おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
毎週土日のお昼にはweb3の基礎の基礎レポートを更新しています。今週は「クロスチェーン&ブリッジ」について解説します。ぜひ最後までご覧ください!
1. はじめに:ブロックチェーンの"島"問題
1.1 各チェーンが独立した島のように存在する現状
現在のブロックチェーン業界を俯瞰すると、まるで太平洋に散らばる多数の島々のような状況が見えてきます。Bitcoin、Ethereum、Solana、Polygon、Arbitrum、Optimism、BNB Chain、Avalanche...これらの各ブロックチェーンは、それぞれ独自の技術基盤、コンセンサスメカニズム、経済圏を持つ「独立した島」として存在しています。
Bitcoin島では、デジタルゴールドとしての価値保存が重視され、堅牢性とセキュリティが最優先されています。一方、Ethereum島では、スマートコントラクトという高度な機能を持ちながらも、トランザクション処理能力の限界と高い手数料という課題を抱えています。高速処理を武器とする島もあれば、低コストでの処理を特長とする島もあります。
しかし、これらの島々は基本的に独立しており、相互に直接的な資産の移動や情報のやり取りができません。Bitcoin島にあるBTCを、Ethereum島のDeFiプロトコルで活用したい場合、従来は中央集権的な取引所を経由する必要がありました。
この分断状況は、ブロックチェーン技術の真の可能性を制限しています。
例えば、優れたDeFiプロトコルがあっても、異なるチェーン上の資産を直接活用することはできません。また、異なるチェーン上のNFTマーケットプレイスは、それぞれ独立したエコシステムとして機能しており、ユーザーは複数のウォレットを管理し、複数の異なるトークンを保有する必要があります。
1.2 国際送金(SWIFT)との対比で"なぜつなぎたいのか"をイメージ
この問題をより具体的に理解するために、従来の金融システムにおける国際送金と比較してみましょう。
現在の国際銀行間送金システムSWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)は、世界200カ国以上、11,000以上の金融機関を結ぶネットワークです。日本の銀行からアメリカの銀行に送金する際、両銀行が直接つながっているわけではありません。代わりに、標準化されたメッセージフォーマットと、コルレス銀行(correspondent banks)という中継機関を通じて送金が実現されています。
例えば、東京の三菱UFJ銀行からニューヨークのJPモルガン・チェースに送金する場合:
送金指示:顧客が三菱UFJ銀行に送金を依頼
SWIFTメッセージ:三菱UFJ銀行がSWIFTネットワークを通じて送金指示を送信
コルレス銀行経由:必要に応じて中継銀行を経由
着金確認:JPモルガン・チェースが資金を受け取り、受益者の口座に入金
このシステムの核心は、異なる国、異なる通貨、異なる規制環境にある銀行同士が、共通のプロトコルとルールに基づいて資金移動を実現していることです。各銀行は独立した存在でありながら、SWIFTという共通インフラを通じて相互接続されています。
ブロックチェーンの世界でも、同様のニーズが存在します。しかし、従来の金融システムと異なり、ブロックチェーンは本質的に分散型であり、中央管理者が存在しません。そのため、チェーン間の相互接続には、より複雑で別のアプローチが必要となります。
1.3 クロスチェーン技術の必要性
なぜ私たちはブロックチェーン同士をつなぎたいのでしょうか?その理由は多岐にわたります。
流動性の統合:最大の理由の一つは、流動性の分散問題です。例えば、USDCは複数のチェーンに存在しますが、これらは技術的には別々の資産です。DeFiプロトコルにとって、より大きな流動性プールにアクセスできることは、より良い価格発見とより低いスリッページを意味します。
ユーザーエクスペリエンスの向上:現在のマルチチェーン環境では、ユーザーは複数のウォレットを管理し、各チェーンのネイティブトークンをガス代として保有する必要があります。クロスチェーン技術により、ユーザーは単一のインターフェースから複数のチェーンの機能にアクセスできるようになります。
リスク分散:単一のチェーンに依存することは、そのチェーンの技術的問題や攻撃リスクに全てを委ねることを意味します。クロスチェーン技術により、資産やアプリケーションを複数のチェーンに分散させることで、リスクを軽減できます。
専門性の活用:各ブロックチェーンには独自の強みがあります。Bitcoinの価値保存、Ethereumのスマートコントラクト、高速処理チェーン、低コストチェーンなど。クロスチェーン技術により、これらの専門性を組み合わせた新しいアプリケーションが可能になります。
イノベーションの加速:分断された環境では、各チェーンのイノベーションは他のチェーンに直接的な影響を与えません。相互接続により、一つのチェーンでの技術的ブレークスルーが、他のチェーンでも活用可能になります。
2. クロスチェーンの大まかなモデル
2.1 ロック&ミント:元チェーンで資産をロック → 目的チェーンで同量を発行
クロスチェーン技術の最も基本的なモデルの一つが「ロック&ミント」です。このモデルは、まるで銀行の預金証書のような仕組みで機能します。
基本的な流れ
ロック段階:ユーザーがチェーンAの資産を特別な金庫に預ける(ロック)
証明段階:ロックが完了したことを他のチェーンに証明
ミント段階:チェーンBで同量の「トークン」を新規発行
利用段階:ユーザーはチェーンB上でこのトークンを使用
具体例で説明しましょう。
AliceがEthereum上の100USDCをPolygon上で使用したい場合:
ロック:Aliceは、Ethereum上の特別な保管庫に100USDCを預けます。この保管庫は、受け取ったUSDCを「金庫」のような場所に保管し、誰も引き出せない状態にします。
証明生成:ブリッジシステムは、Ethereum上で100 USDCがロックされたという事実を数学的に証明します。この証明には、取引の詳細情報や、その取引が確実に行われたことを示すデータが含まれます。
証明の検証:Polygon側のシステムが、Ethereum上でのロック操作が確実に行われたことを検証します。
ミント:検証が完了すると、Polygon上で100 USDCが新規発行され、Aliceのウォレットに送金されます。
この時点で、全体のUSDC供給量は変わっていません。Ethereum上の100 USDCはロックされて使用不可能になり、代わりにPolygon上で100 USDCが利用可能になっています。
逆方向の流れ(アンロック&バーン)
AliceがPolygon上のUSDCをEthereumに戻したい場合:
バーン:Polygon上の100 USDCを「燃やす」(永久に削除)
証明:バーンが完了したことをEthereumに証明
アンロック:Ethereum上でロックされていた100 USDCを解放
返却:解放されたUSDCがAliceのEthereumウォレットに返却
2.2 バーン&ミント:元チェーンの資産をバーン → 目的チェーンで新規発行
「バーン&ミント」モデルは、ロック&ミントよりもさらに直接的なアプローチです。このモデルでは、元のチェーン上の資産を完全に破棄(バーン)し、目的チェーンで新しい資産を作成(ミント)します。
ロック&ミントとの違い
ロック&ミントでは、元の資産は「保管」されているため、理論的には取り出すことができます。一方、バーン&ミントでは、元の資産は完全に消滅します。
適用場面
バーン&ミントモデルは、主に以下の場面で使用されます。
マルチチェーンネイティブトークン:最初から複数のチェーンでの使用を想定して設計されたトークン
ステーブルコインの管理:中央発行体が複数のチェーンで同じ価値を持つトークンを管理する場合
プロジェクトの移行:プロジェクトがメインチェーンを変更する際の資産移行
実際の動作例
Circle社が発行するUSDCは、バーン&ミントモデルの優れた例です。Circleは、複数のチェーンでUSDCを発行していますが、各チェーンのUSDCは独立した存在として管理されています。
ユーザーがEthereum USDCをPolygon USDCに変換したい場合:
バーン要求:ユーザーがEthereum上でUSDCのバーンを要求
実際のバーン:Circleが指定されたEthereum USDCを永久に削除
ミント:Circleが同量のPolygon USDCを新規発行
配布:新規発行されたPolygon USDCがユーザーに送金
このプロセスにより、全体のUSDC供給量は変わらず、単に異なるチェーン間で再配布されるだけです。
2.3 自動化システムによる処理
現代のクロスチェーンブリッジは、これらの基本的なモデルを自動化システムによって実現しています。これにより、人間の介入なしに、24時間365日の運用が可能になっています。
自動化の仕組み
資産の自動管理:ブリッジシステムは、ユーザーから預かった資産を自動的に管理します。これには、適切な残高管理、不正アクセスの防止、緊急時の資産保護などが含まれます。
証明の自動生成と検証:システムは、チェーン間で情報を伝達するための数学的証明を自動的に生成し、検証します。
条件付き自動実行:「チェーンAで資産がロックされた場合にのみ、チェーンBで資産をミントする」といった条件付きロジックを自動的に実行します。
自動化のメリット
効率性:人間のオペレーターが不要なため、処理時間が大幅に短縮されます。従来の国際送金が数日かかるのに対し、クロスチェーンブリッジは数分から数時間で完了します。
透明性:全ての処理がブロックチェーン上で実行されるため、誰でも処理状況を確認できます。
コスト削減:仲介者が不要なため、手数料を大幅に削減できます。
可用性:24時間365日、いつでも利用可能です。
自動化の課題
一方で、自動化にはリスクも伴います。
システムの脆弱性:自動システムにバグがあると、大量の資産が失われる可能性があります。
アップグレードの困難性:一度デプロイされた自動システムは簡単に変更できないため、新しい機能の追加や問題の修正が困難です。
複雑性:チェーン間の相互作用は複雑で、予期しない動作が発生する可能性があります。
3. トラストモデルの違い
クロスチェーンブリッジの安全性と信頼性は、どのような「トラストモデル」を採用するかによって大きく異なります。
3.1 トラストレス型:完全にコードだけで完結
トラストレス型ブリッジは、「信頼できる第三者」に依存せず、純粋に数学的・暗号学的な手法によって安全性を保証するシステムです。
トラストレス型は、数学的証明とブロックチェーンのルールの活用で実現します。
1. 直接検証方式
最も純粋なトラストレス型では、各チェーンが他のチェーンの状態を直接検証できる仕組みを実装します。これは、一つのチェーンが他のチェーンの「簡易版」を内蔵し、重要な取引の存在を直接確認できる技術です。
例えば、EthereumからBitcoinへの資産移動を考えてみましょう:
Bitcoin側にEthereumの状態を検証する機能を実装
Ethereum上での資産ロックを、Bitcoinが直接検証
検証が完了して初めて、Bitcoin側で対応する処理を実行
2. ゼロ知識証明
より高度なアプローチとして、ゼロ知識証明を活用する方法があります。この技術により、秘密情報を明かすことなく、特定の事実を証明できます。
具体的には:
チェーンAで特定の取引が実行されたことを証明
ただし、取引の詳細を公開する必要はない
チェーンBがこの証明を検証し、対応する処理を実行
3. 数学的証明構造
多くのトラストレス型ブリッジは、Merkle Treeという構造データ構造を活用します。
ブロックの要約情報
↓
全取引の要約
↓
取引グループの木構造
↓
個別の取引
この構造により、特定の取引がブロックに含まれていることを、全ての取引データを持たずに証明できます。
実際の例:Cosmos IBC
Cosmosエコシステムの IBC(Inter-Blockchain Communication)プロトコルは、トラストレス型ブリッジの優れた例です。
IBCの動作原理:
接続確立:チェーンA と チェーンB が相互に状態確認機能を設定
チャネル開設:特定のアプリケーション(例:トークン転送)用のチャネルを開設
データ送信:チェーンA がデータをチェーンB に送信
証明と検証:チェーンB がチェーンA の状態確認機能を使用してデータを検証
確認応答:チェーンB が確認応答をチェーンA に送信
このプロセス全体で、中央集権的な仲介者は一切関与しません。
メリット
完全な分散化:単一障害点が存在せず、理論的には最も安全
検閲耐性:第三者による取引の停止や検閲が不可能
透明性:全ての検証プロセスがオンチェーンで実行される
長期的安定性:運営者の意向に左右されない
デメリット
実装の複雑性:技術的な実装が非常に困難
計算コスト:複雑な証明の生成・検証には手数料がかかる
対応チェーンの制限:直接検証機能の実装が可能なチェーンに限定
速度の制約:完全な検証には時間がかかる場合がある
3.2 トラステッド型:運営者(オラクル/多重署名)に依存
トラステッド型ブリッジは、信頼できる第三者(運営者、バリデーター、オラクル)に依存してチェーン間の橋渡しを行います。
主要な実装パターン
1. 多重署名(Multisig)モデル
最もシンプルなトラステッド型は、複数の信頼できる関係者が共同で資産を管理するモデルです。
仕組み:
7人のバリデーターが存在し、そのうち5人の署名があれば取引を実行可能(5-of-7 multisig)
ユーザーがチェーンAで資産をロック
バリデーターたちがロックを確認し、チェーンBでの資産発行に署名
5人以上の署名が集まると、チェーンBで資産が発行される
実例:Wrapped Bitcoin (WBTC)
WBTCは、Ethereum上でBitcoinを利用可能にする代表的なトラステッド型ブリッジです。
WBTCの仕組み:
保管機関:専門機関がBitcoinを保管
認定業者:認定された業者がWBTCの発行・償還を管理
監督機関:分散型組織がシステム全体を監督
ユーザーがBitcoinをWBTCに変換する際:
認定業者にBitcoinを送金
認定業者が保管機関にBitcoinを預託
保管機関がEthereum上でWBTCを発行
発行されたWBTCがユーザーに送金
2. オラクルネットワークモデル
より分散化されたアプローチとして、複数のオラクルが独立してチェーンAの状態を監視し、チェーンBに報告するモデルがあります。
動作の流れ:
分散監視ネットワーク:複数の独立した監視者がチェーンAを監視
合意形成:監視者たちが特定の閾値(例:3分の2以上)で合意を形成
実行:合意が形成されると、チェーンBで対応する処理を実行
3. 信頼できる運営者モデル
一部のブリッジは、単一の運営者が全体を管理するモデルを採用しています。これは最もシンプルですが、最も中央集権的なアプローチです。
仕組み:
運営者がチェーンA と チェーンB の両方でシステムを管理
ユーザーの要求に応じて、運営者が手動または自動でクロスチェーン取引を実行
運営者の正直性と技術的能力に全面的に依存
メリット
実装の簡単さ:技術的な複雑性が低く、迅速に展開可能
高速処理:複雑な証明プロセスが不要なため、高速な処理が可能
柔軟性:新しいチェーンへの対応が比較的容易
ユーザビリティ:シンプルなユーザーインターフェースを提供可能
デメリット
中央集権リスク:運営者への依存度が高い
検閲リスク:運営者による取引の停止や検閲が可能
信頼性リスク:運営者の技術的失敗や悪意によるリスク
規制リスク:運営者が規制当局の影響を受ける可能性
3.3 ハイブリッド型:コード+人のチェック
ハイブリッド型は、トラストレス型とトラステッド型の利点を組み合わせたアプローチです。基本的な処理は自動化されたコードによって実行されますが、重要な決定や例外的な状況では人間の判断が介入します。
実装パターン
1. 段階的信頼モデル
このモデルでは、取引金額や重要度に応じて異なるレベルの検証を適用します。
例:取引金額による分類
小額取引(例:$1,000未満):完全自動処理
中額取引(例:$1,000-$100,000):自動処理 + 事後監査
大額取引(例:$100,000以上):人間による事前承認が必要
2. 異常検知システム
機械学習やルールベースのシステムで異常を検知し、人間の介入を求めるモデルです。
異常検知の例:
通常の10倍以上の取引量
短時間での大量取引
新しいアドレスからの大額取引
既知の攻撃パターンとの類似性
3. 段階的分散化
プロジェクトの初期段階では中央集権的な管理を行い、徐々に分散化を進めるアプローチです。
段階的分散化のロードマップ例:
Phase 1(立ち上げ期):
開発チームによる完全管理
手動でのクロスチェーン処理
厳格な取引制限
Phase 2(成長期):
多重署名による管理
部分的な自動化
取引制限の緩和
Phase 3(成熟期):
コミュニティガバナンス
完全自動化(例外処理を除く)
オープンなパラメータ調整
Phase 4(完全分散化):
トラストレス型への移行
人間の介入の最小化
コミュニティによる完全管理
実際の例:主要なブリッジプロトコル
多くの主要なブリッジプロトコルは、ハイブリッド型アプローチを採用しています。
基本的な仕組み:
バリデーターネットワーク:複数のバリデーターがネットワークを管理
自動処理:通常の取引は自動的に処理
ガバナンス:重要な決定はコミュニティ投票で決定
緊急停止機能:問題発生時には人間が介入可能
処理フロー:
ユーザーが元チェーン上で資産をデポジット
バリデーターが自動的にデポジットを検証
目的チェーン上で対応する資産を発行
異常検知システムが継続的に監視
問題が検出されれば、人間の管理者が介入
メリット
バランスの取れたセキュリティ:完全な自動化のリスクと完全な中央集権のリスクを回避
実用性:技術的な複雑さを抑えながら、実用的なサービスを提供
段階的改善:時間をかけて徐々にシステムを改善・分散化可能
柔軟な対応:予期しない状況に対して人間の判断で対応可能
デメリット
複雑性:トラストレス型とトラステッド型の両方の複雑さを持つ
ガバナンス負荷:継続的な人間の関与が必要
部分的な中央集権:完全な分散化ではない
移行リスク:段階的分散化の過程で新たなリスクが発生する可能性
4. 主要コンポーネント入門
クロスチェーンブリッジは、複数の専門的なコンポーネントが連携して動作する複雑なシステムです。これらのコンポーネントを理解することは、ブリッジの動作原理と潜在的なリスクを把握するために不可欠です。
4.1 Relayer/Watcherの役割
Relayer(リレイヤー)の基本概念
Relayerは、クロスチェーンブリッジにおける「郵便配達員」のような存在です。チェーンAで発生したイベントをチェーンBに伝達し、適切な処理を実行させる役割を担います。
Relayerの主要機能
イベント監視
Relayerは、ソースチェーン上の特定のシステムを常時監視し、ブリッジ関連のイベントを検出します。これは、24時間体制で郵便ポストを監視している郵便配達員のような役割です。ユーザーがEthereum上でUSDCをロックすると、Relayerはこのイベントを即座に検出し、「Aliceが100USDCをロックした」という情報を記録します。証明の生成
検出したイベントに基づいて、数学的証明を生成します。この証明により、目的チェーンは元のチェーンで確実にイベントが発生したことを検証できます。Relayerは「Ethereum上で確実にこの取引が行われました」という証明書を作成します。トランザクション実行
目的チェーン上で、対応するトランザクション(ミント、アンロックなど)を実行します。
Watcher(ウォッチャー)の役割
Watcherは、システムの「監視員」または「監査人」として機能します。Relayerが正しく動作しているかを監視し、不正や異常を検知する役割を担います。
Watcherの主要機能
1. 不正検知
Relayerが偽の証明を提出していないかチェック
二重支払いやその他の攻撃パターンを検知
システムの状態不整合を監視
2. チャレンジシステム
多くのブリッジでは、Watcherが不正を発見した場合にチャレンジ(異議申し立て)を行うシステムが実装されています。
例えば、Watcherが「このRelayerは存在しない取引を報告している」と発見した場合、証拠を提出してチャレンジを行います。チャレンジが正当と認められれば、不正なRelayerにペナルティが課され、Watcherには報酬が支払われます。
3. 緊急停止
重大な問題を検知した場合、Watcherはシステムの緊急停止を要求できます。これは、火災報知器のような安全装置の役割です。
分散化されたRelayer/Watcherネットワーク
単一のRelayerに依存することは、その人が病気になったり不正を働いたりするリスクがあります。そのため、多くの現代的なブリッジは分散化されたネットワークを採用しています。
分散化の仕組み:
複数Relayer:10以上の独立したRelayerが並行して動作
合意形成:複数のRelayerが同じ結果を報告した場合のみ実行
インセンティブ:正確な報告を行ったRelayerに報酬を提供
ペナルティ:不正や誤報告を行ったRelayerにペナルティを課す
これにより、単一のRelayerが不正を働いたり、技術的な問題を抱えたりしても、システム全体の安全性が保たれます。
4.2 証明(Proof)の受け渡しイメージ
クロスチェーンブリッジにおける「証明」は、まるで国際的な公証制度のような役割を果たします。
証明の種類
1. Merkle Proof(マークル証明)
最も基本的で広く使用される証明方式です。
ex)図書館には10,000冊の本があります。「ハリー・ポッター」という本が確実に蔵書されていることを証明したい場合。
従来の方法:10,000冊全てをチェック
Merkle証明:
本を分類ごとにグループ化
各グループの「要約カード」を作成
要約カードをさらにグループ化
最終的に図書館全体の「総合要約カード」を作成
「ハリー・ポッター」から総合要約カードまでのルートを証明
この方法により、10,000冊の詳細を知らなくても、特定の本の存在を効率的に証明できます。
ブロックチェーンでの応用:
ブロック全体の要約
↓
取引グループの要約
↓
個別の取引
Aliceの取引が確実にブロックに含まれていることを証明する場合、ブロック内の全取引を提示する必要はありません。Aliceの取引から、ブロック全体の要約までの「証明の道筋」を示すだけで十分です。
2. Light Client Proof(ライトクライアント証明)
より高度な証明方式で、ブロックチェーン全体のルールと合意メカニズムを活用します。
これは、新聞の見出しだけを読んで、重要な記事の内容を確認する方法に似ています。
ブロックヘッダーチェーン:重要な情報(見出し)のみを保存
合意検証:そのブロックが正当なプロセスで生成されたことを確認
確定性確認:ブロックが確定されていることを証明
3. Zero-Knowledge Proof(ゼロ知識証明)
最も先進的な証明方式で、秘密情報を明かすことなく特定の事実を証明します。
ex)あなたが「大学を卒業している」ことを証明したいが、どの大学かは秘密にしたい場合。
従来の方法:卒業証書を提示(大学名が明らかになる)
ゼロ知識証明:「私は認定大学を卒業している」ことのみを証明(具体的な大学名は秘匿)
ブロックチェーンでの応用: 「私は1000 USDC以上の残高を持っている」
従来の方法:実際の残高(例:1250 USDC)を公開
ゼロ知識証明:残高の具体的な金額を秘匿したまま、1000 USDC以上であることのみを証明
まとめ:前編で学んだ基礎知識
本記事の前編では、クロスチェーンブリッジの基本的な仕組みとコンポーネントについて詳しく解説しました。
1. ブロックチェーンの分断問題
現在のブロックチェーン業界は、独立した「島」のような状態にあり、相互の資産移動や情報交換が困難な状況にあることを理解しました。これは、金融業界におけるSWIFTシステムのような標準化された相互接続の仕組みが必要であることを示しています。
2. 基本的な技術モデル
ロック&ミント:元チェーンで資産をロックし、目的チェーンで同量を発行
バーン&ミント:元チェーンで資産を完全に破棄し、目的チェーンで新規発行
3. トラストモデルの重要性
トラストレス型:完全にコードベースで動作し、最高レベルのセキュリティを提供するが、実装が複雑
トラステッド型:運営者に依存するが、実装が簡単で高速処理が可能
ハイブリッド型:両者の利点を組み合わせた現実的なアプローチ
それぞれのアプローチには明確なトレードオフがあり、用途や要求に応じて適切な選択が必要であります。
4. 主要コンポーネントの役割
Relayer:チェーン間でのメッセージ配達を担当する「郵便配達員」
Watcher:システムの監視と不正検知を実行する「監査人」
証明システム:チェーン間での信頼性の高い情報伝達を実現する「公証制度」
これらのコンポーネントが連携することで、分散型でありながら信頼性の高いクロスチェーン通信が実現されています。
技術の本質的理解
最も重要なのは、クロスチェーンブリッジが単なる技術的なツールではなく、分断されたブロックチェーン経済圏を統合し、より大きな価値を創造するためのインフラであるということです。
従来の金融システムがSWIFTによって国際的に接続されているように、ブロックチェーンもクロスチェーン技術によって相互接続され、より豊かなエコシステムを形成していく可能性があります。
ただし、この技術には固有のリスクと課題も存在します。完全な自動化による効率性と、人間による管理の安全性のバランス、そして技術的複雑性と実用性のトレードオフなど、様々な要素を考慮する必要があります。
後編では、これらの技術的基盤を踏まえて、より実践的な側面に焦点を当てていきます。
安全性の具体的考慮事項:実際に発生したハッキング事例と対策
ユーザーエクスペリエンス:実際の送金フローと注意点
経済性とパフォーマンス:手数料構造、処理時間、最適化手法
将来の技術発展:ゼロ知識証明、標準化の進展、新しいアプローチ
これにより、クロスチェーンブリッジを理論的に理解するだけでなく、実際に活用する際の実践的な知識も身につけることができるでしょう。
免責事項:リサーチした情報を精査して書いていますが、個人運営&ソースが英語の部分も多いので、意訳したり、一部誤った情報がある場合があります。ご了承ください。また、記事中にDapps、NFT、トークンを紹介することがありますが、勧誘目的は一切ありません。全て自己責任で購入、ご利用ください。
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