おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
今日は「分散型SNSの収益性調査」として、FarcasterとTwitterのユーザー数・売上・従業員数を比較してみました。
数値がお互いに全て公開されているわけではないので、一部推測も含みますが、ご了承ください。尚、”Twitter”と表記しているのはTwitter時の数値(買収前で上場時)で比較しているのであえてそう表記しています。
📕課題提起
🟣Farcasterのデータ
📊数値比較
💬分散型SNSの収益性から、その未来を考察
📕課題提起
さて、比較に行く前にまずは前提についてお話します。この分析をしようと思った理由についてです。
ポッドキャストでも少し話したのですが、分散型SNSは既存SNSを代替するものではないのかもしれないと思ったことが理由です。その背景には分散型SNSの収益性の高さにあります。
今最も勢いのある分散型SNSの1つ「Farcaster(Warpcast)」の収益を見たときに、相当なものだと感じました。そこで、その感覚が本当なのかを確かめるために既存SNSであるTwitterと比較します。
僕はその業界の行末はビジネスモデルによって規定される部分が大きいと思っていて、収益化の方向性に向かって最適化されていくと思っています。
なので、分散型SNSを収益性(ビジネスモデル)の観点から読み解くことでその未来が見て取れるのではないかと考えました。
それでは本題です。
🟣Farcasterのデータ
公式Duneからデータを引用します。全てリサーチ時点の数値です。
DAUも多少の山はあれど、中長期で見れば右肩あがりとなっていますね。
ここから比較しようかと思います。比較方法は少し悩みましたが、以下の方法でやってみようと思います。
FarcasterのARPUを算出
TwitterのARPU算出
比較
それではいきます。
📊数値比較
①FarcasterのARPUを算出
リサーチ時におけるtrailing avg(7d)(≒WAU)は「55,686」人です。
その1週間の日次収益は
7/21:$4,206
7/20:$6,159
7/19:$4,707
7/18:$6,696
7/17:$4,629
7/16:$6,873
7/15:$5,541
これらを平均すると「約$5,544」となります。
つまり、ユーザー数「55,686人」に対して「$5,544」の日次収益がある計算ですね。約1ユーザー当たり0.1ドルの日次収益です。
これを年次で換算すると0.1ドル×365日なので、Farcasterは36.5ドルの年次ARPU(ユーザー平均単価)となります。(※概算なので計算した日程によって前後するとは思います)
ここで、Farcasterの収益ポイントを確認します。
大きく2つだと考えられます。
①Warpcastアカウントフィー
Farcaster上の代表的なクライアントアプリ「Warpcast」のアカウント登録フィーです。およそ月額1ドルほどかかり、その中でFarcaster FeeとWarpcast Feeの中でガス代やストレージフィーを引いて残った金額が収益となります。(当初は年額5ドルだったのですが、今Notionページを見ると年額12ドルになっています。上がったのでしょうか?それとも古いページ?この辺の真偽は不明です。)
②Warp購入費用
こちらもWarpcast内の売上です。WarpcastにはWarpと呼ばれるアプリ内ポイント(オンチェーンではない)が売買できます。これは他のアプリと同様にアプリ内で自由に使えるお金のようなものです。
Warpを利用すると、例えば以下のことが可能になります。
別の Farcaster アプリを接続する
特定の NFT を作成する
友人の Farcaster オンボーディングの料金を支払う
1 日に 1 回、他の人に 100 ワープを贈る
キャスト時に 10 ワープを贈る
また、チャンネルを作成する際にも年間2,500Warpの支払いが求められます。
1Warpは$0.01の固定価格で販売されていますので、例えばチャンネル作成には年間25ドルがかかるということですね。
②TwitterのARPU算出
Twitterは上場していたのでその際のデータはあります。ただ、どの時期を算出するのかでARPUは異なりそうです。以下、参考になりそうなデータです。
2020年にて計算してみます。
ユーザー数は「348百万人(3.48億人)」で売上は「3716百万ドル(37.16億ドル)」です。ここから(年次)ARPUを計算すると、「約10.7ドル」です。
③比較
上記で計算した数値に加えて、「従業員数」と「従業員1人あたりの売上」を加えてみると興味深い結果となりました。
FarcasterのRevenueはTwitterと揃えて年間計算。ユーザー数×年間ARPU。
Farcasterの従業員数は採用募集のNotionページから採用。
比較してみると、
年間ARPUはFarcasterの方が高い(約3.4倍)
従業員1人当たりの売上高はTwitterの方が高い(約4倍)
では考察に参ります。
💬分散型SNSの収益性から、その未来を考察
ここから見ると、以下の考察ができますが、その前に少し注意事項を。
今回の比較は数値に関しては公開情報を利用しましたが、比較する年によって異なるのであくまで一例です。別の年だと全く別の結果になるかもしれません。(そして、計算には十分に注意を払っていますが、万が一計算ミスがあればすみません)
また、今回は利益に関しての比較はしていません。利益はそもそもFarcasterが公開していないので比較ができないという理由もありますが、利益計算に影響を与える費用が拡大期や成熟期など経営戦略によって大きく異なるので、収益性の対象となる数値として不適当で、純粋にユーザー数と売上を比較する方がわかりやすいと感じました。
では、考察です。
ビジネスモデルとしてはFarcasterの方が優れている
ただし売上の絶対額が異なるため従業員1人当たりの収益はTwitterが優れている
よって、結論は
Farcasterはここからユーザー数を増やす中でARPUを減らさず、従業員数を大幅に増やさないままに成長することができれば、Twitterよりも収益性に優れたSNSを構築できる
です。
従業員数による売上額の比較は絶対額が違う部分もありますが、プラットフォーム系のビジネスは売上とコストが比例するものではないので、初期はどうしても高くなります。今のユーザー数の1,000倍になっても従業員数が1,000倍になることはないので、今回は比較しましたが、特段注目すべき数値ではありません。
ただし、今後の成長の中で過剰に従業員を雇ったり、ARPUが減少していくと収益性が低下していくので、Twitterと変わらなくなってしまいます。
ただやはり、Twitterが広告ビジネスである点に対して、Farcasterはダイレクト課金型SNSとなるので収益性に大きな違いがありました。
個人的な感覚としては、Farcasterはユーザー数の拡大のために従業員を過剰に増やしたり広告費に投下する必要がそこまでないので、エンジニアだけを増やし、とにかく地道に開発をし続け、ユーザー数が伸びていく形かなと思っています。
実際に求人ページを見てみてもエンジニアしか募集していません。
ファウンダーの普段の発言を見ても、巨額の資金調達をした際のコメントを見ても、短期的なユーザー数の増加よりも、優れたプロダクトを作り、徐々にユーザー数が勝手に増えて定着していくことを考えていると思います。
そして、最初の課題提起に戻ります。
ビジネスモデルから分散型SNSの未来を考察、そして既存SNSを代替し得るのか、という問いです。
個人的な結論は以下です。
Warpcast単体でTwitter(現X)規模にまで成長するイメージはない。
理由はARPUの高さこそが収益性の根源であり、月額1ドル以上を支払って利用するユーザー数が数億人いるSNSはまだ存在しないから。
お金を払ってSNSを利用するユーザー数がそこまでいないと考えられる。
よって、分散型SNSをアプリケーション単体で見ると、数億ユーザーに到達するイメージが湧かない。
ここで次は、Farcasterのような分散型SNSプロトコル規模で考え、数万ユーザーのSNSが何百個も乱立すると全て合わせて既存SNSを代替する可能性はあるのかという問いが浮かびます。ただ、僕はここに関してもイメージが湧きません。
理由はビジネスモデルにあります。
上述した通り、Warpcastは既存SNSとビジネスモデルが違います。そして、その高いARPUを維持するにはユーザーに課金してもらう必要がありますが、それだけ課金するユーザー数は現状多くありません。まだ数億人がサブスク課金しているSNSはありません。
そうなると、そもそもWarpcastのユーザー数が数億人になることはないのではないかという考察ができます。(その場合でも収益化はできるので黒字運営はできるはずです)
で、WarpcastみたいなSNSが多数できたとしても、同じビジネスモデルである以上、TAMが広がることはありません。
例えば、Farcasterで以下のユーザー数のアプリができたとします。
Warpcast:100万ユーザー
Bアプリ:50万ユーザー
Cアプリ:200万ユーザー
Dアプリ:300万ユーザー
Eアプリ:150万ユーザー
これを単純に足すと800万ユーザーになりますが、ここがかなりの確率で被っているのではないかと予想されます。なぜなら直接課金型のSNSでお金を支払う人はそこまで多くないからです。(web3人口が少ないこともありますが)
じゃあ、既存SNSと同じく広告モデルを採用したらどうなるのか。相当なインセンティブを付与するか、UXの革命がないと、既存SNSには勝てません。純粋に同じマネタイズをするとユーザー数勝負になるので、既存SNSの膨大な資金力に対してスタートアップが真っ向から勝負するのは非常に難しいです。
そうなると、既存SNSとマネタイズが異なる分散型SNSが主流になり、そのSNSを利用するTAMは既存SNSほど大きくないので、全てのユーザーが分散型SNSに移行することはないのではないかと予想します。
あるとすれば、既存SNS側が裏側にブロックチェーンを利用するようになり、分散型SNS化していくという方向性です。
結論、分散型SNSは高い収益性を誇るので一定ワークするが、それは既存SNSを全て代替するものではなく、一部の人間のシェアを取ること留まるのではないか、です。
ブロックチェーンがマスアダプションするとオンチェーンネイティブになるので、WarpcastのFramesのような機能は強みになるかと思いますが、そこまで盛り上がるならば、その過程の中で既存SNSにもそういう機能はつきそうです。実際、SolanaがXの拡張機能でXタイムラインでオンチェーンアクションができるものを開発しています。
ただ、これは分散型SNSの可能性を否定するものではなく、使い分けとして別の市場が開拓されるのではないかという話です。より金融機能が身近にあるSNSなので、そっちに進化していくことで新しい市場となりそうです。
仮説に仮説を重ねている部分もあるので、少しわかりづらい部分もあったかと思います。すみません。また、計算もどこか間違っていたらすみません。
以上、「【分散型SNSの収益性調査①】FarcasterとTwitterのユーザー数・売上・従業員数を比較」でした!
明日は「【分散型SNSの収益性調査②】FarcasterとLensとFriend.techのユーザー数・売上を比較」を更新する予定です。今日は分散型SNS vs 既存SNSでしたが、明日は分散型SNS同士、そしてSocialFiとの比較です。お楽しみに!
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