おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
毎週土日の昼には基礎単語解説記事をお届けします。各記事をサクッと読めるような文量にして、改めて振り返れる、また勉強できるような記事を目指していきます。
本日は「ガス代」です。
ぜひ最後までご覧ください!
ユーザーはしばしば、ガス代が高すぎると不満を漏らします。しかし、この視点は本質を見落としています。ガス代は単なる手数料ではなく、有限である共有インフラを壊さないための、巧妙に設計された秩序の価格なのです。
なぜ「無料」は長続きしないのか
インターネット史には、無料サービスが崩壊した例が数多くあります。電子メールのスパムは、送信が無料であるから蔓延しました。ウェブサイトのDDoS攻撃は、帯域幅を消費するコストがバイトあたりゼロであるから可能になりました。
無料であれば、悪意のあるアクターは躊躇なくリソースを消費できます。スパムボットは1日に数百万通のメッセージを送ります。攻撃者は1秒間に数千のリクエストを送ります。その結果、正当なユーザーのメッセージは埋もれ、正当なリクエストは処理されません。
これは経済学の古典的な問題です。リソースは必ず奪い合いになります。すべての人が使える共有財産は、各個人が過度に消費することで枯渇します。これを「共有地の悲劇」と呼びます。
ブロックチェーンも例外ではありません。無料のトランザクションを許容すれば、瞬く間にネットワークがスパムで埋め尽くされます。
ブロックチェーンが提供している本当の資源
重要なのは、ブロックチェーンが提供しているのは単なるトークンの移動ではなく、極めて有限な資源だということです。
ブロックチェーンは、定期的に生成されるブロック(例えば12秒ごと)に限られたスペースを持ちます。Ethereumの場合、各ブロックに含められるデータサイズは制限されています。つまり、各ブロックに含められるトランザクション数は有限なのです。
さらに、検証者はこのデータを処理する計算能力を消費します。状態を変更(アカウント残高を更新、スマートコントラクトを実行)する際、ノードは計算を行い、ストレージを消費します。これらすべてが、有限な物理的リソースに支えられています。
web3で流通しているのは「トークン」という数字上の資産ではなく、「ブロックスペース」という現実の資源なのです。
ガス代は何に対して支払っているのか
ガス代の本質を理解するために、ユーザーが正確に何に対して支払っているのかを見つめる必要があります。
まず、計算コストです。スマートコントラクトの実行には、ノードが計算を行う必要があります。複雑な計算ほど、多くの計算能力を消費します。その消費した計算能力に対して、ユーザーはガス代を支払います。
次に、状態変更コストです。アカウント残高を更新したり、スマートコントラクトのストレージを変更したりする際、ノードはこの情報をディスクに永続化する必要があります。ストレージも有限であり、その使用に対して対価が必要です。
そして、ネットワーク全体への負荷です。各トランザクションはネットワークを通じて伝播する必要があります。この伝播にも帯域幅というリソースが消費されます。
これらすべての資源消費に対して、ガス代が支払われます。つまり、ユーザーは、単に「トランザクションを実行する」ために支払うのではなく、「現実の資源を消費する」ことに対して支払っています。
なぜオークション方式なのか
では、なぜEthereumはガス代を固定にせず、オークション方式で決定するのでしょうか。
答えは、優先順位の決定方法にあります。ブロックスペースは限られており、すべてのトランザクションが同時に処理できません。では、どのトランザクションを優先すべきか。
最も合理的な答えは、価格で決定することです。「早く処理してほしい人」が高く支払い、その見返りにマイナーやバリデーターが優先的に処理する。このメカニズムにより、価値を最大化するトランザクションが優先的に処理されます。
公平性と効率性のバランスも取れます。富裕層が無限に優先権を独占することもなく、一方で完全な平等主義もありません。市場メカニズムが、最適な配分を実現するのです。
ガス代がなければ何が起きるか
もしガス代がゼロであったなら、何が起きるでしょうか。
瞬時に、ネットワークはスパムトランザクションで埋め尽くされます。攻撃者は数百万個の無意味なトランザクションを送信します。正当なユーザーのトランザクションは埋もれ、処理されるまでに数日要するかもしれません。
マイナーやバリデーターにとって、ジャンクトランザクションと正当なトランザクションは区別がつきません。したがって、容赦なくスパムが処理されます。その結果、ネットワークの帯域幅と計算能力は急速に枯渇し、ネットワークはやがて停止します。
この状況では、正当なユーザーは排除されます。ブロックチェーンは、元々「誰でも使える」というのが利点のはずでした。しかし、スパムによってこの特徴は失われてしまう可能性があります。
L2でガス代はどう変わったのか
近年、Layer2ソリューション(OptimismやArbitrumなど)は、ガス代を大幅に削減してきました。なぜ削減できたのか、そしてなぜゼロにはならないのか。
L2が費用を削減できるのは、複数のトランザクションをバッチ処理し、それを1つのL1トランザクションとして圧縮できるからです。
つまり、1つのL1ブロックスペースで、数百のL2トランザクションを処理できるようになります。この効率化により、1トランザクションあたりのコストが劇的に低下します。
しかし、ゼロにはなりません。理由は単純で、最終的にはL1に依存しているからです。L2トランザクションも、定期的にL1ブロックチェーンに記録される必要があります。このL1への記録コストが、完全には消えないのです。
また、L2内でも状態変更が行われるため、L2ノードの計算能力と保存容量が消費されます。つまり、スケーリングにより費用は削減されますが、有限性という本質的な問題は残存します。
ガス代は誰を守っているのか
ガス代はスラッシングと同様に、複数のステークホルダーを守っています。
まず、ネットワークそのものを守ります。費用がなければ、スパムと悪意ある負荷によってネットワークは機能不全に陥ります。ガス代が存在することで、ネットワークの安定性が保たれます。
次に、バリデーターを守ります。彼らは膨大なストレージと計算能力を投下して、ネットワークを運用しています。ガス代がなければ、彼らは報酬を得られず、経済的インセンティブが失われます。
そして、正当なユーザーを守ります。スパムが蔓延すれば、正当なトランザクションは処理されません。ガス代により、スパムが抑止されるため、正当なユーザーのトランザクションが確実に処理される確率が高まります。
つまり、ユーザーがガス代を支払うことで、実は秩序を買っているのです。
「高いガス代=悪」なのか
しばしば、ガス代が高騰すると「Ethereumは失敗した」というコメントが見られます。しかし、この判断は正確ではありません。
高いガス代は、実は需要の強さを示す指標です。多くのユーザーがネットワークを使用したいため、優先順位の競争が激しくなり、結果として費用が上昇します。これは、ネットワークが価値を持つことの証拠です。
問題は、価格そのものではなく、設計にあります。確かに、平均的なユーザーにとって高すぎる費用は、アクセスを妨げる可能性があります。しかし、それは解決策がないわけではなく、より効率的なスケーリングソリューション(L2など)によって対処されます。
ガス代の高騰は、ネットワークの需要が供給を超えていることを示す重要なシグナルになります。
ガス代があるから成立する公共インフラ
最終的に、ガス代の存在は、web3が目指す「公共インフラ」の実現に不可欠です。
従来の公共インフラ(道路、橋、空港など)は、税金と料金で維持されます。web3には税を徴収する政府がありません。しかし、ガス代という「価格メカニズム」により、インフラが自動的に維持される仕組みが成立するのです。
ユーザーがガス代を支払う→バリデーターが報酬を得る→バリデーターがノードを稼働させ続ける→ネットワークが安定する。このサイクルは完全に分散化されており、誰にも管理されません。
さらに、価格により利用権が自動調整されます。需要が増えれば費用が上昇し、余裕のないユーザーは使用を控えます。その結果、ネットワークの負荷が自動的に最適水準に収束するのです。
誰も信じない世界で、国家に依存しない秩序を作る。ガス代は、その壮大な実験の中核を担う、極めて現実的で合理的な仕組みです。
以上、「ガス代」の解説でした!
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