おはようございます。
web3リサーチャーのmitsuiです。
今日は「Aave LabsとAave DAOのガバナンス論争」についてリサーチしました。
ここ数週間で巻き起こっている議論で、プロトコル(DAO)と開発会社(Labs)の間の利害関係を巡る非常に良い事例だと感じましたので紹介します。
ガバナンス論争発生の経緯
フォーラムでの指摘
Aave Labsの反論
コミュニティからの反発の声が上がる
再度、Aave Labs側からの回答
現行ガバナンス構造と課題点・改善策
Aaveは誰のもの?
TL;DR
CoW Swap統合とフロントエンド手数料の取り扱いがAave LabsとDAO間の主要なガバナンス論争の発端であり、これによって従来の収益がDAOに入らずAave Labs側へ流れていると指摘されています。
コミュニティは、収益の帰属やブランド・インターフェースコントロールを巡り透明性不足と一方的な変更を批判しており、ガバナンスフォーラム上で強い反発が起きています。
Aave Labsは「プロトコルとフロントエンドの分離」「過去の手数料は寄付的なものであった」と主張し、収益配分の変更は正当だと説明していますが、論争は継続中です。
ガバナンス論争発生の経緯
今回の論争が起こったきっかけは12月4日に発表されたCoW Swapとのパートナーシップです。
Aaveはこれまで、UI上でのスワップ機能にParaswapというDEXアグリゲーターを利用していました。
2022年6月にParaswapとの提携により、Aaveのフロントエンド上でユーザーは直接トークンを交換でき、その際に発生するプラススリッページがAave DAOの収益となっていました。この収益はユーザーから追加手数料を取らずに機能し、週あたり約15万ドルもの収益がAave DAOトレジャリーに送金されていました。
しかし2025年中頃から、Aave Labsは密かにスワップ基盤をCoW Swapに切り替え始めました。2025年6月にはCoW Swap側から「AaveのスワップウィジェットがCoW Swapで駆動されている」とのアナウンスがあり、以降Paraswap経由でDAOに入金される収益が急減していました。
そして2025年12月4日、Aave Labsは公式に「CoW Swapとの提携によりAave上でのスワップ体験を向上させた」とX上で発表し、新しいスワップ機能を本格導入しました。
このCoW Swap統合ではユーザーに対し0.15~0.25%の手数料が上乗せされる設計となっており、これがParaswap時代との大きな違いです(Paraswap統合時はユーザー手数料ゼロ)。
このCoW Swap統合に際して、この手数料導入や収益配分の変更について事前にAave DAOの承認や説明は一切ありませんでした。Aave Labsは自社の開発アップデートなどでCoW Swap対応を技術的に触れたものの、「誰がその手数料を受け取るのか」は明示せず、またガバナンス提案としてDAOに確認することもありませんでした。
表向きはユーザー体験改善(MEV耐性やプライスインパクト低減)としての変更でしたが、DAO側から見れば収益源に関わる重要事項が「ステルス」に進められた形となり、透明性に欠ける対応だと問題視され、今回の論争に発展しました。
フォーラムでの指摘
これらの問題が疑問視されたのはフォーラムでの指摘がきっかけです。
2025年12月11日、Aave DAOの有力デリゲーターであるEzR3aL氏がガバナンスフォーラムにオープンレターを投稿し、CoW Swap統合後のスワップ手数料の行方について疑問を提起しました。
EzR3aL氏は自ら少額のテスト取引を行い、手数料相当のETHがAave DAO公式トレジャリーではなく、特定のプライベートアドレスに送られていることをオンチェーン解析で突き止めました。
同氏の計算では、このアドレスに各チェーンから蓄積される手数料は週あたり少なくとも20万ドル相当にのぼり、年間では約1,000万ドルという巨額の金額がDAOではなくAave Labs側に渡っていると試算されました。
加えて、この変更によりParaswapから得ていた収入が停止し、Aaveプロトコルが本来得ていたフラッシュローン手数料もCoW Swapの取引では発生していない(CoW SwapのソルバーがAaveではなくBalancer等の無料フラッシュローンを利用するため)点が指摘されています。
EzR3aL氏はこれらを「DAOにとって数千万ドル規模の損失」と捉え、Aave Labsに対し以下のような質問を投げかけました。
Aave LabsはDAOのリファラル収入を一方的に断ち切る決定を行ったのか?
Aave Labs所属の人間は本来DAOのために働くべきだが、何故断りもなく無料だった機能に手数料を課し、それまでDAOが得ていた収益を企業が得る形に改めたのか?
DAOはAave LabsにUI開発資金を払い、他のコントリビュータにも高度な機能開発を資金提供してきた。ユーザーがAaveサイトを使うのはDAO所有のプロトコル(Aave)のためだ。Aave.comドメインを利用して、本来DAOに属すべき価値をAave Labsが吸い上げているのは整合性を欠くのではないか?
CowSwapへの切替は純粋にユーザーのためか? それともAave LabsとCowSwapとの間で何らかの取引上の合意(キックバック等)があったのか?
Aave Labsがフォーラムで発表しているアップデートの中には、DAOの委任範囲で議論されていない事項が含まれている。これは何故か?(今回のCowSwap統合のように、プロトコル外の変更もフォーラムで報告するのは構わないが、DAOの管轄外である旨を明示すべきではないか)
この投稿はコミュニティ内で大きな反響を呼び、24時間足らずで多数のコメントが付きました。
特に注目されたのは「DAOが資金提供し構築したブランド資産を用いて得られる収益を、DAOの承認なしにAave Labsが取得しているのではないか?」という疑念です。
実際にはAave DAOは法人ではないため、商標を保有したり、裁判所で商標を執行したりできないため、IPを所有しません。DAOはAaveプロトコルのスマートコントラクトとオンチェーンパラメータを管理しますが、ブランド自体は管理しません。
しかし、過去のガバナンス提案では、DAOに「Aaveプロトコル、Aaveエコシステム、そしてAave DAOの利益のために」ビジュアルアイデンティティを使用する広範な権利が明示的に付与されていました。
EzR3aL氏はこの内容を引用し「AaveブランドはDAOが築き上げ資金提供してきたものであり、そのブランド力で可能になった収益に関する今回の振る舞いは、DAOに対する背信ではないか」という論調で問題提起を行いました。
Aave Labsの反論
この投稿に対して、Aave Labs公式アカウントが回答を投稿し、自社の立場を表明しました。
Aave Labsの主張は概ね以下の通りです。
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