おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
毎週土日の昼には基礎単語解説記事をお届けします。各記事をサクッと読めるような文量にして、改めて振り返れる、また勉強できるような記事を目指していきます。
本日は「Mempool」です。
ぜひ最後までご覧ください!
導入|Ethereumが遅く見える理由
Ethereum上でトランザクションを送信した時、トランザクション画面を見ると、「Pending」という状態になります。5分待っても、10分待っても、ずっとPendingのままである経験があるかもしれません。
こうした経験から、多くの人は「Ethereumは遅い」という印象を持ちます。しかし、実際に起きていることは全く異なります。Ethereumのスピード自体は高速です。問題は、Mempoolという仕組みにあるのです。
Mempoolを理解すれば、ネットワークが「遅い」のではなく、「容量制限がある」という現実が見えてきます。さらに、その容量制限が実は極めて合理的な設計であることも分かります。Mempoolは、ブロックチェーンが直面する物理的な制約を透明に可視化した結果なのです。
Mempoolとは何か|待機場所の正体
Mempool(Memory Pool)とは、まだブロックに含まれていないトランザクションが一時的に保管される場所です。ユーザーがトランザクションを送信すると、そのトランザクションはすぐにブロックに入るわけではありません。ネットワーク上を伝播し、各ノードのMempoolに到着します。そこで、ブロックに含まれるチャンスを待ちます。
重要な特性として、Mempoolはネットワーク全体で一つではなく、各ノードがそれぞれ独立したMempoolを持っています。つまり、ノードAのMempoolとノードBのMempoolは異なる内容を含んでいます。Web2システムでは、「待合室」は中央に一つあって、すべての人がそこで順番を待ちます。しかし、web3では「待合室が無数に存在する」のです。
各ノードのMempoolの内容は同期されています。ネットワーク上のノード同士がトランザクション情報を伝播することで、Mempool内容がある程度統一されるのです。ただし、完全に同一ではありません。
ノードAが受け取った直後のトランザクションは、ノードBはまだ受け取っていない可能性があります。この「各ノードが独立しながらもある程度同期されている」という特性が、web3の分散性を実現しています。
Web2における対応物|待ち行列の歴史
Mempoolはweb3独有の概念ではありません。むしろ、Web2ではどこにでも見られる現象です。
銀行の振込処理を考えてみてください。あなたが振込を申し込むと、その振込リクエストは膨大な処理待ち行列に加わります。銀行の処理システムは毎秒数千の振込を処理していますが、すべての振込を同時には処理できません。そのため、処理待ち行列が存在するのです。これはMempoolと本質的に同じです。
クラウドコンピューティングのジョブ待ち行列も同じです。あなたがサーバーに計算ジョブを送信すると、それはキューに入り、他のジョブの処理完了を待ちます。決済システムのオーソリゼーション待ちも同様です。クレジットカード処理では、膨大な承認リクエストが決済ネットワークを通じて流れますが、すべてを同時に処理することはできません。
では、Web2とweb3の違いは何か。それは「優先順位を誰が決めるか」です。
銀行の振込処理では、銀行が優先順位を決定します。「VIP顧客の振込を最優先」「同じ金額なら早い順」といった基準を銀行が設定します。クラウドのジョブ処理でも、クラウド企業が優先順位を決めます。Web2では、中央の管理者が完全に優先順位をコントロールしているのです。
web3では、この優先順位決定が市場メカニズム(価格)に委ねられます。これが次のセクションで説明する、Gas Feeとの関係です。
Mempoolが存在する理由|物理的制約との向き合い方
Mempoolが存在する根本的な理由はシンプルです。ブロックチェーンの物理的な容量が有限だからです。
Ethereumはブロックを周期的に生成します。現在のEthereumでは、約12秒ごとに新しいブロックが生成されます。各ブロックに含められるデータサイズには上限があります。例えば、あるブロックに「最大100トランザクションまで含められる」という制限があるとします。
しかし、人気の高い時間帯には、毎秒数千のトランザクション送信リクエストがネットワークに到達します。12秒間に5,000のトランザクションが到着したのに、1ブロックには100トランザクションしか含められません。残りの4,900はどこに行くのか。それがMempoolです。次のブロックで100個処理され、その次のブロックで100個処理され...という具合に、徐々に処理されていきます。
さらに、検証者はトランザクションを処理する際に計算能力を消費します。単にデータを記録するだけではなく、トランザクションが有効か、アカウント残高は足りているか、スマートコントラクトの実行結果は正しいか、といった確認作業が必要です。これらすべてが計算コストであり、物理的な制限があります。
つまり、web3が「提供している本当のリソース」は、トークンの移動ではなく、計算能力とブロックスペース(ブロック内の記録容量)です。この極めて有限な資源を、どのように配分するかが問題になります。Mempoolは、この配分問題を可視化した場所です。
MempoolとGas Feeの関係|市場メカニズムの露出
ブロックスペースは有限です。では、限られたスペースをどのトランザクションに割り当てるべきか。この問題に対するEthereumの答えが、Gas Feeです。
ユーザーがトランザクションを送信する際、いくらのGas Feeを提示するかを決定できます。バリデーターは、Mempool内の複数のトランザクションから、ブロックに含めるものを選択する際に、Gas Fee を重要な基準にします。一般的に、より高いGas Feeを提示したトランザクションが優先されます。
この仕組みの結果、複数の現象が起きます。
ネットワークの混雑時には、誰もが「早く処理してほしい」と思うため、Gas Fee競争が激しくなります。結果として、ガス代が高騰します。一方、低いGas Feeを提示したトランザクションは、何ブロックも待機し続けることになります。
重要な点は、Mempoolが市場原理が直接露出する場所だということです。
誰がバリデーターを管理しているわけではなく、各バリデーターが独立して「どのトランザクションが得か」を計算します。金銭的インセンティブが、すべてのトランザクションの優先順位を決定するのです。
これはWeb2では見られない、極めてユニークな仕組みです。Web2では、銀行が「VIP顧客の振込は優先」と決定するのに対し、web3ではお金を払った人が優先される、という市場メカニズムが機能するのです。
複数概念の交差点としてのMempool|web3の全体像
Mempoolはブロックチェーンの複数の重要な概念が交差する地点です。ここを理解することで、web3全体の構造が見えてきます。
Block Spaceは、ブロック内の記録容量です。有限な資源です。複数のトランザクションがこの限られたスペースを奪い合っています。
Gas Fee はこの奪い合いの「価格」です。スペースが限られているとき、より高い価格を支払う人が優先されます。
Validatorは、どのトランザクションをブロックに含めるかを選択する権限を持っています。彼らは利益最大化のため、より高いGas Feeのトランザクションを選びます。
MEVは、Mempoolを観測できるから初めて発生する現象です。バリデーターがMempoolのトランザクションを見て、「このトランザクションを処理する前に、自分のトランザクションを先に実行すれば利益が出る」と気づいて実行することです。Mempoolの透明性がなければ、MEVは存在しません。
つまり、Mempoolは単なる「待機場所」ではなく、Block Space、Gas Fee、Validator、MEVといった重要な概念がすべて集約される交差点と言えます。
Mempoolが生む課題|透明性の代償
Mempoolの存在、そして透明性は、複数の課題を生み出します。
フロントランニングは、Mempoolに表示されたトランザクション情報を見て、その前に自分のトランザクションを送り込む行為です。例えば、大きな売却注文がMempoolに表示されているのを見たバリデーターが、その売却の前に自分のトランザクション(その資産の買い)を挿入することで、価格変動から利益を得ることができます。
サンドイッチ攻撃は、さらに悪質です。ユーザーのトランザクションを見て、その前後に自分のトランザクションを挿入することで、ユーザーに損失を強いるのです。例えば、スワップ取引(AをBに交換)を見つけたら、その前に自分のスワップを挿入してレート変動を引き起こし、ユーザーの交換レートを悪くしたうえで、自分の後の取引で利益を得るのです。
取引体験の不透明さも生じます。なぜ自分のトランザクションは高いGas Feeなのに待ち続けるのか、なぜ急に失敗したのか、といった疑問がユーザーの中に生まれます。
しかし、ここで重要な観点があります。これらは「欠陥」ではなく、分散ネットワークの「現実的な副作用」です。
中央管理者がいないからこそ、Mempoolの透明性が達成されます。同時に、その透明性がフロントランニングを可能にするのです。これはトレードオフです。透明性を完全に失えばフロントランニングは起きませんが、ブロックチェーン本来の価値も失われます。web3はこのトレードオフを意識的に受け入れているのです。
Mempoolが教えてくれる本質|制約を隠さない設計哲学
Mempoolはブロックチェーンが「即時で魔法のような存在」ではなく、物理的な制約を持つ計算システムであることを示しています。
計算能力は有限です。ストレージは有限です。ネットワーク帯域幅も有限です。すべてのトランザクションを瞬間的に処理することは技術的に不可能です。Web2のシステムも同じ制約を持ちますが、中央の管理者がこの制約を隠します。銀行は「振込は即座に反映される」と顧客に約束し、内部的には待ち行列を見えなくします。
web3の設計哲学は異なります。Ethereumは、この制約を隠さず、逆に公開しました。それがMempoolです。すべてのユーザーが、自分のトランザクションがどこにあるのか、いつ処理されるのか、を自分で確認できます。この完全な透明性は、web3の中核的な価値です。
同時に、この透明性がフロントランニングやサンドイッチ攻撃を可能にします。しかし、web3はこれをセキュリティ上の脆弱性ではなく、「設計選択の結果」として受け入れています。より良い未来のため、複数のスケーリングソリューション(Layer 2など)が開発されていますが、これらも同じ設計哲学の延長です。
Mempoolを理解することで、Ethereumのすべての奇妙に見える振る舞いが「不具合」ではなく、「設計の結果」であることが明確になります。遅い、不安定に見える、複雑だと思える、それらはすべて、web3が「透明性」「分散化」「自主権」を選択した結果と言えます。
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