おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
今日はweb3の基礎の基礎レポートということで「イーサリアム」について改めて解説します。よくある疑問20個に答えていく形式にしました。
はじめに
「イーサリアム」という言葉を耳にすると、多くの人が「ビットコインに似た暗号資産の一種なのだろう」と思われます。しかしイーサリアムは“お金”としての側面にとどまらず、「誰でも参加できる世界規模の分散コンピュータ」という、まったく新しい公共インフラを目指して設計されています。
この記事では、初心者の方が体系的に学べるよう10 個の疑問 を足がかりにして、イーサリアムの成り立ち・仕組み・特徴を順を追って解説します。また、後編ではさらに深い技術要素を扱います。
1. Ethereumとは何か?
イーサリアムは「停止しない世界共通のコンピュータ」です。ブロックチェーンの技術を応用し、世界中に散らばるノードが互いに合意形成を行いながら、一つの巨大な仮想マシンを動かします。特徴は次の三点です。
スマートコントラクト
コード化された契約をチェーン上に配置し、「条件が満たされたら自動実行」というロジックを仲介者なしで動かせます。これにより銀行や行政のような中央機関に頼らず、取引や手続きが完結します。改ざん耐性
データはブロック単位で永続的に保管され、新しいブロックが後ろに連結されるたびに過去データの改ざんが難しくなります。オープン参加
インターネット接続とオープンソースソフトウェアさえあれば、誰でもノードを立ち上げたり、アプリを公開したりできます。
この三つが組み合わさることで、「信頼できる第三者」を設置できない場面でも、安全かつ透明なサービスを提供できるのがイーサリアムの魅力です。
2. Ethereumの起源は?
イーサリアムの物語は、2013年にヴィタリック・ブテリン氏(当時19歳)が自宅の寝室で書いたホワイトペーパーから始まります。彼は既にビットコインコミュニティの一員でしたが、「ビットコインのスクリプト言語では表現力が足りず、十分に複雑なアプリケーションは作れない」と感じていました。そこで、より汎用的にプログラムを動かせる“ブロックチェーン 2.0”を提案したのです。
2014 年:Ethereum Foundation(EF)の設立
スイスで非営利財団として登録され、クラウドセール(今日でいうICOの先駆け)によって開発資金を調達しました。2015 年7月:Frontierの公開
ごく基本機能のみを備えた“開拓者向け”バージョンとしてメインネットがスタート。以降、Homestead(2016)、Byzantium(2017)、Constantinople(2019)、London(2021)、Shanghai(2023)、Dencun(2024)、Pectra(2025)と段階的にアップグレードを重ねています。2022 年9月:The Merge
もっとも大きな節目として、コンセンサス方式をPoWからPoSへ移行しました。これにより電力消費が激減し、スケーラビリティ改善の土台が整いました。
こうした歩みは「未完成でもまず出す → 皆で検証 → 良い提案を採用して次へ進む」というオープンソース的リズムで続いています。
3. Ethereum Foundationとは何か?
EFはイーサリアムの“運営会社”ではなく、“公共財を守る管理人”として機能する非営利組織です。主な役割を三つにまとめます。
資金の配分
クライアント実装、スケーリング研究、開発者ツール、教育活動などに年間数千万ドル規模の助成金を出しています。多様なプレイヤーに資金を振り向けることで、特定ベンダーへの集中を避けています。コミュニティの橋渡し
毎年開催される世界最大級の開発者会議 Devcon や地域ハッカソン、オンラインフォーラムの運営を通じ、研究者・エンジニア・ユーザーが交流する場を提供します。ロードマップの調整
規制当局や企業連合とも対話しながら、「イーサリアムが採用すべき技術・標準は何か」を議論の俎上に乗せ、合意形成の潤滑油となります。
EFは“中央集権的な司令塔”ではなく、“方向を示す灯台”に近い存在です。オープンソースプロジェクトが迷走しないよう、しかし強権的にはならないよう、微妙なバランスを取りながらネットワークを支えています。
4. Ether(ETH)とは何か?
イーサリアムを動かす燃料であり、ネットワークの安全を担保する抵当資産でもあるのが Ether(ETH)です。ここでは三つの側面を押さえておきましょう。
ガス代支払い用トークン
スマートコントラクトを呼び出したりトランザクションを送信したりするとガスを消費し、その対価をETHで払います。ガスは「計算量」「ストレージ使用量」に応じて増減するため、複雑な処理ほど高価です。ステーキング担保
PoSでは32 ETHを預け入れて初めてバリデーターになれます。正しい行動には報酬が追加され、不正行為には担保が削減(スラッシュ)されるため、経済的インセンティブがセキュリティを支えています。エコシステムの基軸通貨
NFTの購入やDeFiでの担保、レイヤー2の手数料など、ETHはエコシステム内の“エネルギー通貨”として機能します。
Londonアップグレード以降は手数料の一部がバーンされるようになり、供給増を相殺する局面もあります。その結果、ETHは「インフレ率が減少する通貨」になっています。
5. EthereumとBitcoinの主な違いは?
イーサリアムを理解するには、元祖であるビットコインと比較すると輪郭がはっきりします。以下のポイントに注目してください。
目的の違い
ビットコインは価値保存と送金に特化した“デジタルゴールド”を志向します。イーサリアムは幅広いアプリを動かす“分散型OS”を目指します。残高管理方式の違い
ビットコインはUTXO(未使用トランザクション出力)モデルで、コインの一部を送るたびに「お釣り」を自分のアドレスに戻す仕組みです。イーサリアムはアカウント/バランスモデルを採用し、銀行口座のようにアドレスと残高を1対1で対応させます。プログラミング能力の違い
ビットコインのScript言語は意図的に表現力を抑え、複雑なループや計算はできません。イーサリアムのEVMは複雑な条件分岐やループを表現できます。コンセンサス方式とエネルギー効率
ビットコインはPoWを継続し、マイニングに大量の電力を要します。イーサリアムは2022年のThe MergeでPoSへ移行し、消費電力を99%以上削減しました。
これらの違いにより、ビットコインとイーサリアムは“競合”というより“用途の異なる補完関係”として並び立っています。
6. アカウントモデルとは何か?
イーサリアムには EOA(Externally Owned Account) と コントラクトアカウント の二種類があります。
EOA
ユーザーが秘密鍵を所有し、トランザクションを発行する“財布”です。ガス代は必ずEOAが支払います。コントラクトアカウント
Solidityなどで書いたコード本体と、そのコードが扱うストレージ領域をセットで保持します。EOAや別のコントラクトに呼び出されるとコードが実行され、状態が更新されます。
たとえば、あなたがNFTを購入する場合は次のような流れです。
EOAが「Mint関数」を呼び出すトランザクションを作成し、ガス代を設定して署名。
コントラクトアカウントがそのトランザクションを受け取り、内部でNFTの所有者情報を更新。
変更後のストレージ状態が全ノードに共有され、ブロックに刻まれます。
この二層モデルにより、「個人の資産管理」と「自律的に動くプログラム」が明確に分離しつつ連携できるようになっています。
7. EVM(Ethereum Virtual Machine)とは何か?
EVMは「すべてのスマートコントラクトを同じルールで安全に実行する仮想コンピュータ」です。特筆すべき仕組みを三点挙げます。
スタックベースアーキテクチャ
計算は“積み重ねて後から取り出す”スタック方式で行います。命令は約150種類に整理され、シンプルで実装しやすい構造です。ガスメーター
各命令にコストが設定され、無限ループのようなリソース浪費行為を経済的に抑制します。ガスが足りないと途中で実行が巻き戻されるため、ネットワークがフリーズしません。サンドボックス
コントラクトはノードのOSやファイルシステムに直接アクセスできません。外部との通信はイベントログか、事前に許可されたプリコンパイルドコントラクトだけに限定されます。
この設計のおかげで、世界中のノードが同一ブロックを処理しても必ず同じ結果に収束し、ネットワーク全体が“止まらないコンピュータ”として機能します。
8. ガスと手数料の仕組みはどうなっているか?
トランザクションを送るとき、ユーザーは二つのパラメータを意識する必要があります。
消費ガス量
実行する命令の種類と回数、書き込むストレージの量によって決まります。たとえば単純送金は2万1000ガス前後、NFTミントは数十万ガス以上かかることもあります。ガス価格(gwei)
1ガスあたりに支払うETH量です。ネットワークが混雑しているときは高いガス価格を設定しないとトランザクションが後回しにされます。
Londonアップグレードで導入された EIP‑1559 により、手数料は「Base Fee + Priority Fee」という二部制になりました。Base Feeはネットワークが自動計算し、支払われた分はバーンされます。Priority Feeはバリデーターへのチップで、送信者が自分で上乗せできます。これにより手数料の予測性が向上し、ETH供給への希少性効果も生まれました。
9. Ethereumのコンセンサス機構は何か?
イーサリアムはPoSを採用しています。仕組みを時系列で追うとイメージしやすいです。
ステーキング登録
バリデーター候補者は32 ETHを預け入れ、公開鍵を登録します。スロットごとのプロポーザー選出
ネットワークはランダム関数を用いて12秒ごとにプロポーザーを指名し、次のブロックを作成する権利を与えます。アッテステーション投票
他のバリデーターは提案ブロックの正当性を署名で証明し、チェーン先端に取り込むかどうかを決めます。エポックとファイナリティ
32スロット(約6.4分)で1エポックが終わると、ブロックに“重みづけ”が付き、巻き戻りの危険がほぼゼロになります。報酬と罰則
正しい投票にはETH報酬が追加されます。不正行為や長時間オフラインにはスラッシュと呼ばれる罰金が科され、預けたETHが削減されます。
このループが途切れず続くことで、イーサリアムは安全かつエネルギー効率の高い合意形成を実現しています。
10. ブロック生成の流れはどうなっているか?
最後に、PoS下でのブロック生成をもう少し詳しく見てみましょう。
スロット(12秒)
イーサリアムの鼓動に当たる最小単位です。各スロットで一人のプロポーザーが選ばれ、トランザクションを集めてブロック提案を行います。アッテステーション
プロポーザー以外のバリデーターは投票メッセージを送信し、提案ブロックが正しいかどうかを確認します。投票が多いほどブロックは早く確定チェーンへ取り込まれます。エポック(32スロット)
ブロック確定を二重にチェックする“区切り”です。エポックが丸ごと承認されると、その前のブロック群は事実上書き換え不可能になります。フォークチョイスルール
万が一ネットワークが分岐しても、LMD‑GHOSTというアルゴリズムにより「最も投票が多いチェーン」が正当と認定されます。
このメカニズムにより、イーサリアムは毎秒数百件規模の取引を安定して処理しながら、高いセキュリティを維持しています。
まとめ
ここまでの10の疑問で、イーサリアムの誕生からコンセプト、組織、トークン経済、アカウント構造、仮想マシン、手数料設計、PoSコンセンサス、そしてブロック生成までを一気に学びました。これでイーサリアムという巨大な実験場の“輪郭”がつかめたはずです。
後編では、
EIP/ERCによる標準化の仕組み
ロールアップやシャーディングといったスケーリング技術
アカウント抽象化によるウォレット革命
MEVと経済インセンティブの最前線
といった“内部構造の詳細”を解説します。ぜひ後編もご覧ください!
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