIエージェント向けのpay-as-you-go API決済ゲートウェイ
プロトコルレベルのAI基盤
おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
今日は「Pay.sh」をリサーチしました。
概要|Pay.shとは?
変遷|エージェント決済プロトコル戦争
考察|プロトコルレベルのAI基盤
TL;DR
Pay.shは、Solana FoundationとGoogle Cloudが2026年5月5日に共同公開したAIエージェント向けのpay-as-you-go API決済ゲートウェイで、Solanaウォレット署名を「身元+支払い証明」として使うことで、アカウント・APIキー・サブスク不要のAPI利用を実現する。ローンチ時点で72サービス・75+API統合を提供し、x402とMPPの2つのHTTPベース決済プロトコル上に構築されている。
エージェント決済プロトコル戦争は「x402のLinux Foundation化(2026年4月)」を転換点に一気に動き始めた。Coinbaseが先行するAgentic Market(Base)、StripeのMPP/Tempo Directory、そしてPay.sh(Solana×Google)が並存する形で、決済発見層は複数ディレクトリの併存フェーズに入っており、ベンダー中立のx402標準を最大規模で実装したのがPay.shという位置づけになる。
「アカウント不要」というメッセージは「KYCを不要にした」のではなく「規制責任をエンドポイントから周辺決済層(on-ramp・Facilitator・payout)にリレーした」と理解すべきで、ユーザー体験はシームレスでもFacilitatorや事業者側のKYC/AML・税務責任は残る。Pay.sh単体の勝敗よりも、ここで切り開かれた「機械間決済というインターネットの新しい配管」が、SSL→HTTPSのように標準化へ向かう構図そのものが今後の注目ポイント。
概要|Pay.shとは?
「Pay.sh」は、AIエージェントが財布を持って、必要なAPIを必要な分だけ買えるようにするゲートウェイです。
2026年5月5日にSolana FoundationとGoogle Cloudが共同で公開した、AIエージェント向けのpay-as-you-go API決済ゲートウェイで、運営はSolana Foundationが主導しています。
決済はSolanaチェーン上のステーブルコイン(USDC中心)で行われ、課金単位は1コールあたり数十マイクロドル〜数ドル。対応するAIインターフェースはClaude Code、OpenAI Codex、Gemini、curl等、CLIで叩けるものはほぼすべてカバーしています。
公式ローンチパートナーは、PayAI、Crossmint、Sponge Wallet(PaySponge)、Merit Systems、Corbits、MoonPay、ATXP、Tektonic Companyの8社で、Wallet・Payments・Commerce・Data・AI Agentsの接合点を、最初から複数プレイヤーで埋めにかかっている構成です。
◼️解決する課題とソリューション
今のAI開発の現場には、「人間前提のAPIアクセスモデル」と「自律エージェントの実態」のあいだに深い摩擦があります。
最も価値のあるAPI(OpenAI、Google Cloud、Bloombergなど)は依然として「人間がアカウントを作り、KYCを通し、月額サブスクに入り、APIキーをローテーションし、請求書を管理する」前提で設計されています。ところが自律型エージェントは、1つのワークフローのなかで数十のサービスを横断します。サブスクとAPIキーという仕組みは、機械にとって明確な摩擦です。
Solana FoundationのChief Product OfficerであるVibhu Norby氏は、ローンチ時にこう語っています。
「エージェント決済の大部分は今、グレーマーケットやブラックマーケットで行われており、基盤プロバイダーによって予告なしに無効化・禁止される可能性がある」
「Pay.shは『すべてのAPIに対する従量課金プロダクト』。初めて、開発者は請求アカウントもKYCもなしに個別のAPIコールにアクセスし支払いができる」
Solana DAS(Digital Asset Summit)では「Solanaはすでにエージェントから1,500万件のオンチェーン決済を処理した」「最終的にはトランザクションの95〜99%がLLM由来になる」と発言しており、Solana Foundation側の問題意識はかなり明確です。
Pay.shのソリューションは、この摩擦に対して「アプリ層のフリクションを消し、ウォレット署名で身元と支払いを同時に解決する」というアプローチを取ります。具体的には次の4つの仕掛けで構成されています。
アカウント不要のAPIアクセス:エージェントは事前にProviderと契約せず、HTTP 402チャレンジに応答する形でその場で支払い、API利用権を得る
APIキー不要の認証:Solanaウォレット署名そのものが「身元」と「支払い証明」を兼ねるため、Provider側でAPIキーを発行・管理する必要がない
サブスクリプション不要の課金:必要なAPIを必要な分だけ、1コール単位で支払う。月額契約も最低利用額もない
単一ゲートウェイ+オープンレジストリ:72サービス・75+API統合をカタログ化し、GitHubのPRベースで誰でもエンドポイントを追加できる
結果として、エージェントは「複数Providerを横断する作業」をサブスクの組み合わせではなく、ウォレット残高1つで実行できるようになります。Providerは法定通貨で受け取れる仕組みのため、会計面でも受け入れやすい設計です。
◼️技術概要
Pay.shの土台にあるのは、2つの新しいHTTPベース決済プロトコルと、それを束ねるゲートウェイ・CLIの3層構造です。
①プロトコル層:x402とMPP
x402プロトコルは、IETFで1991年から「予約済み」のままだったHTTPステータスコード`402 Payment Required`を実装する、HTTPネイティブな機械間決済プロトコルです。
アカウント作成も人間の介在もなく、1リクエスト内でアトミックに完結します。CoinbaseがOpen Standardとして発表した後、2026年4月にLinux Foundation配下のx402 Foundationに移管されました。Founding MembersにはVisa、Mastercard、Amex、AWS、Microsoft、Google、Circle、Base、Polygon、Solana Foundation、Shopify、Adyen、Fiserv、KakaoPayなど22社以上が名を連ねています。
MPP(Machine Payments Protocol)は、StripeとTempo Labsが共同で策定した姉妹プロトコルで、IETF Standards Track Internet-Draftに提出済みです。x402が`X-PAYMENT`というカスタムヘッダーを使うのに対し、MPPはHTTP標準の認証スキームに`Payment`を新設し、`WWW-Authenticate: Payment` / `Authorization: Payment` / `Payment-Receipt`という正式な仕組みを使います。さらに、エスクロー契約に一度デポジットして署名ボウチャーで数千回の連続マイクロ決済を行い、セッション終了時にバッチで1回のオンチェーンTXに集約するストリーミング決済にもネイティブ対応しています。(少し難しいので、MPPはまた別の機会で説明します。)
Pay.shはx402とMPPの両方をサポートしており、エージェントはどちらの規格に従ったサーバーにも、同じCLI・同じウォレットで支払えるよう設計されています。
②ゲートウェイ層:Google Cloud Platform上のAPIプロキシ
Pay.sh Gateway自体はGoogle Cloud Platform上で稼働するAPIプロキシとして実装されており、決済の検証だけではなく、レート制限・アクセス制御を行います。これによって、エンタープライズ向けのセキュリティとコンプライアンス要件を満たしながら、Provider側がエージェントに対して個別の請求関係を持たずに済む構造を実現しています。
③ローカル層:「pay」CLIランタイム
Pay.shがサーバーサイドのゲートウェイだけでなく、開発者・エージェント側のローカルCLI(`pay`コマンド)まで含めた製品です。
`pay curl`、`pay fetch`、`pay wget`を入り口に、通常のHTTPリクエストを送って、返ってきた402チャレンジを解析し、ローカルウォレットに承認を求め、payment proofを付けて再試行する流れを、すべてCLI側でラップします。AIエージェント向けには`pay claude`、`pay codex`、`pay mcp`が同じ能力をMCPツールとして注入します。
◼️ユースケース
Pay.shが想定している、あるいはすでに動き始めているユースケースを整理すると、おおむね次の6つに分類できます。
①自律型コーディングエージェントのワークフロー横断
Claude CodeやOpenAI Codexが、Solanaウォレット1つで複数のエンタープライズAPIを横断する使い方です。たとえば「コードベースを解析する」フェーズでBigQueryを呼び出し、「コードを生成する」フェーズでGeminiを使い、「デプロイする」フェーズでCloud Runに支払う、という一連の流れが、サブスク契約も認証情報の引き渡しもなしに完結します。
②データプロバイダーの収益化(眠れるデータの起こし方)
BigQuery内に「塩漬け」になっている企業データセットを、x402経由で外部エージェントに公開し、Facilitatorが課金とアクセス制御を担う、というモデルです。BeInCryptoは「企業はGoogle Cloud内に抱えたプライベートデータを、生データを引き渡さずに収益化できる」と評しており、SaaS事業者にとっては新しい収益源になり得ます。月額契約を結ぶような顧客がいないニッチデータでも、API 1コール$0.001〜$0.01で売れるなら経済性が成立します。
③コンペティティブ・インテリジェンスと情報集約
複数の情報ソースを組み合わせて、週次の競合動向ダイジェストを生成する、といった用途です。SerenAIなどがこのパターンですでに動いており、サブスクを5つ買う代わりに「使った分だけ払う」ことで、運用コストを劇的に下げられます。
④エージェント間の経済(マイクロタスク報酬)
人間とエージェント、あるいはエージェント同士のあいだで小口の対価交換が可能になります。たとえばCAPTCHA解読、画像のラベル付け、データセットの検証などを、エージェントが必要に応じて発注し、即時にUSDCで支払うというパターンです。
⑤物販エージェント(agentic commerce)
Pay.shのカタログには、Amazon・Shopifyの商品をSolana USDCで購入できるPurchや、カスタムTシャツを世界配送するStableMerchといったECサービスがすでに含まれています。エージェントが「在庫補充」「ノベルティ発注」「個人向けギフト購入」などを自律的に実行します。
変遷|エージェント決済プロトコル戦争
Pay.shを理解するには、その下敷きになっているx402プロトコルがここ1年でたどった「私企業のオープン標準」から「ベンダー中立の公共インフラ」への移行を押さえておく必要があります。時系列を整理しておきます。
2025年5月:CoinbaseがOpen StandardとしてX402を発表。HTTP 402を再利用するというアイデアは数年前からエンジニアの間では議論されていましたが、これを実装可能な仕様として最初に世に出したのがCoinbaseでした
2025年9月:Coinbase × Cloudflareがx402 Foundation設立計画を公表。同時にStripe × Tempo LabsがMPP(Machine Payments Protocol)と決済専用L1であるTempoを発表し、機械間決済プロトコルが「複数規格の並走」フェーズに突入
2025年9月:GoogleがAP2(Agent Payments Protocol)を60+社のパートナーと共に発表。Coinbase、Mastercard、PayPal、JCB、Ethereum Foundationなどが名を連ね、「決済の意思決定」を扱う上位プロトコルが立ち上がる
2026年4月2日:Linux Foundationがx402 Foundation正式発足を発表。Coinbase CEO Brian ArmstrongとLinux Foundation CEO Jim Zemlinが「x402はSSLに相当するAI商取引のプロトコル基盤」と位置付け、Founding MembersにはVisa、Mastercard、Amex、AWS、Microsoft、Google、Circle、Base、Polygon、Solana Foundation、Shopify、Adyen、Fiserv、KakaoPayなど22社以上が結集
2026年4月19〜21日:CoinbaseがAgentic Market(agentic.market)を公開。x402標準上のディレクトリとして先行ローンチ
2026年5月5日:Solana Foundation × Google CloudがPay.shを公開。Linux Foundationの中立的なx402を、Solanaに直接アンカーしなおす形で対抗軸を提示
この流れで決定的に重要だったのが、2026年4月のLinux Foundation化です。それまでx402は「Coinbaseが主導する規格」という色合いが強く、CoinbaseのライバルであるSolanaや、独自路線を走るStripe陣営が積極的に採用するインセンティブが弱い状態でした。
ところがLinux Foundation配下に移管され、仕様がApache 2.0ライセンスでベンダー中立になったことで、Solana FoundationのようなCoinbase陣営の外側のプレイヤーが、安心してx402を採用できる土壌ができました。Pay.shのローンチが2026年5月とLinux Foundation化のわずか1か月後である点は偶然ではなく、「x402がオープン標準として確立した瞬間に、Solana × Googleが最大規模のx402実装を投入した」と考えることができます。
考察|プロトコルレベルのAI基盤
最後は総括と考察です。
Pay.shの最大のメッセージは「アカウント不要・APIキー不要・サブスク不要」ですが、この打ち出し方は誤読を招きやすいので最初に整理しておきたいところです。
Pay.shの本質は「KYCを不要にした」ことではなく、「アプリ層のフリクションを消して、規制責任を周辺決済層に押し出した」ことです。
公式発表は「エージェントはクレジットカードまたはステーブルコインで資金を入れられ、プロバイダーはfiatで受け取る」と説明していますが、これはAPI呼び出し時にアカウント作成が無くても、on-ramp(資金の入り口)、hosted wallet、facilitator(決済検証者)、off-ramp(資金の出口)、payout(プロバイダーへの精算)のいずれかでKYC・制裁スクリーニング・送金規制・税務処理がかかることを意味します。
つまり、Pay.shは「規制をなくした」のではなく「規制をエンドポイントから周辺インフラへリレーした」サービスだと理解する必要があります。ユーザー側の体験はシームレスですが、Facilitator・on-ramp事業者・Provider側の事業者は引き続きKYC/AML・税務・会計の責任を負います。
また、Pay.shは「AIエージェントが財布を持ってAPIを買う時代」の最前線の技術的足場を、Solana × Google Cloudという最も強い組み合わせで提示したマイルストーン的なローンチだと評価できます。ローンチ初日から72サービス・75+API統合という実需的な広がりを達成した点、Linux Foundationでの中立的なプロトコルガバナンス、そして公式Google API直結という差別化は、過去のweb3 × AI領域の発表のなかでも稀な完成度です。
また注目しているのは「Pay.shが単独で勝つか負けるか」よりも「Pay.shが切り開いた構図そのものが定着するか」という論点です。x402全体のトランザクション量は減速傾向もあり、「エージェント需要が実際に立ち上がるか」は依然として未解決の問いです。CoinbaseのAgentic Market、StripeのMPPベースのTempo Directory、そしてPay.shが並存する形で、エージェント決済の発見層は当面複数ディレクトリの併存が続くと見られます。
ただ、見方を変えれば、これは「機械間決済というインターネットの新しい配管」が、まさに今、複数の規格・ディレクトリ・ゲートウェイの競争を通じて固まりつつある瞬間だとも言えます。SSLの普及がHTTPSという既成事実を作ったように、x402とMPPがHTTP 402の上で何らかの形で標準化される未来は、もはや時間の問題に見えます。Pay.shはその標準化のなかで、Solana × Googleという特定の組み合わせがどこまでシェアを取れるかを試す実験場でもあり、今後の普及がとても楽しみです。
参考リンク:HP
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