おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
毎週土日の昼には基礎単語解説記事をお届けします。各記事をサクッと読めるような文量にして、改めて振り返れる、また勉強できるような記事を目指していきます。
本日は「モジュラー」です。
ぜひ最後までご覧ください!
なぜEthereumは、すべてを一つのチェーンで処理しないのでしょうか。なぜL2やロールアップといった仕組みが次々と生まれているのでしょうか。その背景にあるのが「モジュラー(分業)」という設計思想です。
web3は巨大な一枚岩ではなく、役割ごとに分かれたインフラの集合体へと進化しています。この記事では、モジュラーという考え方がなぜ生まれ、何を解決し、どこに向かっているのかを解説します。
モノリシック(単一構造)とは何か
モジュラーを理解するには、まずその対極にある「モノリシック」という設計を知る必要があります。モノリシックとは、すべての機能を一つのシステムで処理する構造のことです。
初期のブロックチェーンは、まさにこのモノリシック型でした。トランザクションの実行、データの保存、合意形成(コンセンサス)など、これらすべてを一つのチェーンが担っていました。Bitcoinその典型です。構造がシンプルであるため理解しやすく、セキュリティの検証もしやすいという利点があります。
しかし、シンプルであるがゆえに拡張が難しいという問題を抱えています。すべてを一つで処理する以上、その処理能力には物理的な限界があります。ユーザーが増え、トランザクションが増えれば、手数料は高騰し、処理速度は低下します。この問題がweb3全体の普及を妨げる最大のボトルネックとなっていました。
※なお、今回の記事はEthereumを前提として書いています。SolanaやAvalanche、SuiやAptosなどのブロックチェーンはモノシリック型でスケーラビリティ問題を克服している例は多くあります。また、最近のEthereumでもモノシリックである程度のスケーラビリティが存在します。なので、モジュラーという思想や単語を一般論として理解するための記事としてご覧ください。
なぜスケールに限界があるのか
ブロックチェーンの処理速度を上げることは、一般的なサーバーの増強とは本質的に異なります。なぜなら、ブロックチェーンは「分散合意」という仕組みの上に成り立っているからです。
ネットワークに参加するすべてのノードが同じデータを検証し、同じ結論に達する必要があります。ノードの数が増えれば増えるほど、合意に至るまでの通信コストは増大します。
では、単純にブロックサイズを大きくして一度に多くのトランザクションを処理すればよいのではないか。しかしそうすると、ノードの運用に必要なハードウェア要件が跳ね上がり、一般ユーザーがノードを運用できなくなります。結果として、ノードを動かせるのは資金力のある少数のプレイヤーだけになり、分散性が損なわれてしまいます。
ここにブロックチェーン特有のジレンマがあります。スケーラビリティ(処理速度)、セキュリティ(安全性)、分散性(非中央集権)の三つを同時に最大化することはできないのです。この問題は「ブロックチェーンのトリレンマ」と呼ばれ、長らく業界の課題であり続けてきました。
モジュラーという発想
モジュラー設計は、このトリレンマに対する一つの回答です。すべてを一つのチェーンで処理するのではなく、機能を分解し、それぞれを専門のレイヤーに任せるという発想です。
具体的には、ブロックチェーンの機能を大きく三つに分離します。実行(Execution)、合意形成(Consensus)、データ可用性(Data Availability)です。
実行レイヤーはトランザクションの計算処理を担い、合意レイヤーはチェーンの正当性と順序を保証し、データ可用性レイヤーはトランザクションデータが誰でも検証可能な状態で保存されていることを保証します。
それぞれのレイヤーが専門化することで、個別の最適化が可能になります。これは、現代の製造業やソフトウェア開発で広く採用されている「分業」の考え方そのものです。すべてを自前で作るのではなく、得意な領域に集中し、他は専門家に任せる。この原則をブロックチェーンに適用したのがモジュラー設計です。
ロールアップが果たす役割
モジュラー設計を体現している代表的な仕組みが「ロールアップ」です。
ロールアップとは、Ethereumの外側(L2)でトランザクションをまとめて処理し、その結果だけをEthereum本体(L1)に記録する技術です。
ユーザーはL2上で高速かつ低コストにトランザクションを実行できます。L2は多数のトランザクションを一つの「束」にまとめてL1に提出するため、個々のユーザーが負担するガス代は大幅に削減されます。しかし、最終的なセキュリティと決済の確定性はL1であるEthereumに依存しています。
この関係性は、支店と本社の関係に似ています。日常的な業務は支店で効率的に処理しつつ、最終的な承認や監査は本社が担う。役割を分けることで、全体としての効率とセキュリティを両立させています。
モジュラー化のメリット
モジュラー設計がもたらす最大のメリットは拡張性です。一つの機能を改善したい場合、システム全体を作り直す必要はありません。該当するレイヤーだけを改良すればよいのです。データ可用性に問題があるなら、そのレイヤーだけを新しい技術に置き換えることができます。
柔軟性も大きな利点です。異なるプロジェクトが、自分たちのユースケースに最適なモジュールを選んで組み合わせることができます。ゲーム向けのチェーンと金融向けのチェーンでは最適な設計が異なりますが、モジュラー設計であれば、それぞれが目的に応じた構成を選択できます。
さらに、実験のしやすさというメリットもあります。新しいコンセンサスアルゴリズムやデータ圧縮技術を試したい場合、既存のインフラに影響を与えることなく、独立したレイヤーで検証できます。イノベーションの速度は、この柔軟性によって大きく加速します。
モジュラー化のデメリット
一方で、モジュラー設計には無視できないデメリットもあります。最も顕著なのは複雑化です。ユーザーは複数のチェーンやレイヤーをまたいで操作する必要があり、「どのチェーンにブリッジすればいいのか」「どのL2を使えばいいのか」といった判断を常に迫られます。
セキュリティの依存関係も複雑になります。モジュール間の連携にはブリッジやメッセージングプロトコルが必要であり、その部分が攻撃対象になることがあります。実際に、ブリッジに対するハッキング被害は過去に数多く発生しており、数百億円規模の資産が失われた事例もあります。
UXの分断も深刻な課題です。資産が複数のチェーンに散らばり、それぞれ異なるウォレットや操作手順が必要になる状況は、一般のユーザーにとって大きな障壁となっています。
モジュラーは完成形なのか
モジュラー設計は現在も進化の途上にあります。最も大きな課題は、相互運用性(インターオペラビリティ)です。異なるレイヤーやチェーン間で、いかにシームレスにデータや資産をやりとりできるか。この問題が解決されなければ、分業の恩恵を最大限に享受することはできません。
また、抽象化(アブストラクション)という方向性も注目されています。ユーザーが裏側の複雑な仕組みを意識せずに操作できるよう、技術的な複雑さを隠蔽する取り組みが各所で進んでいます。将来的には、どのチェーンを使っているかをユーザーが意識することなく、web3のサービスを利用できるようになるかもしれません。モジュラーは完成形ではなく、まだ始まったばかりの進化の途中にあります。
まとめ
web3は、巨大な中央システムではなく、役割ごとに分かれ、相互に支え合う構造へと進化しています。分業は複雑さを生みますが、それは分散の代償であり、同時に可能性でもあります。
一枚岩を選ぶか、分業を選ぶか。web3はその問いに対して、あらゆる選択肢を模索しており、その1つとしてモジュラー設計による進化が存在しています。
今後Ethereum自体もモノシリックに戻っていくかもしれませんが、Ethereum内の機能としてのモジュラー化が進んだりと、その思想自体は生き続けるはずです。
以上、「モジュラー」の基礎解説でした!
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Author:mitsui @web3リサーチャー
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