web3コンセンサスアルゴリズム入門【後編】~Ethereum Merge・Avalanche・Polkadot・ZK技術など最新トレンド~
イーサリアムのPoS移行(The Merge)やAvalanche・Polkadot・Cosmosの最先端手法、ZKロールアップやMEV/PBS対策まで幅広く網羅。モジュラー型ブロックチェーンの台頭と今後の展望をまとめ、web3の未来像を描き出します。
おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
土日のお昼はAIによるレポートを更新します。
普段は最新のトレンドや注目プロジェクトを紹介していますが、ここでは過去からの歴史を振り返る系の記事を投稿していきます。レビューはしていますが、一部内容に間違いがあるかもしれませんので、ご了承ください。
それではどうぞ!
前編の振り返り
主要アルゴリズムの概要
前編では、ビットコインの誕生とともに世に出たProof of Work(PoW)をはじめ、Proof of Stake(PoS)、Delegated PoS(DPoS)、BFT系などの基礎的なコンセンサスアルゴリズムを整理しました。PoWは計算力競争を通じて改ざん耐性を担保する仕組みであり、高いセキュリティを持つ一方で電力消費やハードウェア競争などが問題視されてきました。これを受けてPoSが登場し、コイン保有量とステークによるブロック生成モデルが広がります。さらに代表者を投票で選ぶDPoS、そしてBFT系(TendermintやPBFT)のようにラウンドごとの投票で即時ファイナリティを得る方式が生まれ、web3の分散化・スケーラビリティ・セキュリティをどう両立するかが議論の中心となってきたのです。
これらの各方式にはそれぞれのメリットとデメリットがあり、「スケーラビリティ」「分散性」「セキュリティ」の3要素(ブロックチェーンのトリレンマ)のうち、どこに重点を置くかでアーキテクチャが変わってきます。後編では、このような基礎的知識を踏まえ、より新しい動向やアップデート事例、そしてコンセンサスアルゴリズムが直面する課題と今後の展望を掘り下げていきましょう。
後編の概要
本稿(後編)では、以下のようなトピックを中心に扱います。
イーサリアムのPoS移行(The Merge)とロールアップ中心へのシフト
Avalanche / Polkadot / Cosmosの新時代プラットフォームとコンセンサス設計
ZK(ゼロ知識証明)とコンセンサスの関係、ZKロールアップの台頭
MEV問題とPBS(提案者-ビルダー分離)への取り組み
新たなProof of X(Proof of Space、Proof of Authorityなど)
課題と今後のブロックチェーン展開、量子耐性、そして社会実装の可能性
前編で学んだ伝統的コンセンサス方式の延長線上に、どういった最先端の試みがあるのかを理解すれば、web3の未来像をより立体的に捉えられるようになるでしょう。
イーサリアムのPoS移行(The Merge)とシャーディング構想
PoWからPoSへ
イーサリアムはもともとPoWを採用していましたが、エネルギー負荷やスケーラビリティの制限を克服するため、長年にわたりPoS移行を計画してきました。2022年9月に行われた「The Merge(マージ)」により、イーサリアムは正式にPoWを廃止し、Proof of Stakeへと切り替えました。この大規模アップグレードにより、イーサリアムの電力消費は99%以上削減されたといわれ、環境面の懸念が大きく緩和されたと言えます。
イーサリアムのPoSでは、32ETHをステークしたバリデータが一定の確率でブロック提案権を得る仕組みです。正しいブロックを提案すると報酬を得られ、不正を行うとスラッシングによる担保没収が行われます。これは前編で解説したPoSモデルの典型的な形ですが、イーサリアムのように数十万~数百万のバリデータ候補がいる巨大ネットワークで運用するには、特殊な設計上の工夫(Casper FFGなど)も組み込まれています。
ロールアップ中心戦略とシャーディング
イーサリアムではPoS移行後のロードマップとして、従来「シャーディング」という複数チェーン並列処理によるスケーリングを計画していました。しかし、近年は「L2(レイヤー2)ロールアップを使って処理を分散し、メインチェーンはデータ可用性(DA)に注力する」という方向にシフトしています。その大きな構想がダンクシャーディング(Danksharding)です。
Dankshardingとは、ロールアップによる大量のトランザクションデータをイーサリアムL1に安価かつ安全に投稿するための仕組みで、ブロブと呼ばれる大容量データ領域をブロックに含めつつ、ノードがデータの一部をサンプリング検証することで安全性を担保します。すでにその前段階としてEIP-4844(Proto-Danksharding)が進められ、L2上の手数料削減が期待されるのです。
つまりイーサリアムは、PoSとなったメインチェーンが「経済的セキュリティとデータ可用性」を担い、複数のL2ロールアップ(ZKロールアップやOptimisticロールアップなど)がトランザクション実行を分散処理するモジュラーアーキテクチャへ進んでいます。PoS移行とこのロールアップ戦略の組み合わせにより、将来的には数万~十数万TPSの処理を目指すというビジョンが描かれています。
ステーク集中問題
一方で、イーサリアムのPoSには大口ステーキングプール(Lidoなど)がシェアを拡大しすぎるリスクが指摘されます。実際にLido Finance1社が30%以上のバリデータキーを握る時期があり、巨大プールや取引所バリデータの存在がチェーンの検閲耐性を脅かす懸念です。また規制当局や法執行機関が特定バリデータに検閲を強要する可能性もあり、PoS化に伴う新たな課題として浮上しています。
とはいえ、PoW時代もマイニングプール寡占の問題があり、完全な分散を維持するためのコミュニティ合意と社会的努力が欠かせない点は変わりません。イーサリアムは今後もアップグレードを重ねながら、この大規模ネットワークのPoS運用をより安定化させていくでしょう。
Avalanche / Polkadot / Cosmos:新時代プラットフォームの合意設計
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